連載地域医療の現在と未来

急性期後の患者さんが行く医療機関がない? 都市部で今起きている課題とは

公開日

2025年01月14日

更新日

2025年01月14日

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2025年01月14日

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高齢化が進むなか、医療の世界では人材不足や医療機関の不足などから、将来的に医療の質を持続できるか心配している医師が多い。特に地方では少子化も重なり、地域医療構想に沿った改革を進めている地域が多くなっている。

その一方で、東京都23区のように高齢化の進行が緩やかな地域もある。しかし、医療機関には高齢化の波が着実に押し寄せているほか、2024年4月から始まった医師の働き方改革への対応にも心を砕いているという。そんな東京都区部の現在の医療の課題について、東京都中野区周辺の一次救急(入院や手術が伴わない救急医療)、二次救急(入院や手術が必要な患者への救急医療)を担っている東京警察病院(東京都中野区)の院長である長谷川俊二先生に聞いた。

回復期、慢性期の病床が不足

2040年までに高齢化率が約35%に達するといわれる‟2040年問題”が全国的に問題となっていますが、東京都の高齢化は緩やかに進んでおり、2040年における高齢化率は全国平均を下回る27.8%にとどまると推計されています。

しかし、高齢化の影響は確実にこの地域にも表れています。実際に医療の現場でも、東京都全体の入院患者さんのうち、65歳以上の方の占める割合は、2014年が69.5%、2017年が70.9%、2020年は72.1%となっています。そんななか、中野区の周辺では「急性期の治療を終えた高齢の患者さんを受け入れる医療機関が足りない」という問題が出てきているのです。

後期高齢者への医療の充実が急務

当院でも75歳以上の後期高齢者の入院患者が多くなりつつあります。この世代は65歳以上の前期高齢者と比べて生活習慣病を原因とする脳や臓器に関わる病気にかかりやすくなり、リハビリテーションを受ける必要があるなど回復期、慢性期の治療期間が長期化する傾向があります。

急性期の治療を行う当院のような病院では回復期、慢性期へ移行した患者さんを引き続き診させていただくスタッフも設備も足りないため、療養型病院や介護施設などへ移っていただく必要があります。しかし東京都の中でも都心部に隣接した中野区周辺では、これらの施設整備が追いつかず、医療ニーズとの乖離(かいり)が生まれている状況です。実際、当院の患者さんでも生活圏から遠く離れた地域で受け入れ先を探さなければならないケースが増えてきています。地域全体で高齢化が深刻化していないがためにこのような問題が起きてしまっていると考えており、地域全体で回復期、慢性期の医療を整備する必要があるでしょう。

これに関連し、ご高齢の方の在宅療養についても考える必要があると思っています。東京都では現在、65歳以上方の単独世帯が約92万世帯(2020年)あります。独居の方が在宅で療養するためには訪問診療、看護、介護の仕組みを整える必要がありますが、これもまだ整備が追いつているとは言えません。在宅復帰できない患者さんを支える医療機関の整備とともに、こういった訪問系の仕組みも地域全体で検討していくべきでしょう。

医療資源の集約化を

中野区周辺に限らず、今の医療の課題として4月から始まった「医師の働き方改革」への対応を挙げる医療機関は全国にたくさんあるのではないでしょうか。医師の働き過ぎを改善することについては誰もが賛成していますが、その結果、医療に影響が出かねない点を懸念しています。

特に救急を担っている病院にとっては、改革によって緊急時の待機要員であった‟宿直”や‟日直”の業務範囲や勤務時間が規制されることで、これまでより多くの救急医がいないと体制を維持することが難しい状況になっています。実際、当院もER型の救急体制(重症度によらずあらゆる救急の患者さんを効率的に診る体制)を導入し、救急医を増員し、ローテーションを工夫することで、さまざまな疾患をもつ救急患者を24時間切れ目なく受け入れています。

同じようなことは中野区にある我々以外の2つの救急病院でも進めているはずですが、救急医の数は限られているので、どこかで救急医不足の状況は生まれてしまいます。医師の働き方改革を実現しようにも、医師が少ないという問題があるのです。

この問題への対応も、個別の病院だけでは限界があるため、地域連携によって乗り越えていくしかないと思います。どの病院でもさまざまな診療科の医師が待機し、それぞれがさまざまな疾患の救急の患者さんを受け入れるという現在のような形を改め、たとえば持ち回りの当番制を取り入れて疾患ごとに担当する病院を決めて医療資源を集約化すれば、より効率的な救急医療を提供でき、地域全体で見た医療水準は向上するのではないかと考えています。

介護施設への情報共有で高齢者を支える

東京都区部はまだまだ高齢化が進まないとはいっても、いずれ高齢化社会はやってきます。そのときのために、今からできるのは地域全体で仕組みを整え、より効率的な医療を行えるようにすることではないでしょう。

当院ではその考え方から、地域のかかりつけ医や回復期、慢性期の医療機関の連携を積極的に進めています。これによって、当院での治療が終わった患者さんの治療をスムーズに引き継ぎ、患者さんやご家族に安心していただけるはずです。このような動きをするなかで、それらの先生から急性期の患者さんを当院へ紹介していただく事例も増えており、地域連携がうまく回りはじめたと感じています。

各病院が地域のほかのプレーヤーと積極的な関わりをもつ動きこそ、今求められていると思っています。このような動きによって地域全体の連携、役割分担が整理できれば、それが持続的な医療の提供につながるのではないでしょうか。

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