東京都立大塚病院 院長 三部 順也先生
東京都の中でも多様な特性を持つ区西北部医療圏(豊島区、北区、板橋区、練馬区)は、高齢化の進行や医療圏の境界が曖昧な東京都の特性、さらには外国人患者の増加といった医療課題に直面している。これに対して地域の病院はどのような対応を進めているのだろうか。
東京都立大塚病院の院長、三部 順也(みべ じゅんや)先生に話を伺った。
都立大塚病院が位置する区西北部医療圏は、豊島区・北区・板橋区・練馬区から構成され、各区に基幹的な病院が設置されています。都心へのアクセスが良好なことから、患者さんは医療圏を越えて医療機関を選択する傾向があり、都心部の大学病院やがんを専門とする病院へ流れるケースも少なくありません。
このような区西北部医療圏において現在、いくつかの課題が顕在化しています。まずは、高齢化の進行に対応したご高齢の方への医療についてです。たとえば、この地域では回復期病床の不足が顕在化しています。また、高齢化に伴って増えつつある在宅医療のニーズも課題です。今後も高齢化はさらに進むため、こういった課題に対して今から対応する必要があるでしょう。
また東京都の救急医療では、医療圏を越えて救急車が移動し、広域的に救急搬送が行われるという特徴があります。これにはよい面が多々ありますが、一方で課題もあると考えています。
さらに、池袋を抱える豊島区では外国人居住者が多く、言語的・文化的な壁が、医療現場でのコミュニケーションを難しくしています。これについても早急に解決したいと考えています。
これらの課題について、順番に説明していきましょう。
この地域では、ご高齢の患者さんの救急搬送が増加傾向にあります。しかし、当医療圏では急性期治療後の「受け皿」となる回復期病床は十分に確保されているとはいえない状況です。
そもそもご高齢の患者さんは複数の慢性疾患を抱えていたり、治療後のリハビリテーションに長期間を要したりするため、医療と介護の中間的な役割を担う回復期病床は不可欠ですが、その数が足りないと、急性期の治療が終わった患者さんが行き先に困るケースが出てきてしまいます。そういった患者さんの中にはご家族も高齢であるために通院が困難な方もおり、急性期の病院に長期入院せざるを得ないこともあります。この現状を解決するには、回復期の病床をより充実させる必要があるでしょう。
これに対して当院では、ソーシャルワーカーや医療連携の担当者が他の医療機関との連携を密にすることや、地域のかかりつけの先生方に向けた研修会を実施することでつながりを強化し、転院先の確保を図っています。
また昨今は、医療機関へ通うのではなく在宅での診療を希望される方も増えています。これに合わせ、診療報酬でも在宅医療に重点が置かれるようになっており、実際に区西北部医療圏では往診に対応する医師が増えています。当院でも訪問看護ステーションとの連携を進めて、できるところからこのニーズに対応しているところです。
2つ目の課題は、区西北部医療圏というより、東京都全体の課題といえるかもしれません。東京都の救急医療では医療圏を越えた救急搬送を行っています。
このようななかで当院は他の病院との連携を強めて救急の患者さんの受け入れを進めています。特に母体搬送や新生児搬送を多く受け入れていますし、また合併症のある患者さんや複数の病気を抱える患者さんも積極的に受け入れています。
さらには地域のクリニックとの連携強化も進めており、緊急の紹介患者さんを迅速に受け入れるため、地域の医療機関からの依頼の電話を受けた際には、直接当院の医師につなぐ運用を行っています。これにより、現場の対応速度が向上し、地域全体の医療連携が円滑になりつつある状況です。
3つ目の課題である外国人患者さんへの医療は、近年重要性が増しています。当院がある豊島区周辺には多くの外国人居住者がおり、特にアジア系の方を中心にさまざまなバックグラウンドを持つ方々が日常的に当院へ訪れています。
外国人患者さんへの対応では、まず言語の壁が大きな課題です。特に手術前のインフォームド・コンセントでは、より慎重かつ丁寧な説明が求められます。通訳を介したやりとりや、翻訳アプリを用いた説明が必要となる場面も多く、診療時間の延長につながっています。
そこで当院では病院全体で外国人患者さんの対応ができる体制を整備しています。今後も、外国語版の問診票を作成するとともに院内各所に翻訳ツールを配置するなど、外国人患者さんが安心して適切な医療を受けられる環境づくりを続けていく所存です。
ここまで挙げた課題の解決に向けて、一際重要となるのは、地域内での医療機関同士の連携ではないでしょうか。その一例として、当院の周産期医療での連携を紹介したいと思います。
当院はNICU(新生児集中治療管理室)15床、MFICU(母体・胎児集中治療管理室)9床を備えた東京都の総合周産期母子医療センターであり、ハイリスク妊娠や新生児、小児の救急疾患の対応を担っています。この責務を果たすために構築したのが、“大塚モデル”と呼ばれる地域の産婦人科クリニックとの緊密な連携システムです。このシステムでは妊娠34週までの管理をクリニックで行い、それ以降の管理や出産を当院が担当することで、地域全体でより安全な周産期医療を提供しています。
これからの地域医療は、人と人とのつながりに支えられていくと考えています。我々は地域の患者さんを大切にする視点を常に忘れず、地域の医療機関との連携を進め、よりよい医療を提供していきたいと考えています。
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