京都鞍馬口医療センター 院長 水野敏樹先生
京都市は25~39歳と子(0~4歳)の世代が転出超過で、高齢者世帯の割合が年々増加している。閑静な住宅街が広がる同市の東山区、山科区や北区ではすでに高齢化率が30%を超えており(2023年10月時点)、高齢者を支える医療体制の構築が喫緊の課題だ。
増加する救急搬送や高齢者特有の病気など、逼迫(ひっぱく)する高齢者医療に対して病院はどう対応していくべきか。京都鞍馬口医療センター(京都府京都市北区)の院長を務める水野 敏樹(みずの としき)先生に聞いた。
高齢化が進む京都市では、主に3つの医療課題が挙げられます。1つ目は高齢者医療への対応、2つ目は医療機能の差別化、3つ目は救急医療を支える地域連携です。まず1つ目の課題として、ここ京都市北区は山科区・東山区に次いで市内で高齢者の割合が高く、高齢化医療への対応が急務となっています。
近年は、高齢化に伴ってパーキンソン病などの神経難病を発症する患者さんが増えてきました。当院の近隣には、それらの病気に対応できる京都大学医学部附属病院や京都府立医科大学附属病院のような大規模な病院もありますが、入退院を繰り返す患者さんや合併症のある患者さんなどは大学病院での対応が難しく、地域全体で受け入れ先を確保しなければなりません。
そのため、この地域では先進医療を担う大学病院が神経難病などの診断を行い、合併症や長期にわたる治療は当院のような総合病院が対応するという役割分担を推進しています。中でも合併症については、当院の内科に在籍するさまざまな専門医が診療を行い、神経難病だけでなく脳卒中の後遺症や骨粗鬆症などの病気に幅広く対応しています。
また、高齢になるほど飲み込む機能が低下し、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を発症するリスクが高まりますが、当院ではそのような症状に対しても歯科・口腔(こうくう)外科、耳鼻咽喉科、脳神経内科、リハビリテーション科の連携により多角的にアプローチすることが可能です。
さらに京都市では認知症の早期発見に取り組んでおり、当院は紹介された患者さんへの診断や入院治療を通じて、病診連携による高齢者のサポートに努めています。
2つ目の地域課題は、医療機能の差別化です。この地域では、当院を含めて京都府立医科大学附属病院、京都大学医学部附属病院、京都第二赤十字病院などの急性期医療を担う病院が集まっているため、医療機能が重複しないように差別化を図る必要があります。
この問題を解決するため、当院は病棟のリニューアルに向けて準備を進めており、急性期病院から地域に根差した総合病院へと大きく舵を切っています。計画では、さらなる高齢化の進展に備えて回復期リハビリ病棟を新設し、リハビリテーションを含めた回復期や慢性期の診療に注力していく方針です。
特に、長期にわたる受け入れが必要な脳卒中や心不全の患者さんについては、大学病院では対応が難しいため当院が積極的に対応します。そのほか、継続的なサポートを必要とするがん患者さん、複数の病気がある高齢の患者さん、足腰が弱って自宅での生活が難しい方などに寄り添い、地域の中で独自の役割を果たしたいと考えています。
その一方で、地域全体の高齢者医療の受け皿を拡充するため、急性期病院は介護施設や訪問診療を行うクリニックとも連携していくべきでしょう。当院では、地域医療連携室によって病診連携を推進するほか、平成28年から運営している訪問看護ステーションを通じて、退院後もスムーズな日常生活が送れるよう支援しています。
3つ目の地域課題は、救急医療を支える地域連携です。京都府では、高齢化に伴う救急搬送の増加に対応するため、2024年4月に京都第二赤十字病院と宇治徳洲会病院が府内初の高度救命救急センターに指定され、京都府立医科大学附属病院と京都大学医学部附属病院が救命救急センターに指定されました。
これによって、命に関わる重症患者さんに対応する救命救急センターと、特殊な救急に対応する高度救命救急センターの体制が強化され、京都府における救急医療の流れが大きく変わろうとしています。今後は、重症度に応じた救急搬送の振り分けを推進していく必要があるでしょう。中でも、高次の救急病院に搬送された患者さんが、連携する一般病院でも対応可能と判断されて転院搬送される「下り搬送」が重要な鍵を握ります。下り搬送を推進することで、より効率的な救急医療ができるようになるはずです。
また、救急搬送されるご高齢の方を減らし救急医療を安定的に提供していくため、検診・健診の活用によって病気の進行を防ぐことも大切です。京都市では、特定健康検査における70歳以上の受診率が全国平均よりもかなり低いため、受診を促す広報活動を積極的に行っていかなければなりません(2019年時点)。当院でも検診センターによって地域の皆さんへの呼びかけを行っていますが、自覚症状のない方にどのようにアプローチしていくかは今後の課題だといえます。
これからの時代は、患者さんの退院後の生活を含めて医療機関が支えていかなければなりません。特に高齢者においては、自立した生活を送れるようADL(日常生活の動作)に配慮したサポートが必要となります。これに対して当院では、整形外科・脳神経内科の専門医やリハビリテーションのスタッフを中心に、患者さんの運動機能の回復に努めています。
また地域連携においては、京都府立医科大学附属病院、京都第二赤十字病院との連携を進めているところです。これは病院間での役割分担を明確化し、地域を支える医療体制を目指すものです。こうした活動を通じて当院は、今後のさらなる高齢化の進展を見据え、急性期から在宅復帰への道筋を作っていきたいと考えています。
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