連載地域医療の現在と未来

「高度ながん治療を提供するための集約化」─がん医療の課題を解決する地域医療の仕組みづくりとは

公開日

2025年08月05日

更新日

2025年08月05日

更新履歴
閉じる

2025年08月05日

掲載しました。
98e02467ff

千葉県がんセンター 加藤 厚院長

がんの治療は現在、がんがある部位やステージによってさまざまな選択肢があり、以前よりもがん患者の状況に合った医療を提供できる時代に突入している。
しかしその一方で、多くの病院で同じようながん治療を提供しているため、病院間で患者の奪い合いが起きたり、病床に空きが生じたりする問題が起きているという。

そのようながん治療の課題について、千葉県全体のがん医療の中核を担う千葉県がんセンター(千葉県千葉市)の院長を務める加藤 厚(かとう あつし)先生にお話を伺った。

高齢化とともに表面化するがん医療の課題

当センターのある千葉医療圏は千葉市全域が医療圏となっています。約98万人(2025年4月1日時点)の人口を有し、2040年には高齢化率が33.2%程度まで上昇すると予測されています。

今後ご高齢の方が増えると、がんの患者さんも増えていくでしょう。実際、65歳以上の高齢の方のがんの罹患率は非常に高くなっています。将来的にがんの患者さんが増えると見込まれるなか、私はがんの診療の効率化に課題があると感じています。

千葉医療圏ではたとえば、急性期病床で扱う大腸がんは多くの病院に患者さんが分散して治療を受けている状況があります。そのため、各病院のベッドに空きが出やすい状況が生じ、治療にあたる医師や看護師といったリソースも十分に生かされていないという声も聞こえてきます。このような非効率さに対し、行政と病院で医療の集約化についての協議を重ね、さまざまな改善を行う必要があります。

病院ごとにがん治療における役割を明確化

病床の効率的な利用に対する解決策として急性期の病院ががんの治療においてそれぞれの強み、役割分担を明確にしていくことで、病床が埋まりにくいという課題は克服できるのではないでしょうか。

千葉医療圏ではすでに「がん診療連携協議会」という場を通じて、病院ごとの役割分担を話し合っています。会議では乳がん、胃がん、前立腺がんといった臓器ごとに部会を設けて、それぞれの病院がどのような治療を担うのか、共有しながら連携を深めているところです。

その中で当センターの役割は、柏市にある国立がん研究センター東病院と連携しながら千葉県全体における高度ながんの治療を担うことでしょう。

たとえば当センターはめざましく進歩を続けているがんゲノム医療の拠点病院であり、遺伝子パネル検査を行って、専門家による会議「エキスパートパネル」で治療法を決める役割を担っています。また、内視鏡手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を2台導入しており、がんの手術をより正確に、より低侵襲(体への負担が少ない)に行っています。

今後は地域の病院やクリニックとの連携を密にすることで、当センターでは専門性の高い急性期のがん治療を行い、その後の経過観察はそれらの身近な医療機関で行ってもらうといった、患者さんにとっても効率的な医療体制を整備していきます。

なお、上記のように主に高度医療機関から、より地域に近い医療機関に転院いただくことを「下り搬送」といいます。現在の医療制度では、急性期医療を終了した患者さんがそのまま長期に急性期病院に入院することは限られた医療資源の面からも困難であり、この下り搬送によって地域医療の効率化を図ることが必要です。

このような現在の医療の形を患者さんにもご理解いただき、今後も地域の急性期医療全体の効率化にご協力いただければ幸いです。

各病院が得意な治療をクリニックに知らせていく努力を

各病院の役割分担を進めると同時に必要となるのが、各病院の得意な治療について地域の診療所やクリニック、慢性期以降の治療を担当する医療機関などに知っていただくことです。

それによって、専門的な治療が必要となった患者さんをより適切な病院に紹介することができるようになるはずです。そのためには、千葉医療圏のがん治療について、どの病院が何を得意としているのか一覧できるパンフレットのような資料の作成が必要でしょう。

それとともに、各病院も自分たちが得意とする治療を積極的に知らせる努力をすることが望まれます。当センターでは治療内容を詳細に記したパンフレットを県内全ての医療機関に送るとともに、私や副病院長が各医療機関を訪問して説明をするようにしています。現在ではこのような連携の動きは日本中の病院で行っているのですが、病院のことを理解していただくことは病院に患者さんを集めるという面だけでなく、地域の医療の効率化・集約化という点からも重要です。

病院同士の連携も重要

「病診連携」(病院とクリニックや診療所がスムーズに連携すること)と共に、「病病連携」(病院同士が連携すること)も重要です。

千葉医療圏は急性期病床が必要数に比べて多く、慢性期病床が少ないという構成になっています。今後は急性期の病床の調整を進めつつ慢性期の病床を増やし、病病連携をさらに進めて患者さんがスムーズに医療を受けられる体制を作るべきでしょう。

なお、病病連携の例として、当センターでは先に述べた「下り搬送」のほか、近隣病院とそれぞれの専門性を生かした医療ニーズの棲み分けと連携を推進しています。具体的には、透析が必要な患者さんなどについては近隣の病院にお任せするなど、連携を図って患者さんを診させていただいています。このような連携によって以前よりも急性期の病床を効率的に利用できるようになっており、今後も積極的に進めていく予定です。

がんの患者さん一人ひとりに合った治療を提供するために

がん治療がますます専門化していくなかで、病院ごとの役割をはっきりさせ、それをしっかり共有していくこと。そして医療機関同士の連携を進めること。これこそが地域全体でがん医療の質を高めるカギになるでしょう。

患者さん一人ひとりに合わせたがん治療を効率よく提供できる 環境を整えることが、私どもの目指す医療です。今後も地域の医療機関と手を取り合いながら、持続可能ながん医療の実現に力を尽くしてまいります。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

地域医療の現在と未来の連載一覧