世界に類を見ない超高齢社会のなかで、高齢者を支える急性期病院(主に病気になり始めの患者を治療する病院)の舵取りに注目が集まっている。焦点の1つは、急性期から慢性期までの一貫した医療体制の整備だ。すでに病院単独では1人の患者を診続けることは難しく、いかにスムーズに別の医療機関で治療を継続できるかがポイントとなる。現在、全国各地で医療や介護の地域連携が急ピッチで進んでいるところだ。
郊外での高齢化が顕著に現れている兵庫県神戸市では、このような事態にどう対処しているのだろうか。神戸百年記念病院(兵庫県神戸市兵庫区)の理事長を務める田中岳史先生に聞いた。
全国的に加速する超高齢社会の波は、ここ兵庫県神戸市の医療圏にも大きな影響を与えています。2024年時点における神戸市の平均的な高齢化率は29.0%ですが、長田区や須磨区など都心部から離れた地域ではさらに高齢化が進み、高齢化率が33%を超える地域も見受けられます。今はまだ2040年に向けて高齢者の割合が増えていく「2040年問題」の過渡期なので、しばらくは予断を許さない状況が続くでしょう。
こうした背景を踏まえ、神戸市における主要な医療課題は3つに集約されます。1つ目は、超高齢社会に対応した急性期医療の確立、2つ目はニーズが急増している回復期医療や慢性期医療の充実、3つ目はひっ迫する医療資源を見据えた予防医療の推進です。
まず1つ目の超高齢社会に対応した急性期医療の確立については、多職種の連携によるチーム医療がカギを握ります。なぜなら、高齢者特有のさまざま、かつ複雑な症例に対応するには、これまで以上に質の高い医療が必要になるからです。
たとえば当院の場合、通常の診療科に加えて循環器病センターや消化器内視鏡センターを含む5つのセンターを設置し、診療科あるいは部署の垣根を超えた多職種による協調、協力によるシームレスなチーム医療による高度な医療を実現しています。
一方で、合併症のような複雑な病気が頻発する高齢者医療においては、全職員が一致団結できるような医療体制も必要となります。そのため、職員が高いモチベーションを保てるよう働きやすい環境づくりに励みつつ、働き方改革によって業務を効率化し、医師やコメディカルが疲弊しないように努める必要があります。
近年は、ヒューマンエラーの解消やスピーディーな医療を目指し、多くの医療施設が新しいテクノロジーを取り入れるなどDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めています。こうした取り組みも、高齢者医療を支える質の高い医療に一役買っているといえるでしょう。
2つ目の課題は、高齢化によってニーズが急増している回復期医療や慢性期医療を充実させることです。そのためには医療機関同士の地域連携が欠かせません。病病連携や病診連携はもちろん、介護施設や、さらには自治体との連携も進めていくべきだと思います。
急性期医療を担う当院では、院内の地域包括ケア病棟をはじめ、院外の訪問診療型クリニックや訪問看護ステーションなどと連携し、地域全体で高齢の患者さんを支えていけるような仕組みを構築しています。
超高齢社会のなかでは、医療の担い手が生活者の視点をもって患者さんに接することが大切です。そのような意識を持てば、在宅復帰や社会復帰に向けて自ずと患者さんに寄り添っていけると思います。
そのうえで、これからの病院は医療、介護、暮らしを包括した地域包括ケアシステムの中心的な役割を担い、地域にとってなくてはならない存在を目指すべきだと考えています。
3つ目の課題は、ひっ迫する医療資源を見据えた予防医療の推進です。少子化の影響で将来的に医療の担い手が減っていくため、持続的な医療を実現するためにも病気を未然に防ぐことが重要です。
こうした課題に対して、当院では健康管理センターを設置し、まずは地域の皆さんがご自身の健康状態を正確に把握していただけるように取り組んでいます。そして、健康を維持向上していくうえで必要な情報、知識を提供し、実行、継続していただく。それに常に寄り添い続けるのが当院の予防医療と考えています。
また健康に関する啓蒙活動(けいもうかつどう)として、「百年いきいきフェスタ」(2024年10月に第4回目を実施)を開催しているほか、市民公開講座や健康教室などを行い、地域の皆さんの健康に対する意識向上に努めています。
このような取り組みを通じて地域の皆さんの健康寿命を延ばすことは、当院だけでなく日本中の医療機関にとっても重要な使命ではないでしょうか。
今後は、急性期病院であっても、急性期の治療後も患者さんに寄り添っていく姿勢がよりいっそう求められると思います。
そのためには慢性期や回復期を専門とする病院をはじめ、介護施設などと連携しながら、患者さんの状態に合わせた選択肢を提供できるように日頃から準備しておかなければなりません。
そのような取り組みの先に、地域の皆さんが安心して暮らしていける地域包括ケアシステムが実現するのではないでしょうか。当院も急性期医療を担う立場として、このことを肝に銘じながら超高齢社会に立ち向かっていきたいと思います。
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