連載地域医療の現在と未来

急性期病院が集中する地域で効率的な医療を実現するには? 強みを生かした機能分化で適切な医療体制へ

公開日

2025年04月10日

更新日

2025年04月10日

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2025年04月10日

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高齢化の進行を受け、全国各地で地域医療の見直しが盛んに行われている。その一環として老朽化した公立病院の統廃合が進展する一方、比較的新しい病院は医療再編の対象とはみなされず、似たような機能をもつ病院が集中している地域も少なくない。さらに、医師の不足や高齢化による救急搬送の増加などが重なり、医療現場の負担は日々増えている。

地域医療にとって不可欠な公立病院は、これからどうなっていくのだろうか。兵庫県立加古川医療センター(兵庫県加古川市)の院長を務める田中 宏和(たなか ひろかず)先生に聞いた。

役割分担で医療機能の重複を解消

当センターがある東播磨医療圏は、兵庫県南部の中央に位置しています。この医療圏では、主に2つの医療課題を抱えていると私は考えています。1つは医療機能の重複、もう1つは増加する救急医療への対応です。

まず医療機能の重複については、旧国名で播磨だった地域に同じような規模の急性期病院が集中していることが課題です。東播磨医療圏とその周囲には、当センター(353床)と加古川中央市民病院(600床)のほかに、北播磨総合医療センター(450床)、兵庫県立はりま姫路総合医療センター(736床)など、急性期を担当する大病院が集まっています。そのため急性期医療の提供が地域内で飽和してしまい、決して効率のよい医療体制とは言えません。

こうした状況に追い打ちをかけるように、人口の減少や高齢化によって急性期病床の必要性が年々縮小していくと予想されています。病院が少ない過疎地域では、1つの病院が必然的にさまざまな役割を担うことになりますが、加古川市のような都市部では医療機能の役割分担に努めるべきでしょう。

すでに兵庫県では、2015年の兵庫県立尼崎病院と兵庫県立塚口病院の合併による尼崎総合医療センターの開設を皮切りに、各地域で病院の統合が着々と進められています。これからも医療再編によって地域の医療資源を集約化しつつ、それぞれの病院の強みを生かした医療体制を構築していかなければなりません。

たとえば、当センターでは高度な急性期医療を提供できない循環器疾患の新規患者さんの受け入れを停止し、得意とする脊椎関連の病気や政策医療(公立病院が担うべき国の政策としての医療)の1つとして掲げられている神経難病の治療などに注力していく方針です。特に、患者さんの増加が見込まれるパーキンソン病については、2023年から入院リハビリテーションの提供を始めました。2025年度には一般病棟の1棟をリハビリテーション専用に転用するなど、これまでにも増して力を入れていきます。

地域医療の水準を向上させるためには、現在の医療機能に固執せず、地域の実情に沿った医療体制の見直しが必要です。当センターは引き続き、自治体、医師会、地域の医療機関などと協議し、注力すべき医療機能を明確に打ち出していきたいと考えています。

地域連携でひっ迫する救急医療に対応

もう1つの医療課題は、増加する救急医療への対応です。これは、医師が大規模な病院に集中している医師偏在の問題と、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」の両面から考えていくべきでしょう。

現在、大学病院の医局から派遣される医師の多くは、その大学と提携している大病院に行くパターンが一般的です。そのため、それ以外の規模の医療機関の多くは慢性的な医師不足に陥っています。

また近年の働き方改革に伴い、大学病院が地域の医療機関から医師を引き上げる動きもみられ、夜間や休日の救急を担う病院を中心に従来の医療体制を維持することがますます難しくなってきました。

一方で、2025年問題により高齢者の医療ニーズは年々高まり、この地域でも全国同様に誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)、尿路感染症、転倒による骨折など、高齢者によくみられる症例が多発しています。当センターでは、ほかの医療圏からの患者さんも積極的に受け入れていますが、手いっぱいの状況が続いています。

こうした問題に対する抜本的な解決策はまだ見つかっていません。そのため、病院単独では対応できない患者さんについては、地域の病院同士が協力し合ってカバーしていくしかないでしょう。

当センターでは兵庫県ドクターヘリ基地病院としての機能を生かし、加古川市を含む東播磨医療圏だけでなく、播磨地域の全域から京都府に面する丹波篠山市までの幅広いエリアで救急要請に対応しています。また三次救急(命に関わる重症患者への救急医療)を担う病院として、近隣の医療機関では対応できない多発外傷や重症熱傷などの急患を積極的に受け入れてきました。このように、それぞれの病院の強みを生かした役割分担を行い、医療圏にとらわれず地域全体の医療水準を向上していくべきだと考えています。

支え、支えられる地域医療

医療を取り巻く環境は年々厳しくなっていますが、そのようななかで適切な医療活動を行っていくには地域の皆さんの協力が欠かせません。たとえば、軽症にもかかわらず自分の都合で時間外の救急外来に行く“コンビニ受診”は、医療現場に過度な負担を強いることになりますので、ぜひ控えていただくようお願いします。

当センターは、前身となる兵庫県立加古川病院だったころを含め、およそ80年以上にわたって“ケンカコ”という愛称で地域の皆さんに親しまれてきました。これからも地域の皆さんに支えられながら、地域医療を支える公立病院としての役割を全うしていきたいと思います。

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