連載地域医療の現在と未来

救急搬送を適切な医療機関で受け入れるには? 宇都宮市での新たな取り組み

公開日

2025年03月12日

更新日

2025年03月12日

更新履歴
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救急医療は重症度に応じて一次救急(軽症患者への救急医療)、二次救急(手術や入院が必要な重症患者への救急医療)、三次救急(生命に関わる重症患者への救急医療)に分類され、それぞれ対応する医療機関も決まっている。しかし救急現場ではその区別が必ずしも明確ではなく、搬送された患者の状況に合わせ、病院で可能な限りの対応が求められることがある。その結果、治療に時間がかかり、非効率な対応につながるケースもあるという。

高齢化に伴い救急搬送の件数が増加するなか、効率的な救急医療体制の構築は急務といえるだろう。さらに、搬送される高齢者は複数の病気を抱えていることも多く、それに対する適切な治療も求められる。

こうした課題に対し、地域の病院はどのように取り組むべきか。栃木県宇都宮市で二次救急を担う栃木医療センターの院長、石原 雅行(いしはら まさゆき)先生にお話を伺った。

夜間休日診療所を強化し、適正な救急医療へ

栃木県宇都宮市は人口50万人を超えますが、大きな病院が少ないため、ほかの地域よりも病院同士の連携に時間や労力がかかるという課題があります。また、もう1つの課題として、少子高齢化の進展に合わせて増えているご高齢の方の救急医療ニーズへの対応も急務となっています。

1つ目の課題である病院同士の連携においては、真っ先に一次救急がひっ迫している状況を改善する必要があるでしょう。宇都宮市内で夜間や休日に一次救急対応を行えるのは宇都宮市夜間休日救急診療所しかありません。そもそも一次救急を受け入れられるキャパシティが少ないのです。

また近年、患者さんはより充実した検査を受けられる医療機関を自ら探す傾向があり、一次救急の診療所ではなく当院のような二次救急の病院に直接来院される方が増えています。
それによって二次救急の病院が対応に追われて、本来は二次救急で対応していた患者さんが三次救急に流れ、同じパターンで三次救急の患者さんが医療圏外に流れるといった悪循環に陥っています。このような状況は医療現場の混乱を招くだけでなく、患者さんにとっても待ち時間が長くなったり、適切な医療施設で治療を受けられなくなったりという事態を招いてしまいます。

対策としては、設立後年数が経った宇都宮市夜間休日救急診療所をリニューアルして診断設備を増強することが考えられますが、資金面の問題から実現は難しいでしょう。効率性を考えて、二次救急を担う病院が夜間休日診療所を誘致し、高度な医療設備を共同利用する形が望ましいと考えています。

その場合、夜間休日診療所は開業医の先生が主体の医師会が運営することになりますが、もし専門的な医療機器を使い慣れていなかったとしても二次救急の病院がサポートすることができます。また、充実した設備によって従来の一次救急の枠を越えた診療を行うことで、患者さんの満足度も向上するはずです。

こうした体制の構築は、一次救急のひっ迫に起因する一連の問題に対して有効な打開策となるでしょう。実際に宇都宮市では、宇都宮市医師会が中心となって実現に向けて取り組んでいるところです。

幅広い高齢者医療に対応する救急医と総合診療医

2つ目の課題であるご高齢の方の救急医療への対応も、早急に強化していく必要があるでしょう。
高齢化の進展に伴って、今後は入院治療が必要となる高齢の救急患者さんが増えていくと予想されます。このような患者さんの多くは複数の病気を抱えており、救急医療と並行してそれらの治療も行う必要があります。こういった患者さんの多くは二次救急を担う病院に搬送されることが多く、これらの病院では診断の段階で全身の状態を正確に把握し、どの診療科がどの治療を担当するべきかを迅速かつ的確に判断することが求められます。

この課題への対策としては、幅広い病気を診ることができる救急医や総合診療医の拡充が挙げられます。当院でも救急医や総合内科(内科医と総合診療医で構成)の医師が二次救急に対応し、幅広い症例に対応できる体制を整えました。今後、宇都宮市内で二次救急を担当している多くの病院で救急医と総合診療医が救急の入口を担う必要があるでしょう。

医療ニーズが多様化するなか、専門的な診療と総合的な診療のバランスをとりながら医療資源を有効に活用していくべきではないでしょうか。

地域医療の全体最適解を目指して

地域の医療資源は限られているため、それぞれの病院が個別に最適解を求めるのではなく、地域医療全体を考えたうえでの全体最適解を目指していくべきでしょう。

すでにこうした流れは全国各地で進展しており、医療機関の機能分化や統廃合などを通じて医療資源の集約化が行われています。

地域医療の全体最適化を推進すれば、中には一部の病院にとっては不都合なことが起きてしまうかもしれません。しかし、そのような場合でも地域医療の向上を第一優先に積極的に検討していくべきでしょう。持続的な地域医療を実現するため、今こそ変わりゆく時代に沿った医療体制を構築していかなければならないと考えています。

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