連載地域医療の現在と未来

「高齢化率33%、出生数は減少」――鹿児島の地域医療の課題とその処方箋とは

公開日

2026年02月05日

更新日

2026年02月05日

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2026年02月05日

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鹿児島市立病院 坪内 博仁院長(鹿児島市立病院ご提供)

国は2025年を目指して地域医療構想を策定し、その医療提供体制の整備を目指してきた。病床数の適正化では一定の成果が得られたものの、達成度は地域により異なり、鹿児島医療圏(鹿児島市、日置市、いちき串木野市、三島村、十島村)では過剰な急性期病床の適正化は達成できていない。

また、ポストコロナ時代、加えて出生数の減少と多死時代を迎え、国は2040年に向け「新たな地域医療構想」を検討している。鹿児島県では、想定を超えるスピードで出生数の減少、高齢化率の上昇が進み、急性期の患者が減少し、働き方改革とあいまって、急性期医療に大きな課題をもたらしている。

人口約58万人(2024年4月時点)の鹿児島市で県の中核的な病院として急性期医療を担う鹿児島市立病院(鹿児島県鹿児島市)の坪内 博仁(つぼうち ひろひと)院長に、同県の急性期医療の実情と課題についてお話を伺った。

鹿児島の地域医療における課題

鹿児島県では今、いくつかの地域医療の課題に直面しています。地域医療を考えるには、地域の医療の特性を十分理解しておくことが必要です。鹿児島県の医療の特性は、大規模な公的医療機関が乏しいことです。500床を超える公的病院は、大学病院と当院だけです。当院は県都鹿児島市にあって、救命救急センター、総合周産期母子医療センター、小児救急拠点病院、基幹災害拠点病院など、いわゆる県立中央病院的な役割を担っています。市立病院のかじ取りを長くさせていただいて、現在の鹿児島県の医療の課題をいくつか感じています。

働き方改革と救急医療

まず、救急医療における働き方改革の影響についてです。日本医師会のアンケート調査では約8割の病院が救急医療の縮小・撤退に対しての懸念はないと回答し、懸念があると回答した病院はわずか2割にとどまりました。この結果からは、働き方改革の救急医療への影響はそれほど大きくないように見えますが、一概にそうとは言い切れません。改革に対応できている病院の多くは「宿日直許可」を受けていると考えています。

宿日直とは、軽い業務を夜間や休日に行う場合、その時間を労働時間とみなさずに済む制度で、一定の条件を満たせば労働基準監督署によって認められます。アンケートで救急医療での懸念はないと答えた病院の多くはこの許可を得ており、医療職に夜間や休日の勤務に就いてもらっているのだと思います。

一方、当院のように救命救急センターを持ち、24時間体制でほぼ全ての領域の救急疾患に対し二次救急医療(手術や入院が必要な患者さんへの救急医療)、三次救急医療(命に関わる重症な患者さんへの救急医療)を提供している病院は、診療内容が重く、宿日直の「軽い業務」という条件を満たさないため、多くの診療科で宿日直許可が得られません。その結果、夜間や休日の勤務は人件費が高い時間外勤務になることから、これを抑えるためにシフト制への移行が必要です。

救命救急センターでのシフト制勤務の難しさ

しかし、シフト制にも課題があります。救急対応を行わない病院の場合、業務の単位として1日8時間を1コマとすると、土日を除く週5コマ、計40時間が標準的な業務時間になります。一方、24時間救急を担っている診療科の業務量は1日3交代×週7日=21コマになります。すなわち、外来だけで4.2倍の医師が必要となり、増員が必要になるのです。

もちろん医師を増員すればシフト制への移行はできますが、診療する患者さんが変わることはないので、単に人件費が増えるだけです。ですが、医師の増員ができないと医師1人当たりの時間外勤務が大幅に増えてしまいます。結局はシフト制をとらざるを得ません。

当院の場合は救急科、脳神経内科・外科、循環器内科、集中治療科が各1人、小児科、産科、新生児内科が各2人、24時間体制で院内にいますが、宿日直許可が下りず、全てシフト制で対応しています。また医師だけでなく技師もほとんどの時間帯で2人体制となっており、臨床工学技士は宿日直許可が得られましたが、放射線技師や臨床検査技師は宿日直許可が下りず、増員してシフト制に移行し、大幅な人件費の増加を招いています。救急医療における人件費の増加は、大変厳しい経営状況の要因となっています。

救命救急センターへの財政支援を

私は、今回の働き方改革が、週5コマの業務量を前提に設計されている点に疑問を抱いています。当院のように週21コマもの業務を担う病院が、同じ基準で運用されることには無理があるのではないでしょうか。

