長崎医療センター 髙山 隼人院長
高齢化の進展に伴う救急搬送の増加をはじめ、回復期病床の不足など、高齢者医療に関する問題は後を絶たない。さらに、後継者不足によって高齢の開業医が廃業を迫られるケースも増えているという。全国と比較して高齢化の進行が15年早いといわれる長崎県では、これらの医療課題とどのように向き合っているのだろうか。
長崎医療センター(長崎県大村市)の院長を務める髙山 隼人(たかやま はやと)先生に聞いた。
長崎県の中心部にあたる県央医療圏では、3つの医療課題を抱えています。1つ目は、高齢化に伴う救急搬送の増加。2つ目は、終末期医療の負担増大。3つ目は医師の不足です。
まず喫緊の課題となるのは、救急医療を支える医療体制の強化です。長崎県は全国的に見ても非常に早いペースで高齢化が進み、ご高齢の方の救急搬送は増加の一途をたどっています。地域には独居のご高齢の方も多いため、早急な対策が必要となります。
また同医療圏では、急性期の治療後に患者さんを受け入れる医療機関が不足しています。それぞれの病院が医療機能の見直しに努めているものの、まだまだ回復期医療の提供は不十分であるといえるでしょう。
これらの課題に対応するには、地域連携が欠かせません。そこで県央医療圏では、大村市や諫早(いさはや)市の医療機関、高齢者施設や自治体が中心となり、2026年度に連絡協議会を設立する方針です。これにより地域内の情報共有を徹底し、病院やクリニックだけではなく介護老人保健施設や社会福祉施設などとの連携を図ります。
また地域連携については、長崎県内の医療ネットワークである「あじさいネット」の活用により、紹介や逆紹介の効率化に努めています。あじさいネットは今でこそ長崎県全体で広く活用されていますが、初めは当院を含め大村市内にある少数の医療機関からスタートしました。これからも当院は、率先して地域連携の仕組みづくりに貢献してまいります。
2つ目の課題は、高齢化によってニーズが高まる、人生の最終段階(以下、終末期)における医療(終末期医療)*への対応です。終末期の患者さんへの医療では、ご本人やご家族の意向に配慮し、特に慎重に診療方針を決める必要があります。そのため、患者さんやご家族の方へのインフォームドコンセント(医療者が患者や家族に対して治療内容、検査内容、リスクなどを十分説明し、理解と同意を得て医療の方向性を決めていくこと)などで医師の負担が増大し、肝心の治療に手が回らなくなってしまうという問題を抱えています。
当院を例に挙げると、患者さんやご家族に治療内容を説明し、どこまでの治療を希望されるのかを伺うだけで、長ければ1時間以上かかってしまうこともあります。特に、大規模な急性期病院は専門的な診療に注力しているため、診療の前段階でそこまで時間を割くことはできません。
こうした問題の鍵を握るのは、ご高齢の方を取り巻く方々の存在です。できれば健康状態が落ち着いているうちに、ご高齢の方が望む医療についてご家族間や高齢者施設の中で話し合っていただきたいと思っています。終末期に備えて日ごろから考えておくことの重要性は、厚生労働省が普及に取り組む「人生会議」においても示されています。ご高齢の方を地域全体で支えていく姿勢も大切になるでしょう。
*2015年3月に厚生労働省の検討会において終末期医療から名称変更
3つ目の課題は、医師の不足です。近年、後継者の不在によって廃業する開業医が増えてきたと感じています。かかりつけ医の不在は、特に周辺地域からのアクセスが困難な地域において非常に深刻な問題です。また、医師の働き方改革によってこれまでのような医療体制を維持することができず、救急医療にそのしわ寄せがきていることも急ぎ解決すべき課題です。このような状況ではありますが、当院は開院より一貫して離島やへき地を支援してきました。また、ドクターヘリの基地病院として広範囲の救急医療を担っています。
さらに周産期の領域では一次、二次救急の医療機関で対応できない未熟児やハイリスク妊娠などを積極的に受け入れ、専門的な医療を通じて地域医療を支えています。この地域で医師不足による問題が起きないよう、今後も当院の責務を全うしていくことが重要だと考えています。
また、人材不足に対しては、各医療機関での育成も重要ではないでしょうか。当院では医療人材の不足をチーム医療で補うため、特定行為研修を修了した看護師や認定看護師、診療看護師の養成に力を入れています。こうした専門的なスキルをもつ看護師は診療行為の補助にとどまらず、医療全体のマネジメントを担う存在としても大いに期待できるでしょう。これによって限られた人員体制でパフォーマンスを最大限に発揮できるようにしたいと考えています。
少子高齢化により、医療機関の負担はますます増えていくことでしょう。今後はかかりつけ医と、より専門的な医療を担う病院が役割分担を推し進め、地域全体の医療水準を向上させていく必要があります。そのためには地域の皆さんの協力が欠かせません。質の高い医療を維持していくためにも、症状が軽い場合はかかりつけ医に相談していただくようにお願いいたします。
それと同時に各医療機関でタスクシフトなどによる院内の体制強化も進め、人口減少と少子高齢化によってさまざまな問題が表面化する「2040年問題」に対して今から備えることも重要です。当院もご高齢の方のみでなく、全ての世代の受け入れをさらに拡充し、地域の方々が安心して暮らしていけるように努めたいと思います。
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。