連載地域医療の現在と未来

高齢化進行が早い旭川市の現状から見える、近い未来の地域医療危機

公開日

2025年05月29日

更新日

2025年05月29日

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2025年05月29日

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独立行政法人国立病院機構旭川医療センター 院長 木村隆先生

日本の高齢化率は2024年に29.1%となったが、今後さらに高齢化が進んで2040年には高齢化率が約35%にまで高まると予想されている。

しかし、北海道の第2の都市である旭川市は、すでに高齢化が全国平均より10年以上早く進んでしまっている。旭川市の現状と未来予想から見えてくる「今後起こりうる日本の地域医療の危機」について、旭川市の医療事情を長年その目で見続けてきた、独立行政法人国立病院機構旭川医療センター院長の木村隆(きむら たかし)先生に話を伺った。

激しい高齢化進行と医療資源の極端な偏在

当院が所在する旭川市は北海道の中でも札幌市に次ぐ人口を誇り、医療機関や医療従事者などの医療資源にも比較的恵まれた地域です。それだけを見ると何の問題もなさそうに思えますが、今後の地域医療を考えたとき、大きな2つの問題を感じています。

1つは、全国平均をはるかに上回る激しい高齢化の進行、もう1つは、周辺地域と比較し旭川市のみに医療資源が集中しすぎていることです。

近い将来に起こる、かかりつけ医の減少問題とその対策

旭川市は高齢化の進行が激しい市の1つであり、2023年にはついに高齢化率が35%を超えました。北海道全体の高齢化率が約33%(2021年時点)ですので、北海道内でも旭川市は高齢化が進んでいるエリアの1つといえます。

地域の高齢化が進むということは、その地域の医療従事者の高齢化も進むということです。

たとえば診療所の医師の平均年齢は全国で見ても約60歳(2022年時点)というかなり高い平均年齢となっていますが、高齢化が進んでいる旭川市ではすでに平均年齢が65歳ぐらいになっていると考えられます。

10年後には、引退している開業医も相当多く、後継者がおらず閉院せざるを得ないケースもかなりの数にのぼると予想されます。医療資源が比較的充実しているこの旭川市でさえ、近い将来「かかりつけ医が近くに存在せず、通院できなくて困る患者さんが増える」という状況になりかねません。

かかりつけ医の高齢化への対策としては、“かかりつけの先生方の負担を減らし、できるだけ長くかかりつけ医として活躍していただく”ことが大切です。そのために、当院では連携登録医として登録いただいた地域医療機関との協力を推進して、紹介・逆紹介をスムーズに行うための体制を整えるほか、病床の開放や、CT、MRI、骨密度測定器といった検査機器の共同利用なども実施しています。

また、今後はかかりつけ医の減少や患者さん自身の高齢化により、在宅医療・在宅療養の重要性がより高まることでしょう。そのため当院は、在宅療養後方支援病院として、連携登録医療機関で在宅医療を受けている患者さんの入院が必要となった際に24時間受け入れられる体制を整えています。さらに当院では2024年4月より訪問看護ステーションを開設して在宅療養サービスの提供を始めています。

当院は、他院からの紹介で来ていただく“かかりつけではない病院”ですが、将来、かかりつけ医が減少してしまった場合はかかりつけ医的な対応もせざるを得なくなると考え、外来機能などの維持・強化は心掛けていく所存です。

医療資源の偏在による大病院への負担集中とその対策

旭川市は、北海道における医療資源の偏在問題を顕著に表している都市です。先ほども少しお話ししたとおり、旭川市自体は医療資源がそれなりに充実していますが、その周辺地域は医療資源の乏しさが目立ちます。

たとえば、北海道の上川中部医療圏は旭川市を含めた1市9町で構成されていますが、この医療圏の病院数の約95%が旭川市に集中しており、医療圏内の1市9町のうち7町については、診療所やクリニックはあっても病院がないという状態です。さらに上川中部医療圏外でも、宗谷地域やオホーツク地域、留萌市などでは専門医が不足しており、これらのエリアからも、高度医療を求める患者さんが大勢いらっしゃいます。そのため、特に旭川医科大学病院や旭川赤十字病院といった大病院に患者さんが集中し、大きな負担がかかっている状態です。

大病院に集中する負担を減らすためには、大病院の救急医療負担を軽減し、大病院が果たすべき役割だけに集中できるようにすることが重要です。当院では、2次救急の患者さんを可能なかぎり引き受けることで、大病院には本当に重篤な3次救急患者さんだけが搬送されるように努めています。

また、当院は内科系の診療に大きな強みを持っており、特にパーキンソン病・COPD(慢性性気管支炎や肺気腫などの慢性閉塞(へいそく)性肺疾患)・リウマチの3疾患に関してはそれぞれセンターを有し、大きな病院に劣らない高い専門治療を提供できる体制を整えてきました。これらの病気に関しては、できる限り当院で患者さんを引き受けるようにすることで、大病院の負担の軽減につなげています。

さらに、内科系の治験にも積極的に取り組んでいますので、“治療の選択肢の1つとして治験参加を提案できる医療機関”という点をもっとアピールし、大病院への患者さんの集中を少しでも分散できればと思います。

これらの取り組みに力を入れることで当院の負担は確かに増えますが、現在、医療事務作業補助者の積極的な雇用・活用や、診療看護師の養成などの促進により医師の業務の効率化を進めているところです。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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