連載地域医療の現在と未来

人口半減、病院が「多すぎる」――福岡県大牟田市の“静かなる地域医療の後退”のリアル

公開日

2025年11月18日

更新日

2025年11月18日

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2025年11月18日

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国立病院機構(NHO)大牟田病院 院長 川崎 雅之先生

人口減少が進む現在、地域によっては病院が余る状況が生まれている。福岡県大牟田市もそうした地域の1つだ。人口は最盛期の約半数となったのに、市内には3つの公立・公的病院をはじめ20以上の病院があり、地域の各医療機関の経営を圧迫しつつあるという。

国立病院機構(NHO)大牟田病院を率いる川崎 雅之(かわさき まさゆき)院長に、大牟田地域の医療資源をどう維持し、患者を守っていくかについて伺った。

人口減少と高齢化が進む大牟田の地域医療

大牟田市は、福岡県の南端、熊本との県境にあり、いわゆる「県の田舎」にあたる場所です。人口減少と高齢化が進んでおり、かつて21万人いた人口は今ではおよそ10万2千人と半減しています(2025年10月現在)。また、高齢化は全国平均が約29%(2023年時点)なのに対して、大牟田市は約38%にもなります(2025年時点)。

こうした背景のなかで、地域医療には3つの大きな課題があると感じています。1つ目は人口減に伴う「病院過多」、2つ目は患者数の減少による「経営圧迫」、3つ目は医療を担う「人材不足」です。

病院が多すぎる街でどう生き残る?

人口が減少しているにもかかわらず、実は大牟田市内には20以上の病院があり(2025年5月時点)、病床数も十分すぎるほどあります。こうした状況では、当然のことながら空床が増え、各病院の経営が苦しくなってきます。

この状況を改善するには、各病院が病床を減らす必要があるでしょう。実際、当院では402床を有していましたが、2025年4月からは一般病床と結核病床を減らし、355床としました。このうち結核病床は、患者数の増減に対応できるよう可変的に運用する形としています。

地域医療構想の枠組みの中では、病床削減に対しては比較的柔軟に対応が認められるようになっており、大牟田市では当院も他の病院も病棟の閉鎖や再編を進めている状況です。

患者さんが減る時代

病床が余っている理由としては、患者数が減ったことも大きいと考えています。当院は一般的な呼吸器内科の病気のほか、結核、筋ジストロフィーや神経難病の患者さんへの入院治療、重症心身障害児(者)への医療を担当していますが、いずれの患者さんも人口減少分を大きく超えて減りつつあります。その分、病院経営としては苦しくならざるを得ません。

患者さんが減っている理由はいくつかありますが、大きいのは在宅医療が進んでいることです。患者さんやご家族にとっては、自宅で過ごせるほうが安心ですし、経済的な負担も少なく済む面があります。また、結核については、日本は低蔓延国(ていまんえんこく)であり、今後大きく患者数が増えることはないとみています。

とはいえ、私たちにはどうしても守らなければならない役割があります。そもそも当院は、2004年に2つの病院が合併してできた歴史を持っています。1つは、結核などの呼吸器疾患と重症心身障害児(者)の医療を中心としていた旧大牟田病院。もう1つが、筋ジストロフィーなどの神経難病を診ていた旧筑後病院です。この歴史を受け継ぎ、呼吸器の病気、神経の病気、そして福祉的な領域の医療を「セーフティネット」として提供し続けることが、私たちの使命だと考えています。

患者さんが減りつつあるとはいえ、当院はNHOの病院としてこうした患者さんの受け皿であり続けなければなりません。入院が必要な方に対応し続けるために、経営面では厳しい局面も多い状況ですが、さまざまな手を打って課題を乗り越えていこうと考えています。

人材不足を切り抜けるために

最後の「人が足りない」という課題も深刻です。私は大牟田医師会の副会長を務めている関係で、地域の医師と連携を取る機会も多いのですが、この問題は大牟田市の多くの医療機関が悩んでいるところです。もちろん当院でも、医師、看護師、薬剤師、リハビリテーションスタッフなど、全ての職種で人材が不足しています。
これに対し当院では常に採用活動を行っていますが、なかなか集まらないのが現実です。人手不足は九州のNHO全体で起きており、これはNHOの病院は九州内で転勤があるという点も敬遠される一因になっているのかもしれません。

看護師不足への対策については、福岡市にあるNHO福岡東医療センターが2008年に福岡市の伝統ある大学である福岡女学院大学と連携し、その敷地内に福岡女学院看護大学を設立した例が1つのモデルケースとなっています。しかし、福岡市以外の地域では看護学校の定員割れも目立ち、また卒業しても福岡市や他の都市部へ就職してしまうことが多く、なかなか地元に人材が定着しません。看護師以外の人材不足も合わせ、さまざまな試みを行って医療を志す若手の人材を集めていく必要があると考えています。

大牟田の地域医療を守っていくために

私たちの病院経営は、年々厳しさを増しています。しかし、難病や重度の障害といったセーフティネットとしての医療は、誰かが担わなければなりません。もし当院がこの役割を諦めてしまえば、行き場を失う患者さんが大勢出てしまう。それだけは絶対に避けなければなりません。

また、実は大牟田の周辺ではかかりつけの先生方も減りつつあり、たとえば呼吸器内科の医師は着実に少なくなってきました。この困難な状況を乗り越えるためには、各医療機関がそれぞれの役割を明確にし、当院でいえば「脳神経内科と呼吸器の病院」といった核となる専門性や強みを持って地域で支え合う体制が求められます。

時代の変化に柔軟に対応しながら、地域の方々の命と健康を守り続ける――。その実現に向け、当院は地域の医療機関、行政、そしてお住まいの皆さんと一丸となって、大牟田の未来の医療を築いていきたいと考えています。
 

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