連載地域医療の現在と未来

ピンチをチャンスに-半田市と常滑市の市立病院が統合する背景と地域医療が直面する課題

公開日

2025年05月14日

更新日

2025年05月14日

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2025年05月14日

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知多半島総合医療機構 渡邉和彦理事長

現在の地域医療は過渡期にあり、ひとつの病院で急性期から慢性期まで完結する「病院完結型」の医療から、地域の医療機関が連携して支える「地域完結型」の医療に移行しつつある。今後は各地で病院の統廃合が進んでいくのではないだろうか。そのようななか、愛知県では半田市と常滑市という異なる行政区の市民病院が経営統合して、新たに生まれ変わることになった。統合後は医療機能を分化して、それぞれの地域で専門性の高い医療を提供するという。統合を決めた背景や、それにまつわる地域の課題について、知多半島総合医療機構(愛知県半田市)の渡邉和彦(わたなべかずひこ)理事長(旧:半田市立半田病院院長)に話を聞いた。

6割を超える病院が経常赤字

人口減少社会を迎えるなかで抱えているのは「病院の経営に関する課題」と、「救急医療対応に関する課題」の2つです。まず、前者について病院経営定期調査の結果をもとに、全国の病院の経営状況を簡単に紹介したいと思います。調査結果によると、2023年度の経常利益が赤字だった病院の割合は53.4%で、前年度から30.4ポイント増加しました。大幅に増加したのは新型コロナウイルス感染症関連の補助金が影響しており、同補助金を除いた経常利益が赤字だった病院の割合は65.3%で、同2.4ポイントの増加です。厳しい経営を強いられているのは公立病院も同様で、赤字体質を放置したまま少子高齢化がさらに進むと、地域医療の崩壊を招きかねません。体力があるうちに、地域の医療機関の再編を進めることが急務といえるでしょう。

救急対応は都市部と地方で異なってくる

地方で救急を担う病院には、赤字の問題のほかに救急受入れ体制の問題があります。救急医療に対する課題としては、たらい回しにされる患者さんをなくさなければなりません。ただ、これについては地域によって大きな差があると思っています。都市部などでは、救急搬送する先がなかなか決まらないことがあるようですが、それは近隣に医療体制が充実した病院が多く、自分が断っても何とかなると考えているからではないでしょうか。一方、当院があるような地域では、断ってしまうと受け入れ先がなくなってしまいます。そのため、当院は知多半島で唯一の三次救急医療施設(生命に関わる重症患者に対応する救急医療を提供する施設)ですが、緊急性の低い一次救急(入院や手術を伴わない医療)の患者さんも受け入れています。このように、救急医療対応は地域差があり、課題を解決するには地域固有の事情を考慮することが重要だと考えています。

ちなみに、かつての半田病院のように一次救急から三次救急まで診ていると、医療がひっ迫するというリスクがあります。一方、若手医師の育成という面では、軽症から重症まで幅広い症例を診ることができ、トリアージではないですが、患者さんの治療の優先順位を判別するための経験値を積むことができます。医師の働き方改革で、若い医師が経験を積みにくくなったという側面があるものの、多様な症例を経験できるという点でメリットがあるのではないでしょうか。

医療機能の分化にはさまざまなメリットがある

近隣にお住まいの方はご存じかと思いますが、半田病院も常滑市民病院と統合し、2025年4月から知多半島総合医療機構に生まれ変わりました。半田病院はより地域に安定的な医療を提供する病院となることを目指して統合を決めました。経営統合といっても、2つの病院が1か所に集約されるわけではありません。半田病院は名称を「知多半島総合医療センター」に改め、救命救急センターを擁する高度急性期医療に特化した病院に生まれ変わります。一方の常滑市民病院は名称を「知多半島りんくう病院」に改め、リハビリテーションや地域包括ケア医療に注力する病院になります。

今回の統合によって、半田市と常滑市という2つの市をまたぎ、急性期と回復期の医療をそれぞれ別の場所で提供することになります。こうした機能分化には、医療資源の集中による効率化などさまざまなメリットがありますが、私は別の視点で将来性を感じています。新型コロナウイルス感染症が拡大した時期に遡ると、当時から病院統合の話があったことから、救急医療は半田病院で、新型コロナウイルス感染症の患者さんは常滑市民病院で診ました。このように別々の場所で診療したことで地域としての医療崩壊を防ぐことができ、貴重な成功体験になりました。たとえば、大学病院のように医療体制が充実している病院でも、集中治療室を2つに分けることはできません。別々の場所で専門的な医療を提供することができたからこそ、混乱を避けることができたと思っています。また、医師、看護師確保の観点から職員の目線に立つと、子育てや介護といった生活環境から急性期や回復期など担当したい勤務先を個々人の状況に合わせ希望することができ、柔軟な働き方が可能です。選択肢が増えることで、とりわけ看護師不足という課題も緩和するのではないかと期待しています。

病院を統廃合するメリットは多く、持続的な医療の提供につながりますのでご理解いただければと思います。

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