地域の医療機関は少子高齢化が進むのに合わせて“変化すること”が求められている。しかし、地域の実情はそれぞれ異なり、全ての医療機関が画一的に対応するのは難しい。診療にあたるなかで感じている地域医療の課題について、中東遠総合医療センター(静岡県掛川市)の企業長兼院長を務める宮地正彦先生にお話を伺った。
当院がある中東遠医療圏は、政令指定都市の静岡市と浜松市との間に挟まれており、両市とは距離的にも離れているため、地域で医療を完結することが求められているのが現状です。そのため、この地域は“地域医療をどのようにして守るか”と“医師不足をどう乗り越えればよいのか”という2つの課題を抱えています。
2020年の国勢調査をもとにした人口動態をみると、静岡県全体では人口減少が進んでいます。一方、当院がある掛川市や隣接する袋井市は、製造業などによる雇用の増加や、外国人を含む若い世代が流入していることなどから人口が増加しており、若い世代も対象にした急性期医療の需要が多い地域です。ただ、少子化で高齢者の人口増加も予想されていることから、将来的には慢性期の医療の比重が増していきます。現在は過渡期にあると考えられ、今後はこうした地域の変化にうまく対応し、必要な医療を継続的に提供できる準備をしておかなければなりません。
地域医療を守るためには、医師が外に出て活動することも考えなければなりません。それを実感したのが新型コロナウイルス感染症に対応しているときでした。当時、新型コロナウイルス感染症に感染した患者さんを当院で受け入れ始めると、深夜でも頻繁に救急搬送されてきたため、医療が逼迫(ひっぱく)してスタッフがかなり疲弊しました。このままでは医療が崩壊すると危惧していたところ、県が近隣のホテルを借り上げてくれたため、そこに当院の看護師が常駐し、医師は24時間オンライン体制で患者さんを診療しました。それにより医療の逼迫が解消され、地域医療を守ることができたのを思い出します。後述する近隣病院の支援や在宅医療など、医師が外に出て活動する場はいろいろとあります。私たちは状況の変化に応じて、臨機応変に対応していくことが求められているといえるでしょう。
医師不足は多くの病院が抱えている課題です。厚生労働省の統計によると、2022年12月31日時点の静岡県の人口10万人あたりの医師数(医療施設従事者)は230.1人で、全国平均の262.1人を下回っています。医学部がある大学も浜松医科大学の1つしかなく、ほかの都道府県と比べて静岡県は医療資源が乏しいといえるかもしれません。それでも県内では地域の病院が連携し、充実した医療が提供できていると思います。
一方、経営がうまくいかず、急性期の医療提供をやめる病院や、慢性期医療に重点を移し始めている病院もみられます。そのような状況になると、救急搬送が一部の病院に集中してしまい、地域医療が崩壊しかねません。こうした現状を行政に訴えたことがありますが、経営が悪化した病院を行政が支援するのは難しいようでした。そのため、地域医療の崩壊を防ぐためには、近隣の病院が協力して維持の難しい病院を支援するなど、今以上に踏み込んだ地域連携が必要になると感じています。
昨年(2024年)から医師の働き方改革が本格的に始まりました。働き方改革に取り組むと、逆に医師不足の状態になりかねませんが、発想を変えるとチャンスになると私は考えています。たとえば、現在の医師の負荷が100%だった場合に先に述べたような近隣の病院の医療縮小が発生すると、当院のような基幹的な役割を担う病院では患者さんが増えてしまい、その結果、医師の負荷が100%を超えてしまいます。このような状態は短期的にクリアできても、長期的には医師の疲弊を招き、地域医療が崩壊しかねません。そこで、働き方改革をきっかけに効率化を進め、医師の負荷を常に80%程度まで軽減させることができれば、急な医療需要の増加にも無理なく対応できます。ただ、効率化を口にするのは簡単ですが、実行するのは難題です。まずは職員全員が「効率化」の意識を共有し、意識しながら日々の仕事に取り組むことが大切だと思います。
地域の病院の多くが医師不足という課題と闘っており、1人の医師に全てを求めるのが難しいのが現状です。それでも医療崩壊を防ぐため、この地域で医療を完結できるよう、当院では今後も連携を強化して皆で支えてまいります。
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