連載地域医療の現在と未来

高齢化・過疎・救急医療体制の偏り……佐世保県北医療圏の「いま」と「これから」

公開日

2025年06月17日

更新日

2025年06月17日

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2025年06月17日

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佐世保市総合医療センター 理事長兼院長 中尾一彦先生

佐世保地域は、明治時代に軍港として発展したエリアで、米軍基地があることでも知られている。そのため、国内外の多様な背景を持つ人が暮らす特色のある地域といえる。

そんな佐世保の医療圏は広範囲で、高度な医療を提供する病院を中心に地域医療を支えているが、救急医療体制の偏りや病院の経営問題、離島・僻地の医療過疎や医師不足が課題だ。

このような状況のなか、地域医療を維持するため、病院間の連携や機能分担が進められている。佐世保地域が抱える課題と、その課題解決へ向けた取り組みについて、佐世保市総合医療センター(長崎県佐世保市)で理事長兼院長を務める中尾一彦(なかおかずひこ)先生にお話を伺った。

佐世保県北医療圏の現状と直面する3つの課題

当センターが属する佐世保県北医療圏は、佐世保市を含む県北部、島しょ部、そして佐賀県の一部を含む広範囲に及んでいます。そのため、さまざまな医療ニーズに対応できる体制が求められますが、がん診療や周産期医療、ロボット支援手術といった専門性の高い医療に対応できる病院は限られています。

そんな当医療圏の課題は、「救急医療体制の偏り」、「病院経営の課題」、「県北部、島しょ部の医療過疎」の3つであると考えています。

救急医療体制の偏り解消が急務

当医療圏では、三次救急(特に緊急性の高い重症患者、複数診療科領域にわたる重篤な患者さんに対応)医療機関は当センターのみです。二次救急(入院や手術を要する重症患者さんに対応)医療機関は10院ほどあり、輪番制で救急患者さんを受け入れていますが、マンパワーが限られていることもあり、重症患者さんの搬送は、当センターへ集中しがちです。

本来は三次救急に特化すべき当センターですが、先述のとおり、現状では十分な受け入れ体制でないため、当センターは、佐世保中央病院、佐世保共済病院、長崎労災病院と共に二次救急も分担して受け入れているのが現状です。

当センターにおいても、常勤医師のみで救急医療を支えるのは困難であり、外部の医療機関から派遣された救命救急医に初期対応をしていただき、入院が必要となれば当センターの医師が対応するようにしています。このような体制を敷くことで、当医療圏内で治療が完結できるようになっています。

現在はこのような救急医療体制をとっていますが、恒久的な対策としては救命救急医の確保が重要です。大学病院などと連携して救命救急医の派遣や育成を強化することで、専門的な知識と技術を持つ医師を確保し、救急医療の質を高めることが可能になると考えます。

また、医師の業務をコメディカルスタッフ(看護師や薬剤師など医師以外の医療従事者)へ移譲するといったタスクシフトにより医師の負担を軽減することも進めていかなければなりません。そうすることで、医師がより専門性の高い医療行為に集中できる環境が整います。

これらの対策に地域全体・医療機関全体で取り組み、この佐世保県北医療圏の救急医療体制を維持していくことが重要です。

なお当センターとしては、強みであるがん診療や小児周産期医療、ダ・ヴィンチ手術(ロボット支援手術)をはじめ、今後計画しているSCU(ストローク・ケア・ユニット:脳梗塞(のうこうそく)、脳出血、くも膜下出血など脳血管障害の急性期に対する集中治療室)などへの取り組みで、救急医療の偏り、当医療圏において不足している部分を担えるよう、よりいっそうの努力を続けています。

病院経営の健全化を目指す取り組み

地域の病院は医薬品費、医療材料費の高騰、人件費の増加、そして過疎化による患者数減少により厳しい経営状況に陥っており、当センターも例外ではありません。このような病院経営の課題に対しては、医療機能の集約化と経営の効率化を図るための病院の再編・統合も議論されていますが、一朝一夕には実現できません。近隣の病院と連携し、それぞれの強みを活かした医療機能の分担や、共同での医療材料の調達などを行うことで、経営の合理化を図るのが現実的な対策と考えています。

また、当センターでは診療科ごとの収益を分析して経営改善を図り、さらに病床削減を進めて、医療需要に応じた適正な病院規模への移行も進めているところです。

そのほか、地域包括ケアシステム(医療や介護、福祉などの支援・サービスを地域で包括的に提供するための体制)を推進することで、患者さんのニーズに合わせた医療を提供すると同時に、医療スタッフの業務効率を向上し、病院の経営改善にもつなげています。

離島・僻地における深刻な医師不足への対応

佐世保県北医療圏の離島では高齢化と過疎化が進行しており、特に宇久島などの診療所では、医師の確保が困難になっています。

この問題に対しては、遠隔医療の導入により地理的な制約を克服することなどが重要です。ICTを活用した遠隔医療システムを構築することで、医療へのアクセスが困難な離島や僻地でも、市内の病院同様の質の高い医療を受けられるようになることが期待できます。

また、医師の派遣・育成も不可欠です。大学病院や都市部の病院から離島などの過疎地域に医師を派遣し地域医療を支援するとともに、地域への貢献を志望する医師の育成にも力を入れる必要があります。この地域で医療に従事することに魅力を感じ、長期的に貢献してくれる人材を育成するためのキャリアパスや、研修制度を整備することが重要です。

当センターとしては、島しょ部の医師不足に対する解決策の1つとして、宇久島と黒島、高島に診療所を設置し、島民の方々の診療を行っています。現在、宇久島では週5日、黒島、高島ではそれぞれ週3日、週1日開院しており、当センター所属の医師が診療しています。

地域医療の未来に向けて――地域連携と患者さん中心のアプローチを

佐世保地域における課題解決については、他医療機関との地域連携が不可欠です。当センターもその一翼を担えるよう努力するとともに、患者さんに優しい医療、患者さん第一の診療を行えるように、今後も体制の強化に努めたいと考えています。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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