連載地域医療の現在と未来

医療連携をさらに強化することで、地域医療を守っていく―宇都宮市の現状と取り組み

公開日

2025年05月23日

更新日

2025年05月23日

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2025年05月23日

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独立行政法人国立病院機構 宇都宮病院 病院長 杉山公美弥先生

人口減少と高齢化が進む日本においては、さまざまな業界で労働力不足が懸念されている。医療の世界においても労働力の確保が大きな課題となっており、他の医療機関と連携することで医療提供体制の維持に努める地域は少なくない。

東京駅から新幹線で50分程度と都心からのアクセスがよい栃木県宇都宮市でも人手不足の状況はあるが、その解消に向けてすでに地域における医療連携体制は構築されつつあるという。

宇都宮市における取り組みについて、独立行政法人国立病院機構 宇都宮病院(栃木県宇都宮市)の病院長・杉山 公美弥(すぎやま くみや)先生に話を聞いた。

宇都宮市の医療に欠かせない、2つの連携とは?

当院がある宇都宮市(宇都宮医療圏)は栃木県の県庁所在地であり、人口約51万人が暮らしています(2025年3月時点)。市内には当院を含む3つの地域医療支援病院(かかりつけ医から紹介された患者への医療を提供する病院)と5つの病院群輪番制病院(二次救急)があるものの、一般病床数、医師の数のどちらも全国平均を下回っています。

幸いにも宇都宮市に隣接する壬生町(獨協医科大学)や下野市(自治医科大学)には大学病院がありますので、市内で不足する急性期機能の一部を2つの大学病院に担っていただくことで地域医療を支えている現状があります。宇都宮市の医療を維持するうえで医療連携は欠かせないものになっており、今後はさらに「病病連携」と「病診連携」の両方を強化する必要があると考えています。

顔が見える連携体制を構築し、地域の救急医療を支える

「病病連携」が必要になるのは、主に急性期医療の領域です。市内における救急搬送者数は、2014年が約1万7000人だったのに対して、2024年は2万2000人を超えています。患者さんの数はここ10年間で約3割も増えており、救急要請の電話が入ってから医療機関に収容されるまでの所要時間は平均42分54秒となっています(2023年)。

「救急車で病院に運ばれるまで40分以上もかかるのか……」と思われるかもしれませんが、実は宇都宮市の数字は全国平均よりも3分ほど短くなっています。これは、宇都宮市の救急医療における司令塔の役割を担っている済生会宇都宮病院の力が大きいと考えています。

医療資源が潤沢とはいえない地域においては、圏内にある各医療機関の強みや弱み、病床の空き状況などを把握したうえで搬送先を決めることが大事になります。たとえば消化器外科の手が足りない施設に腹痛を訴える患者さんを搬送しても、適切な医療を受けられない可能性があるからです。

救急要請を受けた際に、ドクターカーを出動させるのか、大学病院にドクターヘリを依頼するのかといった判断を含めて、患者さんを適切な医療機関へとつなぐ司令塔が優秀であること。地方ならではの「顔が見える連携体制」を構築することは、宇都宮市に限らず全国各地で取り組む必要があるのではないでしょうか。

病診連携を強化することで、地域医療の未来を守りたい

超高齢社会においては「病診連携」がさらに重要になると考えています。当院のある宇都宮市は2018年をピークに人口が減少に転じ、2050年までに現在約51万人の人口が約45万人になるとされています。一方で、65歳以上の老年人口の割合は今後も増加すると予想され、独居の高齢者も増えていくでしょう。

高齢患者さんは何らかの慢性疾患があったり、1人で複数の病気があったりしますから、長期療養が必要となるケースが少なくありません。限られた医療資源を有効活用するため、我々のような急性期の病院は地域の後方支援病院やクリニックと密に連携し、多様化する医療ニーズに効率よく応えていかなければならないでしょう。

その具体的な例として、当院は2004年の独立行政法人化にあたり、地域のクリニックからの紹介患者さんを積極的に受け入れることで経営の安定化につなげた経緯があります。症状が安定している患者さんは地域のクリニックで経過を診ていただき、何かあったときには当院にて入院治療を行う。こうした病診連携は現在も続いており、たとえ病床の逼迫(ひっぱく)がみられても「連携医療機関からの紹介患者さんは責任をもって診る」という方針で診療にあたっています。国立病院機構の一員として入院治療が必要な患者さんを積極的に受け入れ、重症心身障害および神経難病の専門性が高い慢性期医療まで幅広く対応することが、地域における当院の役割だと考えています。

多様化・複雑化する医療ニーズに柔軟な対応を

「ものづくり県」とも呼ばれる栃木県は、県内総生産額に占める製造業の割合が約4割で全国3位であり(2021年時点)、県内には自動車関連企業をはじめとした工場がたくさんあります。これに伴って近年は工場で働く外国人労働者の数が増え、県内には3万6000人近い外国人労働者の方が暮らしています(2024年10月末時点)。

国籍はベトナム、フィリピン、インドネシアなどが中心になりますが、東南アジアは結核が蔓延(まんえん)するエリアです。当院においても日本人の結核患者数減少に反比例して外国人の症例が増え、4分の1ほどが外国籍の患者さんになっています。幸い当院は結核療養所として開設されたため感染症の診療には強みがありますが、このような事態になるとは少し前までは考えもしませんでした。

今後はさらに日本社会が多様化し、医療に対するニーズもさらに複雑化していくことでしょう。このとき1つの医療機関だけで地域の医療ニーズに対応することは現実的ではありませんから、日頃から地域の中でコミュニケーションを取り、何かあったときにスムーズに連携できる体制をつくっておくことが大事ではないでしょうか。

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