近畿大学奈良病院 村木 正人病院長
埼玉県や千葉県に次いで、奈良県は全国でも県外就業率が高い地域として知られる(2020年時点)。そのため、少子化とあいまって働き手が慢性的に不足し、医療の担い手も逼迫(ひっぱく)している状況だ。一方で、全国同様に高齢化が進行していることから、高齢者医療への対応も喫緊の課題となる。
少子高齢化に伴うさまざまな問題に対して、地域の医療機関はどのように取り組んでいるのだろうか。近畿大学奈良病院(奈良県生駒市)の病院長を務める村木 正人(むらき まさと)先生に聞いた。
奈良県は5つの医療圏から構成され、そのうち県北西部の西和医療圏では2つの医療課題を抱えています。1つ目は医療人材について、2つ目は高齢者医療への対応についてです。
1つ目の課題は、少子化と地域の産業構造によってもたらされる医療人材の逼迫です。同県は従事できる産業や企業が比較的少なく、隣接する大阪府などに働きに出るケースが多いため、若い世代を中心に昼間人口が低迷しています。中でも西和医療圏に含まれる生駒市の県外就業率は50%を上回っており、およそ2人に1人が県外で働いている計算になります(2020年時点)。医師も同じように、大阪府などで働く人が多い状況です。
地域医療の施策として奈良県にある3病院を対象に計174床の増床が計画されましたが、医療人材の確保が最大のハードルとなるでしょう。幸いにも当院は近畿大学病院の関連病院であり医局からの派遣に支えられているほか、他大学から研修に来られる医師もいます。しかし、そのような状況に甘んじることなく、さらに働きやすい職場づくりによって若手の医師を呼び込めるように努めています。
2つ目の課題である高齢化医療への対応も重要です。奈良県の救急搬送に占める高齢者の割合はすでに6割を超え、今こそ時代に合った救急医療の体制が求められています(2021年時点)。また、75歳以上の後期高齢者の増加により、今後はQOL(生活の質)を重視した緩和ケアにも力を入れるべきでしょう。
このような高齢者医療のニーズに対して、当院は幅広く救急搬送を受け入れ、後方病院へとつなぐ役割を積極的に担っています。救急医療においては、何よりスピーディーな初動が肝心です。そこで当院は「腹部救急・消化器ホットライン」「循環器ホットライン」「連携登録医ホットライン」という3つの直通電話を他の医療機関との間に設け、迅速な救急医療に徹しています。
少子高齢化の社会では、限られた医療資源で多様化する医療ニーズに応えていく必要があります。そのためには、かかりつけ医を担う医療機関と急性期病院が連携し、それぞれの強みを生かした役割分担を進めることが何より重要です。
たとえば当院では地域医療支援病院(紹介された患者への医療提供や医療機器の共同利用などの実施を通じてかかりつけ医を支援する病院)として、連携登録医制度によって500か所以上の医療施設とつながり、紹介や逆紹介による効率的な医療活動を行っています。これによって急性期から慢性期までのシームレスな医療体制を地域ぐるみで整え、患者さんが医療に迷わないようなサポートを進めているところです。
今後も当院は大学病院ならではの新しい治療や新しい機器による医療を提供するとともに、地域の医療機関と共に奈良県北西部に住む皆さんがいつまでも安心して暮らせる医療体制の構築を進めていきます。
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