金沢赤十字病院 院長 寺﨑修一先生
増加の一途をたどる高齢者を支えるために、急性期から在宅復帰までの一貫した医療体制が求められている。地域医療の拠点となる急性期病院は、これまで以上に近隣の医療機関との連携を強化し、地域一丸となって高齢化社会に立ち向かっていくべきだろう。
変わりつつある急性期病院の役割について、金沢赤十字病院(石川県金沢市)の院長を務める寺﨑 修一(てらさき しゅういち)先生にお話を伺った。
石川県金沢市の地域医療には、主に2つの課題があります。1つ目は「過剰な急性期病床」、2つ目は「高齢者のスムーズな在宅復帰」です。
まず1つ目の課題として、金沢市内における急性期病院の集中が挙げられます。同市内には、金沢大学附属病院や石川県立中央病院のような病床が500床を超える病院のほか、当院や済生会金沢病院など200床以上の病院が密集し、急性期の医療機能が飽和状態です。
病院が多ければ、その分、1病院あたりの医療スタッフや患者さんは少なくなってしまいます。実際に、近隣の病院からは看護師が足りていないという声をよく耳にします。また当然ながら、患者さんが少なくなるにつれて病院の経営状態が悪化するため、必要な設備投資を行う資金力がなくなり、医療の質が低下することにもなりかねません。
一方で、介護やリハビリテーションのような高齢者特有の医療ニーズはこれから増えていくことが予想されています。今後、急性期病院は地域から求められる医療機能を再考するとともに、回復期や慢性期を担う医療機関との後方連携を強化していく必要があるでしょう。
これらの課題に対して、当院は地域に必要とされる急性期医療を提供する「地域急性期」と「地域包括ケア」という2本柱で地域医療を支えられるよう努めています。
地域急性期としては、救急医療、手術、特殊治療(内視鏡や心臓カテーテル手術等)などを通じて地域に必要とされる急性期医療を提供しています。また、搬送先に迷う場合にはいったん地域の拠点である当院で診療を行い、必要に応じて高度急性期病院へ搬送するなど、トリアージを行う役目も担っています。
一方で、長年にわたり病床機能の再編に取り組んでおり、急性期病床を減らしながら地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟の拡充に努めています。これにより、今では患者さん一人ひとりに応じた適切なサポートを院内で完結できるようになりました。急性期の治療後に転院先を探さなくて済むことは、患者さんだけでなく病院側にとっても負担の軽減という点で大きなメリットです。
当院はこうした強みを生かし、大規模な病院や当院にない診療科をもつ医療機関からの患者さんを受け入れています。たとえば、金沢市立病院から脳神経外科の治療を終えた患者さんを紹介していただき、当院でリハビリテーションを行うケースもよくあります。今後も、急性期から回復期までの幅広い患者さんを受け入れ、地域の医療機関が搬送先に困らないように支援していく所存です。
2つ目の課題は、高齢者のスムーズな在宅復帰です。一般的に、高齢の患者さんは複数の病気を抱える割合が多く、治療期間が長引く傾向にあります。そのため、急性期の治療後もリハビリテーションや療養を行い、在宅復帰まで継続的にサポートしていかなければなりません。また持続的な医療の実現に向けて、高齢者の入退院にかかる職員の負担にも目を向けていくべきでしょう。
当院の場合、入院患者の大半を占めるのは高齢者で、そのうち約3割の方は2週間以上の長期入院です。病床を有効に活用するために高齢者施設や療養型病院などとの後方連携に頼ることもありますが、院内の地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟を活用し、ほとんどの患者さんを在宅復帰まで支援しています。
患者さんの在宅復帰に向けたリハビリテーションにおいては、チーム医療が欠かせません。当院では理学療法士、言語聴覚士、作業療法士などの多職種が連携し、退院後のQOL(生活の質)向上を見据えて、質の高いリハビリテーションを提供しています。急性期から回復期までのワンストップの医療体制は、患者さんの安心感にもつながっています。
そのほか当院では「患者サポートセンター」を設置し、看護師やソーシャルワーカーが中心となって、地域の医療機関や高齢者施設との橋渡し役を担うようになりました。これによって、医師は退院の許可を出すだけで済むようになり、以前にも増して診療に集中できるうえ、入退院に関する相談事をサポートセンターで一貫して対応することで、職員の負担も軽減しています。
病気で苦しむ高齢の方にとって、最も切実な問題は受け入れ先の有無です。当院は、困っている人に手を差し伸べる赤十字病院として、ほかの医療機関では対応できない患者さんの最後の砦でありたいと思っています。
当院はこれからも医療機能の見直しに取り組んでまいりますが、全国的に見ると病院側と地域の実情にまだまだ乖離(かいり)が見られます。待ったなしの高齢者医療に対応できるよう、それぞれの病院が地域のニーズをしっかり反映し、「治す医療」から「支える医療」へとシフトしていくべきではないでしょうか。
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