実際、当院は小児や周産期をはじめ、頻度の高い救急疾患に対応できるよう、多くの診療科の医師を配置しており、これこそが救命救急センターとして質の高い救命救急医療を提供できている要因でもあります。全国でも似た状況の病院は県立中央病院など一部の中核的な病院に限られ、その数は全体では極めて少なく、この実情が声になって届かない状況です。しかし、妊婦、新生児などの周産期、小児救急に象徴されるように、我々のような病院はその地域ではほぼ唯一無二の機能を持っており、不採算だからとい言ってこれらの医療をやめるわけにはいきられません。だからこそ、実際に多くの医療資源を投入して救命救急を支えている病院には、しっかりした財政支援をお願いしたいと思っています。

鹿児島における高齢者救急の課題

次に、救急医療には高齢者救急患者の増加という問題があります。鹿児島県の2023年の高齢化率は33.8%で全国平均の29.1%を上回っており、2050年には41.2%に達する見込みです。それに伴いご高齢の方の救急搬送も増加しており、鹿児島県が公表している消防年表によると、2022年中に救急搬送された65歳以上の高齢者は56,572名で、2007年の34,603名から著しく増えました。

当院でのご高齢の患者さんの状況を見ると、2025年の4、5月に救急車で搬送され、入院された患者さんは月あたり約360人で、そのうち75歳以上は約145人で40%を占めました。また、85歳以上は約64人で20%弱です。特に金曜の夜から月曜の朝までは鹿児島市内であっても対応できる病院が少なく、当院が引き受けざるを得ない状況になっており、救命救急センターとしての機能に影響が出ています。

これらのご高齢の患者さんは誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)、心不全、骨折が多く、特に肺炎の患者さんが多いことが特徴です。しかも、肺炎の患者さんはADL(日常生活動作:Activities of Daily Living)が低下している全介助の施設に入所されている方が多く、中にはDNR(心肺蘇生を試みない患者:Do Not Resuscitate)指示のある患者さんも含まれ、救命治療はせず、転院調整の間にお看取りをすることもあります。

厚生労働省では、ご高齢の誤嚥性肺炎などの患者さんは急性期一般病棟や地域包括ケア病棟などで受け入れ、命に関わる重症の患者さんに対応する救命救急センターの機能が損なわれることがない体制を作ろうとしています。そういった病棟では、リハビリテーションや栄養面での管理が早期の退院に重要です。

しかし鹿児島県では、その取り組みはほとんど進んでいません。この問題の解決には、行政、医療機関、高齢者施設、消防局などの関係者が現状とお互いの立場を理解して、高齢者救急患者にどう具体的に対応するかのプランを策定することが大事です。なるべく早く、そういう場ができることを願っています。

出生数の減少と地域の周産期医療の課題

次に、想定を超える出生数の減少の問題です。全国的に分娩数が減少していることは周知の事実ですが、それに伴い、分娩を休止する病院が増えて分娩施設数が著しく減少してきています。鹿児島県の出生数は、2013年の14,637人から2023年には9,867人と約33%減少し、さらに少子化が進んでいます。

鹿児島県では総合母子周産期母子医療センターの当院に加えて、地域周産期母子医療センターとして鹿児島市内に大学病院と公益社団病院の2つの病院、鹿児島市外に2つの県立病院があり、周産期医療を提供しています。そして昨年(2025年)、鹿児島市内の公益社団法人の病院が7月で分娩を中止することを公表しました。

その要因は分娩患者数が減少し、経営的に継続が困難ということです。また、緊急時の帝王切開に対応する医師の確保が困難ということも理由の1つと聞いています。医師の確保が困難な理由には、産科医の不足や働き方改革による時間外勤務の規制もあるでしょう。それに加えて重要なことは、医師を確保できても人件費が増大し、赤字になり得ることです。併せて、分娩中止に至った病院は新生児のNICU(新生児集中治療室)9床、GCU(発育発達支援室)12床を持っていますが、稼働率の低下や看護師の確保困難という理由で、病床を削減して運用しているとのことです。

この病院での分娩の中止は、近い将来、同院でNICUやGCUの維持が困難になることにつながる可能性があります。その場合、NICUがあるのは鹿児島県では当院と大学病院の2施設だけになってしまうので、関係者の間に不安が広がっています。

当院の新生児内科は長い間、NICU36床、GCU 12床を含む80床を運用していましたが、入院患者数が1日あたり50~60人に減少していることから、現在はNICU30床、GCU35床を運用しています。産婦人科医も新生児内科医も、常時それぞれ院内に2人おり、緊急帝王切開や低出生体重児への対応などハイリスクな母体や胎児への対応を含む総合周産期医療を支えています。しかしながら、当院でも患者減の一方で働き方改革による給与費の増大から、周産期に関しては病院経営を圧迫している状況となっています。

