連載地域医療の現在と未来

物価高×働き方改革×受診減で経営難の病院 再建を手がける医師が語る生き残る道とは

公開日

2026年01月20日

更新日

2026年01月20日

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2026年01月20日

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戸田中央メディカルケアグループ、横浜未来ヘルスケアシステム 理事長 横川秀男先生

かつては「永遠の成長産業」と呼ばれた医療界が、今、厳しい状況を迎えている。コロナ禍を支えた補助金が終わり、歴史的な物価高騰と「働き方改革」の波が経営を直撃。「フル回転してもプラスが出ない」という病院が増えているのだ。

そんななか、30年以上にわたり病院再建を手がけてきた戸田中央メディカルケアグループ(以下、TMG)、横浜未来ヘルスケアシステムの理事長を務めている横川 秀男(よこかわ ひでお)先生に、地域医療を守るための経営戦略、経営哲学を伺った。

医療界を襲う“三重苦”

医療界はこの2年で非常に厳しい局面に入りました。
一番大きいのは新型コロナウイルス感染症に対する医療機関への政府からの補助金がなくなったことです。それと同時に、材料費や光熱費といった物価が大きく上昇しました。

そのうえで2024年からは「働き方改革」が医療界にもいよいよ本格的に適用されました。私がTMGグループに入り病院の再建に携わり始めた34年前は、今では考えられないような無茶な働き方が行われていた時代です。当時私をはじめ多くの医師たちは週に数日、病院に泊まり込んで、1人で何人分もの働きをして経営の立て直しを図りました。しかし、今はもうそんなことはできません。

これらの要素に加えて、患者さんの受療行動も変わりました。
コロナ禍を境に「不要不急の受診」が減り、外来患者さんは私の体感で1割ほど落ち込んだままですので、懸命に医療を提供しても、多くの病院で収支がマイナスの状況です。
今は慎重な運営が求められますが、持続可能性を高める一歩も並行して必要です。どのような工夫が実践できるのか、当グループの事例をいくつかご紹介します。

予防医学の重視、新しい医療機器への投資

まず、人間ドックや検診をより重視することが挙げられます。そもそも予防医療は40歳代以降の患者さんにとって非常に重要であり、我々が優先度を高くして取り組むべき課題です。
私たちのグループではいかに健康を守るかに焦点を当てて「TMG Fit」という健康運動指導士のチームを10年以上前からスタートし、年間1,500回ほど各地の施設で運動指導やウォーキング支援、さらに医療講座を開いています。そうやって地域との接点を持ち、健康を守るお手伝いをしながら、検診の大切さを伝えていく。これが今、大きな柱の1つになっています。

また、新しい医療への投資も重要です。
当グループではたとえば、整形外科と脳神経外科・内科とそのリハビリテーションに強みのある戸塚共立いずみ野病院(横浜市泉区)に整形外科のロボット支援手術(Mako)を導入しました。すると、「自分達の病院もこんなにすばらしい医療をできるのだ」と、職員方のモチベーションが劇的に上がりました。また、西東京中央総合病院には、TMG3台目のダヴィンチ(手術支援ロボット)を2025年11月より導入しました。

医療ネットワーク作りとインバウンド医療への対応

グループの力で強みを作ることも進めています。その一例が、「TMG武蔵脳神経ネットワーク」です。

たとえばこのネットワークでは、当グループ内で脳神経外科・脳神経内科に強みを持つ新座志木中央総合病院と佐々総合病院が中心となって連携し、互いに画像を共有しながら治療にあたる仕組みをはじめ、結果、2病院の脳神経外科の手術件数は年間334件(2021年時点)から642件(2024年時点)へと倍増し、質の向上と件数の増加につながりました。
今では「武蔵脳神経ネットワークで学びたい」と、グループ内の各病院や、他病院からも優秀な医師が集まるようになり、非常によい循環が生まれています。

さらもう1つ、今重視したいのがインバウンド需要です。
特に熱海は中国の方々に人気があり、また日本の病院が提供する医療への彼らのニーズは非常に高いと考えています。
私たちのグループには熱海市に熱海所記念病院、熱海 海の見える病院という2つの病院があり、我々はこの立地を生かし、たとえば、近くにある星野リゾートさんのホテルに宿泊される海外からのお客様で透析治療が必要な方への透析を引き受けられる体制を整えました。

人材への投資と、地域を愛し愛される存在になること

人材への投資も、最も重視すべきテーマの1つです。その実例として、当グループは16年前から中国の優秀な看護師の採用を始めており、のべ約300人に来ていただきました。中国の国家重点大学看護学部を出た、とても優秀な方々です。

