静岡県西部に位置する浜松医療圏は診療体制が充実した地域であり、地域住民にとっては恵まれた医療環境にあるといえるだろう。しかし少子高齢化は同地域でも進んでおり、さまざまな課題が顕在化しつつある。
静岡県浜松市にある聖隷浜松病院の岡 俊明(おか としあき)院長に、現場で感じている地域医療の課題について話を伺った。
当院がある静岡県浜松市は比較的医療体制が充実している地域ですが、基幹病院を支える後方支援を担う医療機関の不足と、看護師をはじめとするコメディカルの不足といった2つの課題を抱えています。
まず、前者の後方支援の医療機関の不足についてお話したいと思います。静岡県西部に位置する浜松医療圏は急性期病院が比較的多く、病床数が600床以上の病院が当院と浜松医科大学付属病院を含め4つあります。また、病床数が300床を超える急性期病院も3つあり、相互に連携しながら急性期から高度急性期医療を提供しています。地域の皆さんはほぼすべての医療をこの地域で完結できることから、恵まれた医療環境にあると言えるのではないでしょうか。
その一方で、急性期を過ぎた患者さんを治し支える後方支援病院は不足しています。ほかの地域では急性期治療を終えたらなるべく早く転院し、地域の医療機関でリハビリを行う診療体制が一般的になってきています。しかし浜松医療圏では急性期病院がリハビリや在宅医療につながるまでの道筋を立てることも珍しくありません。
現時点では診療に支障ありませんが、高齢化がさらに進めば患者さんの増加に対応しきれなくなり、本来の役割である急性期・高度急性期医療を迅速に提供できなくなる可能性があります。今後は地域全体で連携して役割を分担するほか、急性期医療と慢性期医療の双方に対応したケアミックス病院を増加させるといった対策も求められるでしょう。
スムーズな地域連携に向けた取り組みとして、たとえば当院では地域の医療機関からの診療依頼に対し迅速に受け入れ可否を回答することを心がけています。特に内科系の診療科では、電話で依頼を受けたらその場で回答する仕組みを整えました。外科系は手術スケジュールの都合もあるため内科と同じやり方はできませんが、地域医療を支えていくためには最大限の配慮が必要と考えています。
もう1つの課題であるコメディカル不足は浜松医療圏だけでなく全国的に問題となっており、中でも看護師不足が深刻です。たとえ現在のスタッフ数が充足していても患者さんの高齢化がさらに進むとケアの負担が増えるため、当院も含めて今後スタッフが不足してくる医療機関もあるでしょう。
こうした状況を打破するためには、職場環境のさらなる整備が重要です。取り組み内容はさまざま考えられますが、共通して大切なのは医師とコメディカルが「お互いをリスペクトし合う環境にあるか」ということではないでしょうか。
たとえば学生が見学で訪れたときにコメディカルが医師から信頼されている姿を見れば、仕事に対してポジティブな印象を持ってもらえます。さらにコメディカルのモチベーションも高まりますので、離職防止にもつながるでしょう。
当院でも“リスペクト”をテーマに掲げ、心理的安全性(自身の意見や気持ちを安心して表現できる状態)の高い職場を目指すことを目標にしました。こうした取り組みの成果もあって、当院ではコメディカルの採用がうまく回っています。
現在の医療はとても複雑で、多様化が進んでいます。そこに患者さんの高齢化も加わり、ひとつの病院ですべてを診療するのは難しくなっています。現在はその過渡期にあり、これからは基幹病院を中心に、地域の医療機関や訪問介護・看護事業所がネットワークを構築し、協力して地域の皆さんを診ていくことが重要です。
そこで地域の方々には、気軽に相談できる“かかりつけ医”をぜひ持っていただきたいと思います。発熱や関節の痛みなどの日常的な症状はもちろん、緊急性の高い症状もかかりつけ医を窓口として専門的な病院に受診すれば、スムーズに治療が受けやすくなります。
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