福岡市民病院 院長 堀内孝彦先生
福岡県は人口あたりの医師数が多い県として知られている。福岡、久留米、北九州といった大都市があり、医学部がある大学を4つも抱え、病床数も充実しているため、住民にとっては高い医療サービスが享受できるエリアといえる。
だがそんな福岡にも、やはり地域医療には課題がある。
現在福岡市の医療機関が直面している課題や対策について、市内中心部で地域医療を支える公立病院、福岡市民病院の院長・堀内 孝彦(ほりうち たかひこ)先生に伺った。
当院の属する福岡・糸島二次医療圏は、福岡県に13ある医療圏の1つで、福岡市と糸島市で構成されています。福岡市の人口は2023年10月時点で約164万人と
、1995年(平成7年)から一貫して増え続けていて、今後も継続して人口が増えるのではと予想されています。
当医療圏の病床数は2万床を超え、人口10万人に対する病床数は全国平均を上回っており、おおむね充足しているといえるでしょう。ただし急性期病床が非常に多く、とくに回復期病床は明らかに不足しています。その病床機能のアンバランスさが課題といえます。2025年でいったん終了する地域医療構想でも改善が試みられましたが、現状として解消には至っていません。このまま福岡市の人口が増えていったとして、やはり高齢者の割合は増えてくることでしょう。今後、人口動態の変化にどのようにして対応していくかも課題の1つです。
また当医療圏の特色として、九州大学病院、福岡大学病院をはじめとするハイレベルの機能を持った病院が林立していることが挙げられます。そのため厚生労働省が推進する地域医療構想での役割分担が進まず、各病院がそれぞれにさまざまな病気に幅広く対応している状況です。
現在の地域医療構想の終了後、改めて状況を確認して新たな地域医療構想が策定されます。まだどうなるかは見えていませんが、福岡・糸島二次医療圏のような大規模な二次医療圏はいくつかに分割されるのではと予想されています。すると、それぞれの病院に求められる役割や地域での立ち位置も変わってくるでしょう。そのときに備えて、各病院とも今から特色をしっかり出しておかなければなりません。
また細かな課題としては、医療圏全体での外傷への対応力の弱さが挙げられます。特に小児や精神疾患を伴う高齢者の外傷への対応は、それなりにできるものの、充実しているとはいえません。夜間の救急対応や、暴力など混乱を招く患者さんへの対応は、人手がかかることもあり、現場を疲弊させています。
さらに、災害対応も課題の1つでしょう。福岡市は警固断層と呼ばれる活断層が通っていて、大規模地震のリスクが高い地域となっています。2005年3月20日の福岡県西方沖地震は、警固断層の北半分が動いたことで起こりました。もし断層の南半分が動けば、福岡市は分断されてしまいます。また津波の危険もあります。そのときに備えての災害医療体制の強化が、喫緊の課題となっています。
人材については、現在のところ、医師や看護師といった医療人材は確保できています。九州地方を代表する都市という福岡市の魅力が、人材確保の強い要因となっているのでしょう。しかし、看護師の離職率は上昇傾向にあります。業務での負担が大きく夜勤もあるという勤務内容もあって、離職した看護師は別の医療機関に移るのではなく、まったく別の職種に就くことも珍しくありません。このまま離職率が高まっていくと、将来的には人材確保という課題が出てくることでしょう。
当院としてこうしたさまざまな課題にどう取り組むかを考える際、大きな足枷となるのは当院が公立病院であることです。これは当院だけでなく、全国の公立病院に当てはまる問題です。
私立病院なら、ある診療科に特化して経営を向上させて対応をはかることも可能でしょう。しかし公立病院には、地域の医療サービスを維持するという役割があります。そのため地域的に脆弱(ぜいじゃく)な診療科を調べ、フォローアップしていかなければなりません。
たとえば、当院では建物がかなり古くなっているため、今、福岡市病院事業運営審議会で建て替えを検討しています。その中で新病院に望まれている機能として、感染症医療、高度救急医療、高度医療、災害医療、地域連携の5つがあります。
感染症医療や災害医療については、有事の際に必要な医療人材や医療設備を整えておかなければいけません。そういった人材や設備は平常時には稼働しないので、そのままでは病院経営の負担となりがちです。高度救急医療も、いざというときのために人材を24時間待機させておくため、なかなか採算が合うという状態にはなりにくい部門です。だからこそ公立病院が担う使命でもあるのですが、経営も成り立たせないと病院自体が立ちゆかず、最終的には医療サービスが提供できなくなってしまいます。公立病院の使命と経営のバランスをどうとっていくのか、まだ模索中です。
また病院の建て替えでは、どこに移転するのかも問題となります。とくに福岡市では、もし次期医療構想で医療圏が現在のものと変わってしまうと、移転する場所によっては近隣の病院と競合する可能性もあるでしょう。
国としては、高度急性期・回復期・慢性期・在宅医療など機能ごとに役割分担をして、病院同士が競合するのではなく連携を強化することで、医療資源の効率的な運用を考えています。それを受けて、診療体制を大きく変更することになるかもしれません。次期医療構想の内容がある程度見えてからでないと、移転計画を実行に移すのは難しいと考えています。
公立病院であるからには、地域のニーズに応えていかなければなりません。それが原点だと考えています。福岡県保健医療計画の中核である、がん、脳卒中、心血管疾患、糖尿病に対して充実した医療を提供しています。今後は、精神疾患への対応も必要ですし、高齢化が進めば認知症ケアなど高齢者医療のニーズも高まります。
新型コロナウイルス感染症がピークだった折り、当院では重症度が最も高い患者さんを積極的に受け入れてきました。求められる医療を提供するのが、公立病院の役割です。もちろんただ受け入れるだけではなく、質の高い医療を提供していかなければいけなればなりません。そのためにも、診療科を横断する医師同士の連携や、他病院・クリニックとの連携、行政との連携などをよりいっそう深めて、柔軟な対応のできる強固なネットワークを構築する必要があるでしょう。
今は医師や看護師をはじめとした医療従事者にも働き方改革が求められる時代となりました。今のうちに対策をとっておかないと、将来的に必要な人材が確保できなくなるかもしれません。そのため、医療従事者であっても家庭と仕事を両立できるような働き方改革は急務だといえます。
個々の負担を軽減するには、さまざまな連携が必須です。たとえば介護スタッフと連携することで、入院治療ではなく住み慣れた自宅で療養できることもあるでしょう。他職種との連携で、効率的な診療や業務の分散が可能になるのではと考えています。また教育機関と連携して教育体制を整備することで、レベルアップを図ったり、キャリア支援を行ったりといったこともできると思います。
一つひとつの取り組みが、将来的にも安定した医療サービスの提供につながるはずです。地域の方々から「いざというときに頼れる病院がある」「子どもの頃から年をとるまで長い付き合いのできる病院がある」と思っていただけるよう、当院を始めとする当医療圏の病院は今から先手を打って医療体制を構築していく必要があると考えています。
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