連載地域医療の現在と未来

最期まで地域で支えるために―地域密着型病院が見据える仙台の地域医療の課題とは?

公開日

2025年06月26日

更新日

2025年06月26日

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2025年06月26日

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地域医療機能推進機構(JCHO)仙台南病院 朝倉 徹病院長

地域密着型の中小規模病院の多くは、地域医療においてさまざまな役割を担っていることが多い。地域住民の身近な医療ニーズに応える一方で、急性期(病気やけがが発症して間もない時期)の対応を行うこともあり、急性期から回復期、慢性期まで幅広い医療が求められている。仙台市に位置する地域医療機能推進機構(JCHO)仙台南病院も、そんな病院の1つだ。

幅広い形で地域医療に関わる同院から見た地域医療の課題について、病院長である朝倉 徹(あさくら とおる)先生にお話を伺った。

地域医療に幅広く関わるなかで見える課題

当院は、仙台市太白区に立地し、急性期から回復期、さらには慢性期まで、患者さんの病状や生活背景に応じた医療を提供する地域密着型の病院です。仙台市内はもちろんのこと、名取市、岩沼市、亘理町、山元町など近隣地域からも多くの患者さんが受診されます。仙台医療圏内の高度急性期病院や、地域のかかりつけの先生方と緊密に連携を図りながら、幅広く地域医療を担っています。

仙台医療圏は宮城県の中心部に位置する医療圏で、仙台市(青葉区、宮城野区、若林区、太白区、泉区)をはじめ、富谷市や黒川郡大和町などが含まれます。この医療圏には2020年時点で約150万人が暮らしており、県内で最も人口が集中しているエリアです。その中でも仙台市は約109万人を占めており、若年層や子育て世代の流入も見られるなど、東北地方の中では比較的活力のある都市圏となっています。ただし、全国的な傾向と同様に高齢化も進行しており、高齢化率は25%前後と、全国平均とほぼ同じ水準にあります。

こうしたなかで、私がこの医療圏において特に強く感じている地域医療の課題は、大きく3つあります。1つは病院経営の厳しさ、次に医療・介護を支える人材の不足、そして今後さらに増加が見込まれる高齢者の「看取り」の体制整備です。地域の実情に即した対応と、医療・福祉の連携強化がこれまで以上に求められています。

経営難・人手不足問題の改善はハードルが高い

病院の経営難は、仙台医療圏に限らずおそらく全国で多くの医療機関が抱える課題ではないでしょうか。保険診療を行う病院の収入は、そのほとんどを診療報酬が占めていますが、これは私たちの意思では左右できない公定価格であり、加えて物価高騰などにきちんと見合う率で引き上げられる形になっていません。そのため、近年の病院経営は急速に悪化し、赤字経営となってしまう病院の割合が増加するという深刻な事態に陥っています。

また、医療従事者の不足も深刻です。たとえば当院の場合は、大学から医師を派遣いただくことが多いですが、近年は人材不足から派遣が難しく、当院では産婦人科など一部診療科を休診せざるを得なくなっています。医師に限らず、看護師をはじめとしたコメディカルスタッフも同様であり、十分な人数を集めることが難しい状況です。

こうした状況を少しでも改善するためには、できるだけ効率的に地域の医療資源を活用することが不可欠だと考えます。

そのため当院では、地域連携に力を入れて取り組んでいます。近隣の医療機関と密な連携を図ることで、紹介や逆紹介をスムーズに行えるような関係を構築し、限られた医療資源を地域全体で生かせるよう努めています。

一方で、各病院での努力だけではできることに限りもあるため、この地域でも「地域医療連携推進法人」がつくられることが望ましいと考えています。地域医療連携推進法人は、地域の医療機関や介護施設等が連携して参画する法人で、病床や人材の融通、ノウハウ・資金の融通などM&A(合併や買収)のような幅広い利点を持ちながらも、参加法人がそれぞれの独立性を保つことができるというのが特徴です。

現在のところ、仙台医療圏だけでなく宮城県全体を見ても、地域医療連携推進法人の設立はなされていません。しかし、先ほど述べたとおり病院の経営や人手不足の問題はかなり深刻な状況となっていますので、こうした連携システムの敷居がもっと低くなり、効率よくお互いを支え合える体制を構築できるようになってほしいと願っています。

在宅での看取りにも対応できる訪問診療や看護の充実が重要

近年は、住み慣れた自宅で最期を迎えたいと考える方が増えていることや、在宅医療の機能として「住み慣れた自宅や介護施設等、患者が望む場所での看取りの実施」が求められていることもあって、病院以外の場所での看取りとなるケースが少しずつ増加しています。

一方で、単身世帯や老々介護世帯の割合が増えるなど、家族の介護力は低下しており、在宅での看取りを実現するには医療従事者の力が必要不可欠な状況です。

そうした背景から、当院でも2023年3月に訪問看護ステーションを開所し、看取りも視野に入れた幅広いケアを実施しています。また、地域においても訪問診療を開始するクリニックや往診専門のクリニックなどが増えてきたので、そうした先生方と連携して訪問看護の提供も推進中です。今後も可能な限り体制強化・充実を図り、いずれは訪問リハビリテーションの提供も視野に入れています。

病気で困ったら、まずは地域の医療機関に相談を

近年はインターネットの普及から、病院を受診する前に病気について調べて来られる方も少なくありません。もちろん、自身で病気について調べるのは悪いことではないのですが、一方で誤った情報や知識を鵜呑みにしてしまい、適切な診療の妨げになることもあります。

自覚症状をきちんと説明していただけること自体はとても助かりますが、「この症状があるから、この病気に違いない」というような断定をもって診療を受けることで、適切な治療機会の喪失につながることも考えられます。医療において大切なのは、まず患者さんと医療従事者との信頼関係です。

健康面で不安を感じたときや体調が悪くなったときなどは、まずは地域の医療機関にご相談いただき、目の前にいる医師の言葉に先入観を持たず耳を傾けてほしいと思います。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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