大阪府済生会千里病院 院長 中谷敏先生
大阪府吹田市の人口構成をみると、高齢化率は全国平均を下回っている。同割合は今後数年横ばいで推移すると予想されているものの、後期高齢者の数は増加傾向にあり、高齢化社会の進展に合わせた医療体制を整える必要性が高まっているといえるだろう。
同市の急性期病院として地域医療を支えている大阪府済生会千里病院の中谷 敏(なかたに さとし)院長に、直面している地域医療の課題について話を伺った。
全国的に高齢化が進んでいますが、当院がある地域も例にもれず高齢化が進んでおり、入院している患者さんの後期高齢者の割合が6割を超えることもあります。今後も増加が予想される高齢者の方々にどのように医療を提供していくのかは、大きな課題と言えるでしょう。
高齢者の医療について考えるとき、具体的には、さまざまな疾患を併発している方への対応と、急性期治療を終えたものの転院先が見つからない方への対応が大きな課題となります。この2点は早急に解決しなければなりません。
全国的に人口が減少傾向にあるなかで、当院が位置する吹田市は緩やかながらも人口が増加している数少ない地域です。この先も千里ニュータウンの建替えや新たな住宅建設など再整備が進むことから、しばらくの間は人口が増加していくと見込まれています。しかし、年少人口と生産年齢人口は減少傾向にあり、将来的には人口が減少していくことが予想されています。
一方、高齢化に注目すると、2023年時点の高齢化率は23.7%でした。市内の高齢化率はここ数年横ばいで推移しており、同時期の国内の高齢化率29.1%を下回っていますので、それほど心配する必要がないと感じられるかもしれません。しかし、65歳以上の人口に占める75歳以上の後期高齢者の割合は、2020年の51.7%から2025年には60.6%まで増加すると予想されています。また、同割合は2040年には52.3%に減少するものの、高齢化率は30%を超えると予想されており、今のうちに高齢化対策を講じておく必要があるといえるでしょう。
当院は地域の三次救急を担っていることもあり、毎日のように80歳代や90歳代の高齢者の方が救急搬送されてきます。こうした方々は複数の疾患を併発していることが多く、高度な医療が必要になるケースもあることから、受け入れられる病院が限られてしまうこともあります。
当院は地域医療を支える最後の砦ですので、救急の要請には積極的に応じています。しかし、認知症を発症していたり、徘徊をしてしまうケースがあったりしますので、対応に苦慮することがあるのが実情です。こうしたことを考えると、今後は高齢者に特化した救急医療を提供する体制を整えておくことが必要になると考えています。
また、急性期治療を終えた患者さんの転院先の確保は、高齢化が進むとさらに重要になってきます。最近では市内でも独り暮らしの高齢者の方が増えており、急性期の治療を終えても自宅に戻れない方が少なくありません。また、施設から搬送されてくる患者さんについては、点滴や胃ろうといった医療行為が必要になると、元の施設に戻ることが難しいことがあります。そうした背景から転院先の確保に時間がかかり、急性期病院に長期入院することになると、病床のひっ迫が起こります。病床が不足することで「重篤な患者さんを受け入れる」という急性期病院としての役割が果たせなくなると、地域の医療はバランスが崩れていきます。
こうした状況を回避するためにも地域全体で回復期・慢性期の医療を提供する体制を充実させるとともに、後方支援病院との連携を強化していく必要があります。
急性期から回復期・慢性期までを1つの病院でカバーするのは難しいことですが、だからこそ地域での連携を深め、それぞれの役割を全うできる体制をつくることが重要です。
当院では、2024年の年末から年始にかけて、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症など季節性の感染症が拡大した際には、大勢の患者さんが搬送されてきて、あっという間に病床がいっぱいになりました。後方支援病院のベッドも満床の状態になり、患者さんの転院先を確保するのにかなり苦慮しましたが、その際には付き合いの深い医療機関にお願いして、何とかベッドを空けていただくことができました。日ごろから良好な関係を構築し、地域の医療機関との連携を強化することで、今後も患者さんに不自由をおかけしないように努力していきたいと思っています。
また、2025年6月には緩和ケア病棟がオープンし、当院で急性期から終末期まで患者さんをサポートできる体制が整いました。こうした取り組みを積み重ね、地域の医療課題解決に貢献していきたいと思っています。
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