連載地域医療の現在と未来

公立病院がない神戸市の東部地区で地域医療を守り抜くには? 人材育成や地域連携で変わりゆく医療ニーズに適応

公開日

2025年09月25日

更新日

2025年09月25日

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2025年09月25日

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神鋼記念病院 東山 洋院長

「神戸医療産業都市」を標ぼうする兵庫県神戸市は、人工島のポートアイランドに多くの医療機関を誘致するなど、医療分野に強い街として知られる。その一方、公立病院がない同市の東部地区では、民間病院が地域医療をけん命に支えている。

高齢者の増加による高齢者医療のひっ迫や物価の高騰など、病院を取り巻く環境が年々厳しくなるなか、民間病院はどのように地域医療を守り抜いていくのだろうか。神鋼記念病院(兵庫県神戸市中央区)の院長を務める東山 洋(ひがしやま ひろし)先生に地域の医療課題を聞いた。

神戸市東部に公立病院がない

神戸市の東部地区における医療課題は3つあります。1つ目は医療の偏在、2つ目は医療人材の育成、3つ目は病院の経営難です。

まず1つ目の課題である医療の偏在は、医療機関や診療科の偏在と言い換えることができます。現在神戸市には4つの市民病院があるものの、それらは全て同市の中央部や西部地区に集中しており、東灘区、灘区がある東部地区の地域医療は民間病院に委ねられています。

これについては、行政も交え、より具体的な対策を行う必要があるでしょう。また、今現在は地域の民間病院が公立病院の役割も持ち、医療を提供する必要があると考えています。当院はすぐ東側に灘区があるという立地や、100年以上にわたってこの地域に根差した医療を行ってきた経緯から、神戸市の東部地区において引き続き市民の方々を支える役割を担っていきたいと考えています。

役割分担で地域医療を全面的にカバーしていく

中央区周辺でも医療の偏在による課題があります。
神戸市の公立病院である神戸市立医療センター中央市民病院(768床)や神戸市立神戸アイセンター病院(眼科のみ、30床)などの市民病院は、中央区にある人工島であるポートアイランドに建っており、津波などの災害で医療機能が停止してしまうリスクを抱えています。

さらに中央区には当院(333床)のほか、近隣には公的な病院である神戸労災病院(316床)や神戸赤十字病院(310床)などの病床300床を超える急性期病院が集まっており、ともすればそれぞれの医療機関の運営にダメージを与える可能性があります。この課題に対しては、各病院の医療の役割分担を明確にすることで何が起こっても地域の医療を提供し続けられるようにすることが求められるでしょう。そして実際に、そのような役割分担はすでに始まっています。

たとえば、当院では対応できない心臓血管外科の診療を神戸労災病院や神戸赤十字病院にお任せしたり、逆に神戸労災病院では診ることのできない脳神経外科の症例を当院や神戸赤十字病院で受け持っています。また、これらの3つの病院は小児科や産科を設けていないため、近隣にある「母と子の上田病院」などと連携し、不足している診療科を補完している状況です。

さらに当院の例でいえば、がん診療についてはがんゲノム医療連携病院や地域がん診療連携拠点病院となっている当院が注力しています。そのほか、総合医学研究センターでは難病に指定されている膠原病(こうげんびょう)にも対応しており、自己免疫性疾患を抱える患者さんの数少ない受け入れ先となっています。

このような役割分担は、急性期の医療に限ったものではありません。高齢化が進むにつれ、回復期や慢性期の医療ニーズも高まっています。近隣では、神戸平成病院のようなリハビリテーションに特化した医療施設と急性期病院が連携し、地域医療ネットワークを構築することで、高齢の患者さんを支えています。

へき地の支援を通じて医療の技術と経験値を向上させる

2つ目の課題が、さらなる高齢化の進展に備えた医療人材の育成です。日本のほかの地域と同様、神戸市でも75歳以上の後期高齢者を中心に高齢化が加速しており、2040年をめどに高齢者人口がピークに達すると推計されています。

高齢化が進むと、複数の病気を併発するご高齢の患者さんが多くなるため、これまでのような臓器別の専門医を中心とした医療体制はいずれ通用しなくなるでしょう。今後は、医師が専門分野を追求すると同時に、総合的な診療にも対応していく必要があります。

こうした時代の流れに適応するために、当院では二次救急医療だけでなく総合的な医療技術を身につけるために若手の医師をへき地へ派遣して学んでもらっています。その例の1つが、2020年から宍粟市(しそうし)の国民健康保険波賀診療所に対し月1回から始め、2022年2月から週2回のペースで医師を派遣していることです。過疎化が進む地域での医療活動を通じて、若い医師は院内の外来診療や入院治療だけではどうしても経験できない幅広い症例に対応する機会が得られます。

なお、宍粟市には公立宍粟総合病院があり、同市全体が総合病院のない地域というわけではありませんが、波賀診療所のある地域は医療資源が限られているエリアに該当します。そのような場所で総合的な診療を行う経験は、必ずや医療技術と経験値の向上につながるでしょう。

医療機能の強化で経営状態を改善

3つ目の地域課題は、全国的な問題でもある病院の経営難です。近年の物価高騰によって薬剤や医療材料の購入価格が上昇し、病院経営を圧迫する一因となっています。それにもかかわらず、2024年度の診療報酬改定では診療報酬がわずか0.88%の微増にとどまり、多くの病院長は経営の舵取りに頭を悩ませていることでしょう。

兵庫県では国の医療再編が活発に行われており、病院同士の合併によって経営を立て直す公立病院や公的病院が見受けられますが、民間病院はそのようにはいきません。それぞれの病院が自らの力で選択と集中を推し進め、地域のニーズに見合った医療体制を強化していく必要があります。当院の場合も、2014年から継続指定されているDPC特定病院群をはじめ、2021年に地域がん診療連携拠点病院、2023年にがんゲノム医療連携病院、2024年に兵庫県へき地医療拠点病院と神戸市災害対応病院に指定されるなど、医療機能の強化に力を入れることで持続的な地域医療を実現していく考えです。

繰り返しとなりますが、これからの地域医療を支えていくには医療施設間の連携と人材育成が欠かせません。それらによって変化し続ける医療ニーズに対応し、誰もが安心して暮らせる地域医療を築いていくことが重要ではないでしょうか。

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