京都府舞鶴市の地域医療が岐路に立たされている。
最大の要因は人口減少で、このままのペースで少子高齢化が進んでいくと、基幹的な病院の稼働率がさらに低下し、医療崩壊を招く可能性すらある。そこで舞鶴市は行政が中心になって病院の集約・統合を含めた改革案の策定に乗り出した。
こうした状況をふまえ、舞鶴医療センター(京都府舞鶴市)の院長を務める法里高(ほうり たかし)先生に、舞鶴市の地域医療の課題と今後について話を伺った。
当院がある京都府舞鶴市は、京都府北部地域の中心的な都市の1つであり、人口は約7万5000人を数えます。当市での医療課題は、医療提供体制が分散して非効率になっていること、それによる医師・診療科の偏在配置です。
まず、当市の非効率な医療の状況についてです。舞鶴市内には病床数100床以上の大きな病院として、舞鶴共済病院、舞鶴赤十字病院、市立舞鶴市民病院、そして当院の4つがあります。地域の皆さんにとっては医療体制が充実したよい環境といえますが、全国平均に比べると病床数が多いため、実は各病院とも病床稼働率が低く病床が空いている状況が続いており、経営的にも厳しくなっています。
また、救急搬送の際には救急隊の方が4つの病院にそれぞれ問い合わせて受け入れ先を決めなければならず、搬送に時間がかかっていることも問題です。命にかかわるケースも少なくないことから、そのような患者さんを受けいれるワンストップ的な救急受け入れ体制を構築することが求められています。
これまで舞鶴市では、4つの病院がそれぞれの特徴を生かし、強みのある診療分野の患者さんを分担して受け入れる“すみ分け”の体制を整えてきました。現在は循環器の治療は舞鶴共済病院、整形外科は舞鶴赤十字病院、慢性期医療は舞鶴市民病院、脳神経外科・周産期医療・精神医療は当院が中心となって医療を提供しています。
しかしながら、現在の体制では不都合なケースが生じています。例えば、ご高齢の方が自宅で転倒され救急車を依頼したとしましょう。救急隊は転倒の原因は何か? 脳卒中の可能性、心筋梗塞の可能性、また転倒による骨折などさまざまな要因が考えられ、どの病院に搬送すべきか判断に迷うこともしばしばであり、また、搬送先での治療後にすぐに他病院へ転送されるケースもあります。
大きな病院が4つもあり、それによる医師・診療科の偏在配置も、大きな課題です。少子化で若者の絶対人数が減るなか、2024年4月から本格的に始まった医師の働き方改革の影響もあり、京都府北部の病院に医師を派遣することが多い京都府立医科大学から市内の4つの病院へ、十分な医師を派遣することが難しくなっているのです。これによって、診療科によっては治療に対応できないケースも見受けられるようになりました。
この問題を解決するには、先ほどお伝えした病院の集約や統合を含めた再編が有効であるとともに、派遣された医師に定着してもらえるよう、スキルアップできる環境も整備しなければなりません。
また、良質な医療を提供していくために欠かせない看護師や薬剤師などのコメディカルについても、現地採用が困難となっており、人手不足に陥っています。特に看護師は看護大学がある京都市に流れる傾向があることから、現地採用を強化する必要があるとともに、若い方に魅力を感じてもらえる職場環境を整備することが必要だと考えています。
そこで現在、舞鶴市長を旗振り役として医療機能の集約や病院の統合を含めた改革案の検討を行っています。4つの病院の中には東京に運営母体がある病院もあり、それぞれの意向もあることから、集約や統合の話がまとまるまで時間がかかるかもしれません。しかし、舞鶴市の地域医療が行き詰まる前に、皆さんの意向を踏まえた最善の施策を取りまとめたいと考えています。
これからの地域医療に求められるのは、次の世代に「安心で安全な医療」を提供できる体制を受け渡すことです。現在の舞鶴市は、表向きは医療体制が充実しており、ご高齢の方などは不自由を感じないかもしれません。しかし、お子さんがいる世帯などは、小児科や産婦人科の数が少ないと感じているのではないでしょうか。
地域医療をよりよいものにするために、舞鶴市はすでに改革に向けて動き出しています。ぜひ市民の皆さんからのご理解とご協力をいただければと思います。
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