東海大学医学部付属病院 渡辺 雅彦院長
国が目指す地域完結型の医療において、全国に88か所しかない特定機能病院が果たすべき役割は大きい(2024年10月時点)。また、主に大学病院で構成される特定機能病院は、医局からの医師の派遣という点においても地域医療にとって重要な鍵を握っている。
神奈川県のほぼ中央に位置する伊勢原市では、地域で唯一の特定機能病院である東海大学医学部付属病院(神奈川県伊勢原市)が広域の医療圏をカバーしている。地域医療をリードする立場として、どのような医療課題と向き合っているのだろうか。同院の院長を務める渡辺 雅彦(わたなべ まさひこ)先生に聞いた。
この地域では、地域連携の強化と医療機能の最適化という2つの医療課題に並行して取り組んでいく必要があります。まず地域連携については、神奈川県の湘南西部医療圏において唯一の特定機能病院である当院が中心となり、地域の病院とクリニックとの結びつきをさらに強化していかなければなりません。病院同士が力を合わせなければ、医療ニーズがますます多様化する高齢化社会に対応できなくなるためです。
そこで当院は、地域の医療機関と共に「医療連携の会」を年1回のペースで開催し、顔の見える関係づくりに努めています。これによって患者さんの紹介や逆紹介を推進し、いざというときにお互いを支え合える関係を築いています。
地域連携を強化するには、医療の役割分担も欠かせません。当院はロボット支援手術によるがん治療や、ハイブリッド手術室での経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)などの先進的な急性期医療に特化しており、かかりつけ医の役割を担う病院やクリニックとのすみ分けを徹底しています。また救急においては、当院の高度救命救急センターと平塚市民病院の救命救急センターが三次救急を引き受け、ほかの医療機関では対応が難しい重篤な患者さんに対応しています。
近年の働き方改革に伴い、大学病院が医師の派遣を取りやめるケースも現れるようになりました。しかし、地域の病院を支えていくことも大学病院の使命だと考えていますので、当院はこれからも積極的に医師を派遣していく方針です。
もう1つの地域課題は、医療機能の最適化です。将来的に、少子化の影響で急性期医療のニーズが縮小し、代わって回復期や慢性期など高齢者医療のニーズが拡大していくことが予想されます。現在、当院は804床の病床全てを高度急性期医療に割り当てていますが、病棟の建て替えが必要となるころには、病床機能の見直しを迫られるかもしれません。
しかし、ここ湘南西部地区のような都心部の場合、1つの病院が幅広い医療機能をもつことは地域医療全体から見て非効率です。そこで、当院は病床の一部を回復期や慢性期に転換することなく、地域で唯一の特定機能病院として高度急性期医療に専念し続けたいと考えています。そのうえで、回復期や慢性期の医療については、療養やリハビリテーションに特化した近隣の病院と連携し、急性期から慢性期までのシームレスな医療体制を目指します。
神奈川県西部には特定機能病院は当院しかなく、ほかの医療機関では対応できない先進的な医療を担う立場としての大きな責務があると自負しています。
たとえば、先進医療の分野において、当院はこれまでに前立腺がんや変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)などに対する医療技術の開発に取り組んできました。今後も引き続き臨床研究を通じて医学の進歩に貢献しながら、手術支援ロボットである「ダ・ヴィンチ」などの先端医療機器を駆使し、低侵襲(ていしんしゅう・体への負担が少ない)な診療に努めてまいります。
それぞれの医療機関が独自の役割を全うし、お互いに支え合うことができれば地域の医療水準を向上させていけるはずです。そのなかで、当院は地域医療の要(かなめ)としてリーダーシップを発揮する存在であり続けると同時に、これからも患者さんに優しい医療を提供していきたいと考えています。
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