済生会福岡総合病院 松浦 弘名誉院長(済生会福岡総合病院ご提供)
福岡県福岡市は、転入者の増加で人口が増加している国内でも数少ない自治体だ。医療面では福岡市内に大学病院が2つあり、救急医療体制が充実。また、基幹病院も数多く存在し、救急医療と回復期・慢性期医療がバランスよく提供されている。
他の地域に住んでいる方からすると、医療体制が整っていてうらやましいと感じるかもしれない。しかし、福岡市の医療関係者は高齢化に危機感を持っているという。
その福岡市において、高度急性期医療(循環器・脳卒中・がん)を担い、地域の中核的な病院となっている済生会福岡総合病院 名誉院長の松浦 弘(まつうら ひろし)先生にお話を伺った。
当院がある福岡市の人口は緩やかながらも2040年ごろまで増加傾向が続くと予想されています。人口減少に頭を抱える地域が多いなか、恵まれた環境にあると言っていいでしょう。しかし、福岡市の中心部では独り暮らしの高齢者が増えており、そのような方々にどのように医療を提供していくのかが課題です。また、福岡市では2021年以降出生数が減少に入り、その影響が徐々に出始めていることも課題になっています。
まず、当院がある福岡・糸島医療圏について簡単に紹介したいと思います。福岡・糸島医療圏は福岡市と糸島市で構成されており、その中に約170万を超える人が暮らしています。その中でも福岡市の人口は増加傾向にあり、2040年(令和22年)頃に約170万人に達してピークを迎えると予想されています。
このように福岡市の人口は増加傾向にありますが、先述のように中心部では独り暮らしの高齢者の方が増えており、高齢者の方々に医療をどう提供していくのかが課題となっています。
特に独り暮らしの高齢者の方は、症状が悪化してから救急搬送されることが多いので、高齢化の進展に合わせて救急医療の現場がひっ迫する可能性があります。そのため、病院それぞれの得意分野を生かした重症患者の適正な分担がポイントになってくると思います。たとえば当院であれば循環器疾患・脳卒中・がんなどに強みがあり、それらの患者さんを積極的に受け入れています。
また、治療を終えた後の転院先探しでは、回復期・慢性期の医療を提供する後方支援の医療機関との連携が欠かせません。この点について福岡市では地域連携を重んじていることから、急性期と回復期、慢性期の棲み分けが進んでいます。当院のドクターと後方支援の医療機関にいるドクターが参加するミーティングも定期的に開催しており、顔が見える連携を心掛けていますので、地域の皆さんにはご安心いただけるかと思います。
もう1つの課題である少子化の影響については、簡単に解決しないかもしれません。当院は都市の中心部にあり、元来小児の患者が少ないうえ、分娩数が激減しているため、2021年(令和3年)3月をもって産科と小児科の診療を中止しました。
また、妊娠22週から出生後7日未満のお母さんと赤ちゃんへの特別な医療である周産期医療も、生まれてくる子どもが減ってくると維持が難しくなってくるでしょう。現在、当地域では2つの大学病院と福岡市立こども病院、九州医療センターが中心となって周産期医療を提供していますので、地域全体で連携を強化し、診療がスムーズに進むよう、当院も支援・サポートをしていく必要があります。
当地域には大学病院や、病床数が300を超える病院が18もあります。特に福岡市には、県内に4つある医学部のうち2つが集中しており、医療資源が充実しています。こうした背景から、救急医療体制も全体的に整備されており、救急車での搬送時間も全国平均に比べ10分以上短い状況です。また、回復期・慢性期の医療が不足している地域がありますが、当地域は以前から連携を重視してきたことからバランスが取れており、そうした心配はいまのところ不要です。
このように当地域は恵まれた医療環境にありますが、細部にフォーカスすると解決しなければならない課題は残されています。「生活困窮者支援」という済生会としての使命に加え、地域医療の課題を解決するため当院として何ができるのか、今後もしっかり考えていきたいと思います。
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