連載地域医療の現在と未来

病院同士の統合を控えた兵庫県三田市の地域課題とは? 強みを生かし連携で医療の偏在を解消

公開日

2025年03月25日

更新日

2025年03月25日

更新履歴
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持続的な医療の提供を行うため、国を挙げた地域医療の再編が着々と進められているが、地域によっては依然として現時点でも多くの課題がある。とくに医療の担い手の不足は、救急医療が行き届かなかったり、特定の医療分野を地域内でカバーできなくなったりすることで、そこで暮らす人々の日々の安心感にも影響するだろう。

兵庫県三田市は大都市である神戸市の北区に接しながらも、医療のリソース不足が課題となっている。この地での持続的な地域医療を目指して済生会兵庫県病院との統合を決めた三田市民病院(兵庫県三田市)の現況について、同院の院長を務める角田 雅也(つのだ まさや)先生に話を伺った。

病院の統合で、よりよい地域医療を提供

兵庫県三田市には、3つの医療課題があります。第1に地域医療の維持、第2に医療の偏在、第3に地域医療構想の周知です。このうち、「地域医療の維持」は、現在当院が関わる医療再編と深く関係しています。

人口10万人ほどの田園地帯である兵庫県三田市で1949年に開設した当院は幅広く地域医療に貢献してきました。しかし、現病院も築30年以上が経過し老朽化が進んでおり、施設の建て替えが必要となっています。
建て替えの検討に際して、「厳しい財政状況」に加えて安定的かつ継続的な「医師の確保」も大きな課題となっており、単独で建て替えをしても課題解決できず、将来的に地域の基幹病院として急性期医療を維持・継続することが困難になる可能性があったのです。市内には救急告示医療機関が、当院(300床)のほかに、平島病院(199床)しかなく、急性期医療を担う当院がなくなるという選択肢はありません。

そこでさまざまな検討を重ねた結果、同じく施設の建て替えを視野に入れていた、神戸市北区にある済生会兵庫県病院と統合することになりました。両院は10kmほどしか離れておらず、三田市や神戸市を交えた病院同士での話し合いを行った結果、人口減少、少子高齢化、医療人材の確保といった課題を踏まえると、両院が統合し、中間地点に新病院を建設することが地域医療の充実につながるとの結論に至りました。

この決断には、当院は小児科や産科の医師が不足しており、24時間対応が難しい状況にあるということも後押しとなりました。周産期母子医療センターを備える済生会兵庫県病院と統合することで、地域の方々がより安心して出産や子育てを行えるようになるからです。

当院はニュータウンからのアクセスが良く、今回の医療再編について近隣住民の方から多数の反対意見もいただきました。しかし、このままでは医療機能が維持できなくなってしまうことを地域の皆さんに繰り返し説明し、理解を深めていただいた結果、ようやく統合に向け動き出すことができるようになりました。済生会兵庫県病院との統合は2030年ごろになる見通しで、それまでは通常の診療を続けていきます。

それぞれの強みを活かした病病連携

第2の地域課題は、医療の偏在です。その中でも特に問題となっているのは、三田市にお住まいの方が救急で三田市内の病院に搬送される率は約6割に止まっている点です。主な原因としては、救急外来がある医療機関が当院の他に平島病院しかないことや、小児科など特定の診療科を受け持つ医師が少ないために市外の医療機関へ搬送されるケースがあることが挙げられます。

この問題の根底には、大学病院からの医師の派遣が難しいことも関係しています。大学病院は、症例数や患者さんの人数を見て医師を派遣するかどうかを判断するため、ある程度の医療規模がなければ医師を派遣してもらえず、結果的に対応できる治療が限られてしまいます。当院の300床という規模は、そういう意味では少ないのです。

済生会兵庫県病院との統合によって医師の派遣の課題は解消する予定ですが、それまでの期間は既存の医療体制を活かしつつ、それぞれの病院の強みを活かした地域医療ネットワークを構築することが必要です。

たとえば、当院の整形外科には7名の医師が在籍(2025年3月時点)しており、大腿骨頚部・転子部骨折は、およそ4割の症例で48時間以内の手術に対応しています。また、24時間対応のホットラインを設けている循環器内科では、時間を問わず幅広い地域から患者さんを受け入れています。
今後も兵庫中央病院や平島病院などの他の医療機関との役割分担を明確にして、三田市にお住まいの方が安心して暮らせる医療体制を整えたいと考えています。

医療の役割分担を根気強く伝える

第3の課題として挙げられるのは、地域医療構想の周知です。厚生労働省の地域医療構想は、急性期(病気になり始めの時期)の治療が一段落した後、回復期や慢性期の治療を行う病院に移っていただいたり、かかりつけ医に逆紹介したりして医療の役割分担を図るものです。
しかし、合併症があるご高齢の患者さんなどは引き続き急性期の治療を行った総合病院に通い続けるパターンも多く、その分急性期の他の患者さんの診療が滞ってしまうといった問題が起こるなど、医療の機能分化に対する理解が十分に得られていません。

我が身を振り返っても、患者さんに近所のクリニックを逆紹介した際、当院のほうが近いから引き続き当院に通いたいといわれて大変困った記憶があります。この問題は決して一筋縄ではいきませんが、急性期病院と回復期・慢性期の治療を行う病院やかかりつけ医クリニックの役割分担について根気強く伝えていくしかないと考えています。

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