桐生厚生総合病院 院長 加藤 広行先生
群馬県はほかの地域同様に高齢化が進んでおり、過疎地域の指定を受けたエリアが点在している。急速に進むこのような医療環境の変化に対し、地域の医療機関は柔軟に対応していくことが求められる。そこで今回は、桐生厚生総合病院(群馬県桐生市)の院長を務める加藤 広行(かとう ひろゆき)先生に、日々感じている地域医療の課題について話を伺った。
当院がある群馬県桐生市は、2021年に施行された「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」で市内の桐生地区と黒保根地区が一部過疎の地域に指定されるなど、少子高齢化で過疎化が急速に進んでいる状況です。そのようななか、地域医療については、地域の救急医療の質と、患者さんが気軽に受診できる体制をどう整備するかという2点が課題だと考えています。
当地域の救急医療は、当院を含めた4つの病院が二次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)を担っており、当院は夜間の救急診療に備えて毎日5人の医師が当直しています。残り3つの病院にも当直はいますが、患者さんが集中すると対応できないケースがあり、応需率(受け入れ要請に対する受け入れ台数の割合)を上げるのが難しいことが課題の1つです。当地域で受け入れが難しい場合には、三次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)を担っている太田市の太田記念病院か、前橋市にある前橋赤十字病院、もしくは同じく前橋市の群馬大学医学部附属病院に受け入れを依頼しますが、搬送時間は太田市までが1時間弱、前橋市までが1時間強です。当地域に三次救急に対応する病院がないため仕方がないとはいえ、迅速な救急医療を提供したくてもできない現実にもどかしさを感じています。
桐生市周辺での救急医療の質の向上を考えると、全国的に問題になっている医師の不足・偏在を解決していかなければなりません。群馬県では、医師が前橋市に集中している“偏在”が問題です。当地域の病院は群馬大学(前橋市)から医師の派遣を受けていますが、若い医師は出身大学に近い前橋市や高崎市を勤務先として選ぶ傾向が強いように思います。実際、当院に勤務している医師も約半数が前橋市在住です。そのため、オンコール(緊急を要する際、すぐに対応できるように待機する勤務形態)で救急医療を提供している診療科では、医師が到着するまで1時間強の時間がかかります。こうした状況に直面すると、「はじめから前橋市に搬送したほうが効率がよいのでは……」と感じてしまうことがあります。
少子高齢化によって気軽に受診できない患者さんが増えていることも課題です。少子高齢化は社会インフラを脆弱(ぜいじゃく)にします。それによって、たとえばタクシー運転手が足りなくなり、救急車で患者さんが夜間に救急搬送された際、付き添いの方が帰りのタクシーを捕まえることができず、そのまま病院のロビーで夜を明かされることがあります。
また、最近は高齢を理由に運転免許証を返納する方が増え、1人暮らしの方を中心に、病院に来る手段がないという方が増えました。桐生市では2024年11月からライドシェア(一般の方が自家用車で人を運ぶ有料の配車サービス)が導入されましたが、台数が十分ではなく、課題が完全に解決されたわけではありません。
こうした状況を少しでも緩和し、患者さんが適切な医療を速やかに受けることができるようにするため、当院では4月(2025年)に訪問看護ステーションを開設する計画です。
桐生市は少子高齢化が進んでいます。出生数は、桐生市と新里村・黒保根村が合併した2005年に753人だったのが、2024年には284人と落ち込んでいます。同時に、2005年に24.26%だった高齢化率(人口に占める65歳以上の人口の割合)は上昇傾向を強めており、2024年には37.35%に達しました。このような状況に伴って、地域医療に求められる「医療の質」はこれからも変化していくでしょう。今後は、先述した訪問看護ステーションの本格稼働のように、地域の実情に合わせて柔軟に変化する対応力が重要になってくると思います。
また、医師確保の点では、若手医師のキャリア形成に貢献できる医療体制を整えることが大切です。当院では早い段階から手術支援ロボットシステム「Hugo:ヒューゴ」を導入し、症例数を着実に増やしています。このように新しい技術を積極的に導入して地域の皆さんに還元するとともに、医師のキャリア形成ができる魅力的な職場づくりに、地域が一丸になって取り組んでいくことも大切ではないでしょうか。
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