連載地域医療の現在と未来

医師不足が進み厳しさが増す医療環境…山梨県の医療が直面している課題とは

公開日

2025年07月22日

更新日

2025年07月22日

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2025年07月22日

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甲府病院 萩野哲男院長

山梨県の高齢化率(人口に占める65歳以上の高齢者の割合)は31.6%(2024年4月・以下同じ)で上昇傾向が続いており、全国平均の29.2%を上回って推移している。2040年には39.6%に達すると試算もされており、高齢化の進展が予想される地域の1つといえるだろう。そのようななか、地域の病院はさまざまな課題を抱えており、解決に向けた取り組みを急いでいる。

山梨県甲府市で重症心身障害医療や周産期医療、小児医療などに注力している甲府病院の院長を務める萩野  哲男(はぎの てつお)先生に、直面している地域の医療課題についてお話を伺った。

山梨県では中北医療圏に医師が偏っている

当院がある山梨県では、医師が地域や診療科によって偏在していることと、救急医療を提供するための対策が遅れていることが問題だと考えています。

まず、前者について、山梨県地域医療支援センターがホームページで公表しているデータをもとに紹介しますと、山梨県の人口10万人当たりの医師数(2022年12月時点・以下同じ)は267.8人で、全国平均を6.9人下回り、都道府県別では28番目の水準です。

一方、山梨県は中北医療圏と峡東医療圏、峡南医療圏、富士・東部医療圏の4つの医療圏に分かれており、人口10万人当たりの医師数は中北医療圏が282.9人、峡東医療圏が186.4人、峡南医療圏が114.3人、富士・東部医療圏が137.4人です。このように地域によって大きな偏りがあるのは、中北医療圏に山梨大学医学部附属病院(中央市)や山梨県立中央病院(甲府市)などの医療体制が充実している病院が集中しており、若い医師の皆さんが同院・同地域での勤務を希望していることが影響しているからでしょう。一方で、過疎地域を中心に医師の高齢化が進む地域では、若手医師の確保に苦しんでいます。

不足しているのは産科や小児科の医師だけではない

また、山梨県では特定の診療科の医師が不足するなど、診療科によって医師が偏在していることも問題です。顕著なのは産科や小児科で、なかでも小児科は全体的な医師不足に加えて、小児整形外科の専門医も不足しており、小児科の二次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)を提供する体制が不十分です。

では、そのほかの診療科が十分かというと、必ずしもそうではありません。私は内科系の医師が不足していると感じており、実際に内科の専門医を確保するのが難しくなっている病院もあります。また、外科系の医師も減少傾向にあり、手術対応が限られてしまう場合があります。

救急医療の課題解決に向けた取り組みが遅れている

山梨県では高齢化が進んでいることから、ひとり暮らしの方や施設からの要請による高齢者の救急搬送が増えています。ただ、約半数の方が軽傷で、診療を終えるとひとりで歩いて帰る方が相当数いらっしゃいます。今後、高齢化がさらに進むと高齢者の救急要請が今以上に増加し、救急医療がひっ迫しかねません。救急搬送については、早期に適正化を図っていく必要があるといえるでしょう。

また、先述した医師の減少・偏在も救急医療に影響を及ぼしており、受け入れ先を探すために救急車が長時間待機する原因になっています。最近ではそれぞれの病院が得意分野に特化するなどして対応していますが、明確に役割分担ができているわけではありません。適切な救急医療を提供していくためにも、役割分担についてしっかり話し合っておく必要があります。さらに、地域のクリニックや診療所との連携を強化することで、軽症患者の救急搬送を減らす取り組みも進めていきたいと考えています。

国立病院機構としての使命を果たしたい

このように、山梨県の地域医療はさまざまな課題を抱えています。そのようななかで当院は、負担が大きいために敬遠されがちな小児医療を提供するなど、地域の医療課題を解決するために取り組んできました。

たとえば当院では、2025年6月に子どもの成長や運動に関する医療に特化した新たな医療拠点として、「こどもの成長と運動の医療センター」を開設しました。本センターは、山梨県内の小児医療のさらなる充実と、子育て世代が安心して暮らせる環境づくりを目的とした、先進的な取り組みとして位置づけています。

国立病院機構だからこうした努力をするのは当然だとお思いになるかもしれません。しかし、現在の同機構は独立行政法人に移行しており、国からの交付金は段階を経て消滅してしまいました。そのため、機構内には厳しい病院経営を強いられている病院もあり、機構内で相互に協力し合いながら、安全で質の高い医療を提供するために努力をしているところです。

山梨県の状況を踏まえると、今後は特定の医療機関だけに負担が偏るのではなく、県全体での医療資源の再配分や、地域間・診療科間の連携強化を進める必要があるでしょう。それらを進めるにあたり、当院としてもできることは全て行い、持続可能な医療体制を築いていく動きを加速させていきたいと考えています。

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