少子高齢化が全国的に進むなか、大阪府大阪市住之江区のスピードは早く、高齢化率が50%近い地域もある。それに併せて地域医療はさまざまな課題を抱えており、多くの医療機関が将来にわたって良質な医療サービスを提供し続けるため、さまざまな改革に取り組んでいる。急がれているのが増加する独居高齢者への対応だ。そこで今回は大阪府大阪市住之江区にある友愛会病院の長濱 史朗(ながはま しろう)院長に、現場で感じている課題と地域医療の未来について聞いた。
当院がある大阪市住之江区では少子高齢化が急ピッチで進んでおり、1人暮らしの高齢者の増加と、その方々に提供する医療をどうするかという点について課題があると感じています。
具体的な話を始める前に、当院の診療エリアの状況を簡単に紹介したいと思います。国勢調査をもとに大阪市住之江区の人口動態を見ると、1995年(平成7年)に約13万9000人だった人口は、2020年(令和2年)に約12万人にまで減りました。また、2035年(令和17年)は約10万人、2045年(令和27年)は約8万7000人まで減少すると予想されており、人口減少は避けて通れない課題です。
続いて住之江区の高齢化率(人口に占める65歳以上の方の割合)を見ると、1995年は11.2%で、2020年には30.4%に達するなど上昇傾向が続いています。また、咲洲(南港)の高齢化率は約50%で特に高く、エリアによって少子高齢化がかなり深刻です。2020年時点の日本全体の高齢化率は28.8%、大阪市は24.6%ですが、住之江区はそれらを上回っています。さらに、住之江区の65歳以上の高齢者の数は約3万6500人で、そのうちの半数近くが75歳以上の後期高齢者で、人口全体に占める割合も15.3%に達しています。こうしたデータを見ると、住之江区の少子高齢化は他の行政区より深刻です。
このように少子高齢化が進むなか、それに合わせて1人暮らしの高齢者も増えています。家族がいない1人暮らしの方もいますが、核家族化が進んだことで、子どもがいても離れて暮らしている方が増えました。
1人暮らしの高齢者の場合、転倒や脳血管疾患など高齢者特有の病気によって自宅で倒れているところを、家族やヘルパーさんに発見されて救急搬送されてくることがよくあります。診療の際に「そろそろ1人暮らしは無理かな……」などと思っていると、その矢先に自宅で倒れているところを発見されて、救急搬送されてくることが少なくありません。少子高齢化が進むとこうしたケースが増えると思われますので、医療機関として何かしらの対応策を考える必要があります。
対応策の1つとして重要だと考えているのが、地域の皆さんに医療情報を積極的に提供することです。当院でも健康講座を定期的に開催しており、2024年(令和6年)12月には「骨粗しょう症の危険性と治療法」と「転倒予防の運動」をテーマに開催しました。こうした講座を通して地域の皆さんの医療リテラシーが高まれば、病気への予防意識が高まります。どんなときに医師に診てもらえばよいのかも分かるようになり、年齢を経ても健康的に過ごしていただけると思います。
また、地域の皆さんと診療以外の場面で接する時間を増やすことも大切です。地域の医療スタッフと身近な付き合いができれば、ちょっとした相談でも話しやすくなるのではないでしょうか。そのため、当院では町内会のイベントに参加したり、盆踊りに協賛をしたりして、地域の皆さんとの距離感を縮めるための努力をしています。
近年、医療スタッフ不足も課題になっており、それを補うために介護や看護の現場では海外から技能実習生を受け入れるケースが増えました。当院でも技能実習生の方が活躍していますが、生活習慣の違いに戸惑うこともあるようです。そこで技能実習生の方には地域活動に積極的に参加してもらい、日本文化を理解していただく機会として活用しています。地域の皆さんとのコミュニケーションが深まれば、良質な医療サービスの提供にもつながると期待しています。
多くの医療機関が少子高齢化を見据えた医療体制の構築に取り組んでおり、団塊ジュニア世代が65歳に到達し始める2035年(令和17年)ごろまではある程度シミュレーションできていると思います。問題はその先です。地域の基幹的な病院として、次の世代に何を残すことができるのか、ここから10年の間にしっかり考えていきたいと思います。
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