連載地域医療の現在と未来

救急患者増加で病床機能再編に課題が生じた名古屋市―その対応策とは

公開日

2025年03月07日

更新日

2025年03月07日

更新履歴
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全国的に高齢化が進む中、地域によっては高齢者の救急患者が増加し、病院の救急対応が追いつかないという課題が顕在している。その背景を探ると、高齢者の救急の患者は他の病気を持つことが多いことや、急性期の病院での治療が終わった後も引き続きそこでの治療を希望するケースが多いことなどが原因として挙げられるという。
そのような地域の1つである名古屋市での状況や今後の見通しについて、愛知県病院協会会長で日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院(愛知県名古屋市昭和区)の院長を務める佐藤 公治(さとう こうじ)先生と、同院の副院長を務める渡井 至彦(わたらい よしひこ)先生に伺った。

写真右:佐藤公治院長 写真左:渡井至彦副院長

重症な患者さんを受け入れられないことも

高齢化が進むと、病気になる方が増えるのは避けられません。救急車の利用者数も増加傾向にあり、名古屋市でも同様です。当院の場合、2021年度には9,992人の救急患者さんを受け入れていましたが、2023年度は12,503人にまで増加しました。この増加の背景には、単なる高齢化だけではなく、救急搬送における軽症患者の割合が増えてきていることが大きな要因として挙げられます。

たとえ軽症でも、ご高齢の患者さんが入院を希望されるケースは少なくありません。そのような患者さんを受け入れていくと、ベッドが空いていないためにより重症な救急の患者さんを受け入れられない、といった事態が生じる可能性があります。また、ご高齢の患者さんの多くは、救急搬送の原因となった病気以外にも複数の病気を抱えている方が多く、それら全てに対応できる医療機関が限られることも課題でしょう。
さらに、原因の病気の治療が終わったとしても、入院での運動量の低下により心身の機能が衰えていく“廃用症候群”が進行し、介護認定の判定が上がってしまうことで退院が遅れる場合もあります。

こうした問題を解決するには、救急を担当する各病院の救急外来のオペレーションを改善し入院期間を短縮化する取り組みが求められます。また、患者さんのADL(日常生活動作)を低下させないリハビリテーションに取り組む必要があります。

たとえば当院では、夜間にMRIなどの専門的な検査を行える体制を整備し、医師を増やす、より低侵襲(体への負担が少ない)な治療を行うなどで早期の退院を目指しています。さらに、患者さんには早くからリハビリテーション・栄養・口腔連携体制をはじめとしたリハビリを土日も継続して行うことで、早期退院につなげるようにしています。

早期退院を増やし、より多くの患者を受け入れる

患者さんに早期に退院いただくためには、どこまで回復されたら退院するのが適切かの判断も重要です。一般的に退院許可のタイミングは医師の判断に任されますが、なかには医療の範疇(はんちゅう)を超えて入院治療を継続される患者さんもいらっしゃいます。

ここで重要になるのが、患者さん皆さんに、病院ごとの役割分担をご理解いただくことです。
現在は病院によって医療における役割が違い、患者さんの状況によっては急性期病院ではなく、リハビリテーションを中心的に行う病院に行っていただくほうが社会復帰、在宅復帰が早い場合が多くあるのです。
たとえば当院は、急性期の治療は充実していますが、リハビリテーションについては設備も人材は十分ではありません。そのため、急性期の治療が終わった後も当院で入院治療を続けることは、患者さんにとっても、またそのベッドが開くのを待っている他の患者さんにとっても効率的ではないといえるでしょう。

地域全体で医療資源を有効活用する

回復期医療を担うリハビリテーション実施医療機関についても、それぞれの得意分野に合わせて患者さんを受け入れられるようにしたいのですが、現状はまだ課題があると思っています。

そもそも東京や大阪などの都市部では回復期医療を担うリハビリテーション実施医療機関が不足している傾向があり、名古屋市においても、リハビリを実施する医療機関は市内でも中心部では少なく、郊外に多くなっています。
郊外にあるリハビリ実施医療機関は、全室個室であったり、広い敷地を必要とする歩行訓練が行えたりと、より専門的なリハビリを提供している医療機関が多いという傾向があります。患者さんによってはそのような郊外の医療機関に行くほうがよい方がいらっしゃるのですが、ご紹介をしても「近くの医療機関に行きたい」「急性期の病院でそのままリハビリも受けたい」という方がいらっしゃるのが現状です。
最初に入院された病院で治療を続けても入院前の状態に戻ることは難しいこと、医療機関ごとの役割分担があり患者さんの状況に合わせた治療があることをご理解いただき、患者さんにとっても地域全体にとってもよりよい選択ができるようになればと考えています。

役割分担で地域全体の医療水準を向上させていく

病院が少ない地域では、患者さんの在宅復帰までワンストップで対応せざるをえない場合もあるでしょう。一方で、都市部の医療圏ではさまざまな機能をもつ医療機関が役割を分担し、地域全体で見た医療水準を向上させていく取り組みが重要です。
当院のように急性期の病気を治療する医療機関では、治療が終えた患者さんがある程度安定した段階で退院や転院をお願いし、回復期、慢性期の治療を別の医療機関で受けていただくことが基本的な流れです。この仕組みを、患者さんやご家族の皆さんにも理解いただければ幸いです。

また、我々のような医療機関としても、急性期、回復期(包括期)、それに続く慢性期の医療機関の役割分担をより明確にして、地域全体でそれぞれの得意や医療を有効活用できるような体制を構築していく必要があるでしょう。2040年に向けた「新地域医療構想」でも医療施設の機能分化が唱えられています。
医療者と患者さんが現行の医療の仕組みを理解して手を携え、互いに限られた医療資源を有効に活用することが、高齢化社会においても質の高い医療を提供し続ける鍵となると信じています。

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