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脳卒中は「その後」が大事―リハビリまで考えた病院の選び方とは

公開日

2025年10月03日

更新日

2025年10月03日

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2025年10月03日

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大西脳神経外科病院 大西 宏之理事長

脳卒中をはじめとする脳血管の病気は、ときに生活を一変させる。手術が成功しても麻痺や言語障害が残り、リハビリテーション(以下リハビリ)をしっかり行っても、完全に元の暮らしに戻れないことも少なくない。

こうした実情を受け、近年では急性期(病気になった直後)の治療と、その後のリハビリを同じ病院で一貫して行うケースが増えている。

そのメリットについて、大西脳神経外科病院(兵庫県明石市)の理事長である大西 宏之(おおにし ひろゆき)先生に伺った。

なぜ治療とリハビリは一体なのか? 脳の病気の特性

脳神経外科では、脳や神経、脊椎・脊髄などの病気の診断・治療を行っています。特に多いのは脳卒中などの脳血管障害で、そのほかにも脳腫瘍や頭部外傷、高齢化に伴って増加している認知症なども対象になります。

認知症のように徐々に進行する病気を除き、脳神経外科の病気は突然発症するのが特徴です。なかでも脳血管の病気は、発症から治療までのスピードが予後に大きく影響するため、時間との勝負になることもあります。
こうした急性期の治療を乗り越えても、麻痺や言語障害といった後遺症が残り、日常生活に支障をきたすことが少なくありません。

そのため近年では、急性期の治療と並行して、早い段階からリハビリを開始するケースが増えています。

病院が変わるとリハビリも変わる? 日本の医療における「転院の壁」

リハビリは患者さんの状態を見ながら段階的に進められます。急性期では、関節の可動域を広げたり、筋力をつけたりするなど、機能障害そのものに焦点を当てたリハビリが行われます。
病状が落ち着き回復期に移行すると、機能障害の回復を目指すリハビリを続けながら、さらに「ものが掴めない」といった日常生活の動作を取り戻すための訓練が始まります。

しかし、日本では急性期の治療を行う病院と、回復期のリハビリを担当する医療機関が別々であることが多く、これは「医療の機能分化」として全国で標準的に行われています。

この仕組みには課題もあります。転院の際に、急性期の病院で実施していたリハビリの内容や、障害の根本的な原因などの詳細な情報が、新しい病院のスタッフに十分に伝わらないことがあるのです。
その結果、患者さんの状態に合わないリハビリが行われてしまう可能性も否定できません。

このような課題に対する1つの解決策が、急性期から回復期までを同じ病院で一貫して担うことです。

同じスタッフが見守り続ける安心感「チーム医療」がもたらす最大のメリット

脳血管の病気に対して急性期治療を行う病院は、専門的な知見から、患者さん一人ひとりに合わせて回復期まで見据えた無理のない治療計画を立てています。その計画に沿って同じ病院内で回復期までサポートすることは、医療の一貫性という観点から患者さんにとって大きなメリットがあると考えられます。

また、回復期の医療はリハビリだけでなく、服薬指導、栄養指導、社会復帰に向けた環境整備など多岐にわたります。これらを実践するには、医師、看護師、リハビリスタッフ、薬剤師、管理栄養士、社会福祉士などが一丸となる「チーム医療」が欠かせません。

急性期から回復期までを同じ病院が担当する場合、チームのメンバーも同じ顔ぶれになります。これは患者さんの状態に合わせてリハビリの内容をスムーズに移行させられるだけでなく、患者さんの精神的な支えになれることも大きなメリットといえるでしょう。

数か月から1年以上にわたることもあるリハビリの過程では、心が折れそうになることもありますが、顔なじみのスタッフがそばにいることで、変化にいち早く気付き、前向きな声かけができることは大きな意味を持ちます。

「最後までここで」―患者さんの声が変えた病院の形

こうした背景から、近年は脳神経外科を持つ病院でリハビリを重視する流れが加速しています。当院でも、患者さんやそのご家族からの「リハビリも最後までここで続けたい」という声に応え、2017年に回復期病棟を新設し、2025年にはさらに増床しました。

もちろん、回復期を専門とする医療機関の多くも、非常に質の高いリハビリを提供しています。急性期病院から詳細な情報提供を受け、スムーズに回復する患者さんも多く、どちらの方法でも納得のいく成果は期待できるでしょう。大切なのは、患者さんがご自身に合った形で治療とリハビリが受けられるかどうか、です。

いざという時のために。自分で決める「もしも」の病院選び

脳卒中で倒れた際、実は患者さん自身が治療を受ける病院を選べる可能性があることをご存じでしょうか。通常は、一刻を争う状況であるため、倒れた場所から最も近い病院に救急搬送されるのが一般的です。

しかし、もし事前に「急性期はこの病院で、回復期はあの病院で」といった希望を家族に伝えておけば、距離があまりに離れていない限り、救急隊がその意向を考慮してくれることもあります。

だからこそ、みなさんには元気なうちに、自宅近くで脳卒中の治療を行っている病院を調べておいていただきたいのです。

自分が治療を受けるとしたらどこがよいか、回復期のことまで含めて考えておくことをおすすめします。そのうえで、「手足が動かしにくい」「ろれつが回らない」といった脳卒中のサインに気付いたとき、希望する病院に行けるよう、ご家族や周囲の人と情報を共有しておくとよいでしょう。

万が一に備え、自分自身が納得して選んだ医療を受けられるようにしておくこと──それもまた「自分らしい生き方」を支える、大切な準備といえるのではないでしょうか。とはいえ、何よりも重要なのは脳卒中にならないことです。日頃から生活習慣に気を配り、動脈硬化を招かないようにすることを心がけていただければと思います。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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