連載地域医療の現在と未来

医療の扉を開く、中高生たちの挑戦 緊張と興奮が交差する病院主催の医療体験会

公開日

2026年02月17日

更新日

2026年02月17日

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2026年02月17日

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ブラック・ジャック セミナーの様子(洛和会音羽病院ご提供)

2025年11月29日、京都市山科区の洛和会音羽病院で、中学生および高校生を対象とした医療体験プログラム「ブラック・ジャック セミナー」が開催された。同セミナーはジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社との共催で、京都市内での実施は今回が初めてだったという。

セミナーには事前公募で選ばれた31名が参加し、指導にあたったのは医師ら13名。内視鏡や心臓カテーテル、縫合などを約3時間にわたって体験する内容だ。医療人材の不足が社会的な課題となるなか、地域の病院が次世代の育成に向けて実際の医療現場を開放し、開催した形となった。

モニターを介した「非日常」の操作感覚

セミナーは6人ずつのグループに分かれ、15分ごとに6つのブースを巡る循環型で進んだ。実技の前にガウンテクニックを学び、清潔・不潔の考え方を共有してから各体験に入っていく流れとなっていた。

内視鏡トレーニングのブースではまず「内視鏡とは何か」という説明が入った。内視鏡は体の中を直接見るための細いカメラで、先端のレンズから入った映像をモニターに映し出す。胃や大腸の検査で使われるイメージが強いが、手術の現場でも重要な道具で、医師は画面を見ながら体の内部を確認し、必要な処置を進めていく。

鉗子を動かして内視鏡による処置を行う(洛和会音羽病院ご提供)
鉗子を動かして内視鏡による処置を行う(洛和会音羽病院ご提供)

 

このブースで参加者が扱ったのは、内視鏡の映像を見ながら先端のワイヤーなどを動かすための器具、鉗子(かんし)だった。外からは簡単に見えても、モニターに映る世界と手元の感覚を一致させる必要があり、慣れないうちは狙ったところに先端を持っていくだけでも難しい。参加者は戸惑いながら操作を続けていた。
指導にあたった産婦人科の野溝 万吏(のぞみ まり)医長は、参加者たちの反応をこう振り返る。

「参加者から『人体を切るときにどんな匂いがするのか』といった問いが出て、体験を作業としてではなく、医療の実際に結びつけて捉えようとしているのが伝わってきました」


また高校1年生の参加者は、「画面越しに器具を操る難しさと同時に、命に直結する操作の重みを感じた」と語った。

鶏のムネ肉を用いたカテーテル治療の実践

心臓カテーテル体験のブースでは、はじめに「心臓カテーテルとはどのような治療か」という説明が行われた。
心臓カテーテルは、細い管(カテーテル)を血管から心臓まで通し、心臓の内部を調べたり、治療を行ったりする方法だ。胸を大きく切開せずに心臓の中へアプローチできるため、不整脈や狭心症など、さまざまな心臓の病気の診断や治療に用いられている。

体験は鶏のムネ肉を用い、不整脈治療の1つであるアブレーション(心筋の一部を焼灼する治療)を題材に進められた。カテーテルをどう進め、異常な電気信号の経路をどのように遮断するのか――その考え方を、実物を前にして確認していく。

アブレーション治療を体験(洛和会音羽病院ご提供)
アブレーション治療を体験(洛和会音羽病院ご提供)

 

参加者の1人(高校1年生)は、「アブレーションの体験を通じて心臓の構造を改めて知り、人の手で補修できることに感動した」と語っている。
また、体験ブースで指導にあたった横井 宏和(よこい ひろかず)副病院長・心臓内科部長は、参加者が専門的な説明にも理解を示していた点に触れ、「事前に勉強して参加している生徒さんが多くいらっしゃって、その熱量が大きかったですね」と述べた。

「胸骨圧迫」の身体的負荷と手術室のリアリティ

救命救急のブースでは、医療用マネキンとAEDを用いて心肺蘇生法(CPR)を学んだ。胸骨圧迫は一定のリズムと深さを保つ必要があり、続けるほど体力を消耗する。実際にやってみて、「想像以上の力が要ることに驚いた」という声も聞かれた。 

胸骨圧迫の方法を教えられる参加者たち(洛和会音羽病院ご提供)
胸骨圧迫の方法を教えられる参加者たち(洛和会音羽病院ご提供)

 

中学1年生の参加者は「こんなに強い力が必要とは思わなかった」と話し、別の中学1年生は「医師は患者さんだけでなく家族も支えているのだと思った」と述べた。家族が手術を受けた経験と重ねて受け止めているという。

手術室に入るセクションでは、看護師らが器具の管理や環境について説明した。映画やドラマで見たことはあっても、実際の空気に触れると受け止め方が変わる――そう話す参加者もいた。

手術室で手術台の脇に立ち、器具の使い方を学ぶ(洛和会音羽病院ご提供)
手術室で手術台の脇に立ち、器具の使い方を学ぶ(洛和会音羽病院ご提供)

 

職種の連携を視覚化する意味

約3時間の体験を通じ、感想には変化が表れていた。医師だけで治療が完結すると思っていた参加者の中には、看護師らが担う役割や、現場が連携で成り立つ点に言及する人が少なくなかった。
「手術は医師が全てやると思っていたが、実際は看護師さんなどいろいろな人が関わっていて、協力して成り立っていることが分かった」(中学1年生の参加者)

洛和会音羽病院の黒田 啓史(くろだ ひろし)病院長は、今回のセミナーについて次のように振り返る。
「医療業界をとりまく状況や人材確保が厳しさを増すなか、これほど多くの中高生が目を輝かせて体験に臨んでくれたことに、今後の医療の明るい希望を感じました。今回のようなリアルな体験が、彼らの志をより強く、確かなものにするきっかけになればこれほど嬉しいことはありません」

各ブース15分という枠の中でも、今まで知らなかった医療の裏側を知り、興味関心が大きくなったという声は多かった。ただし、15分という短い体験時間で医療現場の実態をどこまで伝えられるかは課題として残る。
病院側は今後の開催頻度や規模について、セミナーの効果を見ながら取り組んでいくとしている。
 

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