連載地域医療の現在と未来

福岡市西区の医療課題 透析治療・リハビリテーション医療の現状と展望

公開日

2025年04月10日

更新日

2025年04月10日

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2025年04月10日

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福岡市西区は都市としての利便性がありつつ、玄界灘を有する自然が豊かなエリアである。九州大学伊都キャンパスがあり、学生や研究機関が集まる学研都市としての顔を持つ一方、糸島市にも近く、美しい海岸線や観光スポットも豊富だ。

しかし、同区の高齢化率は24.5%で、市内7区の中で3番目に高い水準となっており、特に一部の地域では高齢化率が40%を超える地域も見られる。同区の医療課題について、福岡和仁会病院の院長である有田哲彦先生にお話を伺った。

高齢化率40%超の地域も 福岡市西区の医療課題

福岡市西区は九州大学伊都キャンパスがある学術エリア、大型商業施設が集まる姪浜周辺、観光地である糸島エリアに隣接し、福岡市中心部へのアクセスも良好で、さまざまな特色を持っている地域です。

新たな人口流入もある一方で、高齢化が進んでいます。福岡市は、早良区・城南区・中央区・西区・博多区・東区・南区の7区で構成されていますが、その中で西区は高齢化率が3番目に高いのです。そのうえ、区内の5校区(通学区域)の中には、高齢化率が40%を超えている地域もあります。

福岡市としての医療課題はさまざまありますが、当区の地域で求められているのは大きく2点です。1つは、急性期を過ぎた患者さんのリハビリテーション(以下、リハビリ)に対応できる施設の不足。そしてもう1つは、透析患者さんを受け入れられる医療機関・機能が不足していることです。

急性期治療後の患者さんへの医療を手厚く

急性期病院での治療後、症状が安定した患者さんは早期に回復期リハビリ病院へ移っていただき、急性期病院では十分に提供できない充実したリハビリを受けていただくことは重要です。せっかく治療が終わっても、リハビリの開始が遅れれば身体機能の低下を招き、在宅復帰・施設復帰が困難になってしまう可能性があるからです。
急性期治療後の回復期リハビリの重要性は、高齢化の進行による医療ニーズの増加とともに年々高まっているといってよいでしょう。

しかし西区では、回復期リハビリ病床や在宅復帰支援施設の充実が十分とはいえません。その数を増やすとともに、各医療機関がそれぞれの役割分担と連携を強化し、患者さんの急性期から回復期への移行をスムーズに行えるようにすることが必要です。

また、回復期リハビリを担当する医療機関では理学療法や作業療法、言語聴覚療法を組み合わせた質の高いリハビリを提供し、患者が日常生活を自立して送れるよう支援することが必要です。退院後の生活を想定し、介護サービスや家族の支援体制の構築も必要でしょう。

当院は、急性期の治療を終えた患者さんを受け入れ、その後の治療やリハビリを行う、いわゆる“慢性期医療”の病院です。上記で必要と述べたリハビリを提供しており、地域医療の重要な担い手の自覚を持って患者さんに向き合っています。
また訪問看護や訪問リハビリテーションも行っており、外出や通院が困難な患者さんの元へ、スタッフが訪問し、看護師による支援や専門的なリハビリテーション訓練を提供しています。
これからも急性期病院やクリニックの先生方などと連携しながら、患者さんが住み慣れた環境で自立した生活を送ることができるよう、しっかりと役割を果たしていきたいと思っています。

透析患者の受け入れと地域医療格差の解消のために

西区では、慢性疾患を抱える高齢者の増加が顕著です。腎臓の病気を有する患者も増え、透析治療の需要が高まるなか、医療施設や専門医の確保が課題となっています。

透析に対応可能な医療機関は限られています。そのため、透析を行う病院やクリニックの連携が重要であると考えます。また、今後通院が困難になる方が増加すると予測されているため、在宅医療の推進についても今後さらに体制を整えることが必要であると考えています。

そのためには医療機関・体制の充実とともに、地域交通の整備や送迎サービスの導入が求められます。送迎バスや公共交通機関の改善、介護タクシーの導入など、移動負担を軽減することも、医療機関だけでなく、行政など地域と連携して検討する必要があると思います。

当院では透析センターを開設して2011年から人工透析を中心に対応しています。外来で来られる患者さんには無料送迎バスを運行しており、一人暮らしの方やお住まいの環境によってご自身で通院するのが困難な方にも来院いただけるようにしています。
また外来での透析だけでなく、透析を行いながらリハビリを受けていただける環境を整備しました。さらには長期療養目的の患者さんへの維持透析も行うことで、透析に対するさまざまなニーズに応えるようにしています。このような取り組みを通じて、地域医療の課題が少しでも解消できればと思っています。

地域包括ケアシステムを見据えた今後の展望

必要な医療を必要な方にきちんと届けるためには、地域全体で急性期病院と回復期・慢性期の医療を担当する医療機関とが役割分担をしっかりと行い、それぞれが得意な分野で対応することが大切です。
回復期・慢性期の医療を担当する当院は、今後は24時間対応できる在宅療養支援病院として体制を整え、訪問診察をしながら必要に応じて患者さんにいったん入院していただくといったような柔軟な対応を行うことで、地域の患者さんのニーズに応えたいと考えています。

それとともに、繰り返しとなりますが、当院と同じく回復期を担う医療機関をもっと増やす必要があるでしょう。

もう1つ申し上げたいのは、日常で感じる痛みは、少しのものでも継続すると生活に大きな支障をきたす、ということです。だからこそ、何か気になることがあれば、お気軽に医療機関へ声をかけられるような社会になればと思っています。
なにかお困りのことがあれば、普段からお付き合いのある医療機関にぜひ気軽にご相談ください。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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