さらに、私をはじめ職員のフットワークの軽さが非常に重要で、地域の医療機関はもちろんのこと、公的機関や民間企業とのお付き合いを通してさまざまな視点を学びつつ、より地域に貢献できる機会を探るように努めています。このような活動は地域で必要とされ、愛される病院になるためにも必要不可欠だと考えています。

TMGには「愛し愛される」という理念があり、それをいつも念頭に置いて行動しています。
地域で愛される病院であることは、もちろん当たり前のことですが、より重要だと考えているのは「愛する」という姿勢、すなわち「その地域や時代のニーズを一生懸命に感じ取り、それに対して私たちにできることを提供する」ことです。

たとえば、私達のグループに所属する、一見医療の活動とは関係なく見える女子ラグビーチームや、女子ソフトボールのチーム、男女ローイングクラブ(ボート部)の活躍も、この「地域を愛する」活動の実践として継続しています。

各チームのメンバーは、地域の企業から「お祭りを盛り上げてほしい」という依頼(ニーズ)があれば、積極的に参加させていただきます。そこでラインアウトやタックルなどのパフォーマンスを披露し、会場が大変盛り上がります。
選手たち自身も、「いつも病院に来ていただいている地域の皆様に恩返ししたい」という気持ちを強く持っていて、医療と共に地域の方に喜んでいただける活動をすることが、当グループにとって大きな価値があると思います。

そして、このようなスポーツチームはグループの人材育成にもつながっており、選手たちは職員として働き、引退後に看護師や介護福祉士になる人も少なくありません。熱海所記念病院の病棟看護リーダーも元はソフトボール部のキャプテンで、彼女は引退後に当グループが経営する横浜の看護学校で猛勉強し、今や現場を支える素晴らしいリーダーになっています。

病院経営者こそ「スクラムを」

これまで幾つか今の状況で病院がすべきことを紹介してきましたが、私が一番重要だと考えていることは別にあります。それは、病院経営者同士が互いにスクラムを組むことです。

これだけ厳しい時代ですから、地域の病院同士がライバルとして競い合うだけでは共倒れになってしまいます。病院は地域のための「公のもの」ですから、経営者同士で力を合わせて地域を守っていくことが重要です。
さらに、現場で働く「サブチーフ」クラスの人たちがつながるステージを作ることも重要だと考えており、未来の地域医療を担っていくべき人材を育成することが大切です。

34年間、再建で守り続けた哲学

私がなぜ、このようなさまざまな攻め手を実行できているのか。それは、私がこれまで関わってきた仕事の背景にあるかもしれません。

私は33年間、さまざまな病院の再建を手がけてきました。コロナ禍前は多くの依頼がありましたが、私が引き受ける病院の基準は「ご縁」です。若い頃にお世話になったとか、知人の病院が苦しんでいたとか、あるいは私の母校(昭和医科大学)の近くで若い頃に勤務していた等のご縁を大切にしてきました。

再建で一番大事にしているのは、もともといた職員さん方がいかに安心して信頼し、仕事を続けてもらえるか、ということです。ですから、TMGグループは病院名を最初から変えることはありません。たとえば、東京都大田区で50年以上続いた松井病院を「大田池上病院」に名称変更した際も、20年余り運営した後に元オーナーの許可をいただいてから変更しました。

横浜市戸塚区にある戸塚共立病院(現 戸塚共立第1病院)の再建も、非常に印象深い仕事です。同院はもともと「お産」で地域に知られた病院でしたが、まずは内科や救急医療の立て直しが急務でした。そこで前の経営陣や職員、地域の方々に「お産をしばらく休ませていただき、再建の目途がたったら再開します」とお願いして、経営を交代しました。

立て直しに奔走した結果、今では地域の特定機能病院(高度な先端医療を行う病院)である横浜市立大附属病院や国立病院機構横浜医療センター等と良好な関係を築き、紹介や逆紹介を円滑に行うようになりました。
また、お産の休止を決めてから約20年の時を経て、レディースクリニックを作り、お産を再開することができましたが、このときの感動は忘れられません。

このような、地域の方々や全職員方と融和し、信頼を築いていく医療こそが、この世界では何より重要ではないかと考えています。

病院がこれからも地域で貢献し続けるために

医療グループとしての私たちの役割は、大学病院のような「特定機能病院」と、身近な「医療機関」の間をつなぐことだと考えていますが、入院から在宅医療までをシームレスにカバーし、地域に浸み込んでいくことが、地域医療の質を高めていくことにつながります。

すでに述べたように、現在の病院経営は、物価高騰や働き方改革への対応など、かつてないほどの厳しさに直面しています。しかし、病院はどのような時代であっても、地域の安心と安全を支え、日本の医療システムを支える不可欠な社会インフラです。

私たち医療者はこの公の社会的財産を守り、未来につないでいく責任があります。厳しい環境ではありますが、これからも地域医療に貢献し続けるため、互いに全力を尽くしていければと考えています。
 

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