連載地域医療の現在と未来

DXでつなぐ地域医療の輪、結核治療から総合医療への進化とは

公開日

2025年03月02日

更新日

2025年03月02日

更新履歴
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日本は今後、急激な人口減少とともに超高齢化社会を迎える。そんななか、医療の世界でもさまざまな問題が起こることが懸念されている。

これに対し、各地の病院はどのような問題意識を持ち、どんな対策を講じているのだろうか。東京都清瀬市松山にある複十字病院の病院長、大田 健(おおた けん)先生にお話を伺った。

少子高齢化の急速な進行に備えた地域医療の展望

当院がある東京都清瀬市は、多摩北部医療圏(清瀬市、西東京市、小平市、東村山市、東久留米市)に属してします。この地域では少子高齢化が進むにつれて課題が表面化しつつありますが、それらの解決に向けた取り組みはまだ十分ではありません。私はこの地域における医療課題を「二次救急におけるネットワークの整備」「他の地域で治療を受けた患者さんの受け入れ」「地域の医療ニーズに合わせた役割の変化に対応」の3軸で考えています。

二次救急におけるネットワークの整備

当院では二次救急(手術や入院が必要な重症患者への救急医療)を行っています。日々の救急医療を通じて必要性を痛感しているのは、患者さんにより素早く適切な対応をするために、「どんな患者さんをどの病院が診るか」を北多摩北部医療圏全体であらかじめ決めておき、専門的な治療が必要な患者さんを迅速に振り分ける体制です。
例を挙げましょう。当院はもともと呼吸器の疾患に強いのですが、救急では頭痛の患者さんもいらっしゃいます。患者さんによっては当院では専門的な確定診断ができないので、くも膜下出血といった最悪のケースを想定して専門の医師がいる他の病院に行っていただくことになってしまう場合があるのです。

このような初期対応でのロスを解消するためには、地域の病院や救急隊が協力し、より整備された形で救急医療を提供することが必要です。たとえば、ECMO(体外膜式酸素化)などの高度な医療技術を必要とする患者さんがこの医療圏やさらに近隣の地域のどの病院に行くべきか、あらかじめ連携体制を構築しておけば、各病院が個別に対応するのではなく、統一されたネットワークの中で迅速に対応できるようになるはずです。

他の地域で治療を受けた患者さんの受け入れ

ほかの地域で病気の診断を受けた患者さんの情報が、充分に連携されない点も問題だと考えています。たとえば、都心にあるがんの治療を専門的に行う病院で確定診断を受けた患者さんが、その後の治療をこの地域で受ける際、患者さんを受け入れるにあたっての連携が充分に整っているとはいえません。患者さんを受け入れる我々としても、事前に情報をいただき、しっかりと準備をしたうえで患者さんに来ていただきたいのですが、それらが充分に行われないと連携した医療を提供しにくくなってしまいます。これを解決するには、医療圏を超えたスムーズな連携ができるような仕組みが必要だと考えています。

地域内での情報連携の推進がカギ

上記の2つの問題を解決するには、医療におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が重要ではないでしょうか。北多摩北部医療圏では、「たまほく地域医療ネットワーク」による情報連携が進んでいます。三次救急を担当する多摩北部医療センター、当院を始めとした二次救急の病院、地域のクリニックなどがこのネットワークに加入しており、各医療機関で受けた検査や治療のデータが正確に共有され、患者さんを地域全体で診ることができるようになっています。クリニックの先生にとっても、自分の患者さんが紹介先の病院で受けた検査の結果を迅速に見ることができ、患者さんが戻ってきたときにより適切な治療ができるはずです。
今後はこの仕組みを進化させ、先に述べたような役割分担の明確化までも行えたらいいと考えています。

また、医療圏を超えて東京都全体での情報連携を行うネットワークに、「東京総合医療ネットワーク」があります。当院も加入していますが、まだ利用している医療機関が十分に広がっていません。このネットワークが充実すれば、都心で診断を受けた患者さんの受け入れがシームレスに行えるようになるのではないかと期待しています。

地域の医療ニーズに合わせた役割の変化

また、地域の医療ニーズに合わせ、各病院の役割を柔軟に変化させること、そしてそれを知っていただくことも重要だと考えています。
たとえば当院は、元々は結核予防会の附属病院として発足し、結核治療において歴史的な役割を果たしてきました。しかし日本国内で結核の蔓延が低下し、当院の役割も時代とともに変わりつつあります。
そこで現在は、結核以外の呼吸器の病気である間質性肺炎(特に高齢者で増加)、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息などの治療を柱としつつ、ほかにも肺がん・大腸がん・乳がんの東京都診療連携協力病院としてがん治療に力を入れたり、認知症の治療や代謝系、内分泌系の病気の治療にも注力しています。
地域の方はいまだに当院を結核治療の病院と思っている方が多いのですが、さまざまな治療においても地域の中核病院としての役割を果たしていくために、今後はより広報活動を強化して当院の役割を地域の皆さんに知っていただく必要があると考えています。

このような取り組みは、北多摩北部医療圏の他の病院でも行っています。各病院の役割の変化と現在の役割分担を皆さんに理解していただき、地域の医療がより効率的に行えるようになればと思っています。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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