患者さんの減少に対しては集約化(医療資源を効率的に活用するため、特定の医療機能を特定の病院に集中させること)で対応することが一般的ですが、すでに集約化が進んでいる鹿児島県の周産期医療は打つ手が限られており、さらに厳しい状況になっています。少子化はわが国の大きな課題であり、周産期医療は少子化対策の有効な手段ですが、現状の診療報酬では周産期医療の維持が困難になってきていることは深刻な問題です。国の少子化対策の一環として、周産期医療には診療報酬以外の恒常的な財政支援が必要になっていると感じます。

鹿児島県の新しい地域医療構想の在り方

最後に、今後の急性期の地域医療の在り方について2点、私の考えをお話しします。

大学病院では、専門医制度の中で各診療科が専門医を育成しています。私も大学教授になった30年ほど前には、専門医を育成して、地域の中核的な病院に医師を派遣して地域医療に貢献することが使命だと思っていました。実際、私が教授を務めた鹿児島大学医学部の消化器内科からは県下の中核的な病院に90名程度の常勤医師を派遣していました。現在でも、600床近くの当院の200名の医師のうち、約150名の専門医や専攻医は鹿児島大学病院から派遣してもらっています。私は、この派遣方法をより緻密に進める必要があると考えています。

現在の医療制度(DPC制度)では、多くの病院が患者数、平均在院日数、1床あたりの単価、手術件数、救急車受け入れ件数などのデータを公開しており、このデータから医療圏に現在、大腸がんであれ、脳卒中であれ、心筋梗塞(しんきんこうそく)であれ、患者さんが何人いるか、手術やカテーテル治療を何人が受けているか分かり、また今後どうなるかも予測できます。

今後はそういったデータに基づいて地域に必要な専門医数をはじき出し、大学病院の医師派遣能力と照らし合わせて、急性期医療体制を作るべきでしょう。そのためには、大学病院の診療科の先生方がそれらのデータを知り、大学病院全体として地域医療に責任を負うという姿勢が重要だと思います。私もかつてはそうでしたが、現状ではそれらの地域医療のデータが大学の教授の先生方の目に触れる機会はほとんどありません。行政がもっとこれらのデータを提供する必要があるのではないでしょうか。

また、鹿児島県では急激な人口減少のなかで、地方の中核的な病院の再編・統合や診療機能の適正化が避けられない課題です。その取り組みも遅々として進んでいません。地域の病院の再編統合は医療機能の集約化でもありますが、これは大学病院のリーダーシップなしには達成できません。それは、新しい地域医療構想の課題でもあり、行政、大学病院、医師会や医療機関などが一緒に考える課題だと思います。

総合診療医の育成に注力を

もう1点、総合診療医の育成についても提言があります。
地域医療において、今後は総合診療医の存在感が高まっていくでしょう。たとえば当院の救命救急センターでは、金曜日~月曜日の朝までに、二次、三次救急を中心に約50件の救急車搬送を含め約100人の患者さんが来院され、半数の約50人が10を超える診療科に入院して治療されています。どの診療科で治療を行うかを決めているのは、当院の場合、総合診療医ではなく救急科の医師です。救急外来では限られた情報と時間のなかで、重症度や緊急度を見極め、必要な診療科につなぐ判断が求められます。

一方で、救急専門医は数が多いわけではなく、鹿児島県の地方に多くはいないのが実情です。地方の病院では医師数そのものが限られ、それぞれが自分の専門領域だけを診る体制では、地域の医療を支えきれません。救急の現場で入口を支え、必要に応じて幅広く診立て、適切につなぐ役割を担える医師、総合診療医を育てていくことが、これからますます重要になると思います。

しかし、大学病院の内科・外科は臓器別になっており、総合診療医の育成は難しい状況です。総合診療医の育成には当院のような救命救急センターを持つ病院が適しており、ぜひこれからの総合診療医の育成には救命救急センターを活用してほしいと願っています。

鹿児島県の地域医療を未来へつなぐために

地域の実情に即した医療提供を維持することは、今やどの地域でも共通の課題といえます。鹿児島県においても、急性期患者の減少や高齢化、医師不足、働き方改革、厳しい経営状況などの要素が複合的に絡み合い、地域医療の維持はますます困難さを増しています。

そうしたなかで、鹿児島市立病院は、大学病院と共に急性期医療の拠点として、市民、県民の命を守る最後の砦の役割を担っています。特に、救急医療、総合周産期医療、および小児救急医療では大きな役割を果たしています。今後も地域に求められる医療を守り続けるために、診療体制の充実を図るだけでなく、行政や大学、他の医療機関と協力し、地域全体の医療体制をよりよい方向へと進めていきたいと考えています。

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