連載地域医療の現在と未来

地域医療を守る―人材不足、コスト増に立ち向かう病院の工夫とは?

公開日

2025年03月24日

更新日

2025年03月24日

更新履歴
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今、日本の医療環境は、これまでにないほど厳しさを増している。そんな状況のなか、地域医療をしっかり支える役目を果たすために病院が目指すべき在り方とはどのようなものだろうか。

病院が地域医療を支えるために重要なことは何なのか、どのような原因で日本の医療環境が厳しさを増しているのか、そして厳しい状況をどのように乗り切るのか。今回はそれらについて、愛知県北名古屋市にある療法人済衆館 済衆館病院の理事長である今村康宏(いまむらやすひろ)先生に話を聞いてみた。

幅広い対応を実現するための体制づくりが重要

当院は、24時間365日体制で救急医療を提供する二次救急指定医療機関です。西春日井広域事務組合(北名古屋市・清須市・豊山町)管内でも多くの救急車搬送件数を受け入れており、9名の救急救命士と病院救急車も擁していることから“大きくない規模の民間病院にしては救急対応を頑張ってきた病院”と思われがちですが、当院の本当の姿はさまざまな機能の病棟を有する「スーパーケアミックス病院」です。病棟は急性期病棟や回復期リハビリテーション病棟だけでなく地域包括ケア病棟や療養病棟、さらに腎・透析センターや介護医療院も備えており、地域の全ての患者さん、あらゆる状態の患者さんに対応するための体制を整えています。

当院がこうした幅広い対応をとっている最大の理由は、「患者さんの医療ニーズは救急医療だけではない」いう事実があるからです。高齢化が進行し、医療機関の廃業や縮小も相次ぐ厳しい医療環境のなかで今後の地域医療を支えるためには、患者さんに「ここなら全て任せて安心」「“何かあったらここに行こう」思っていただけるようなジェネラル(総合的)な対応ができる病院の存在が必要不可欠だと考えています。“救急だけでなくあらゆるステージの医療を担う”ということは当院の使命であり、その姿勢は1914年の創立当時から、111年経った今も一貫しています。

そんな当院がいま直面しているのが、病院の「助手」を中心とした人材不足です。

人材不足は大きな課題

地域医療をしっかり支えるための医療提供を実現するのに必要不可欠な要素となるのがマンパワーです。しかし実際は、当院に限らず多くの医療機関で、医師や看護師だけでなく介護や助手的な業務を担う人材も含めて、あらゆる人材が不足している傾向にあります。当院の現状としては、特に専門職と一緒に業務を行う「助手」の確保が困難になっています。タスクシフトの必要性が叫ばれていますが、シフトすべき先のマンパワーが最も足りないために、今の社会の必然の流れがこの業界にあっては非常に滞っていると感じます。

現役世代の人口減少に歯止めがかからない今の日本の状況を考えると、今後さらに人材不足問題が深刻化していくことは間違いないでしょう。

また、この問題について、名古屋市周辺においては特有の事情があります。名古屋は今、業績好調と言われる製造業中心にメーカーが賃金を大幅に引き上げているのです。

深刻化する病院経営の現実

当院が所在する名古屋・尾張中部医療圏は賃上げ率の伸びが目立つメーカーなどが多くあります。これに対して、医療機関は保険診療を勝手に値上げすることなどが許されない立場ということもあって利益が出にくく、理想的な賃上げの実現が難しいのが現状です。そのため、ただでさえ不足しがちな人材が他業種に行ってしまいやすいという事情もあります。さらにコロナ禍以降のいわゆる“受診控え”や、近年の物価高による光熱費や食材費、医療材料費の高騰なども医療機関の経営状況に大きな悪影響を与えており、全国的にも、昨年より病院の経営状態が悪化しているという趣旨の調査結果が出ています*。

*日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会の3団体が所属病院の経営状況を調査したところ、前年同月比(2023年6月と2024年6月の比較)で減収減益となっていることが判明(https://ajhc.or.jp/siryo/20240917report.pdf)。3団体はこの結果をきわめて深刻なものと考え、「病院経営の危機的状況に対する救済措置・財政支援の要望」を出し、その中ではっきりと「病院は深刻な経営不振の状況に陥っており、このままでは地域医療に少なからず影響が出る恐れが高い」述べている(https://ajhc.or.jp/siryo/20240918yobo.pdf)。

コツコツと、あらゆる工夫を積み重ねる

このように、当院に限らず全国的に病院の経営は大きな岐路に立たされています。もちろん国による今後の診療報酬の抜本的改善を最も望みますが、それを待つだけでは状況は好転しないでしょう。

だからこそ当院は、細かいことでもやれることは何でも、あらゆる工夫をコツコツ積み重ねていく自助努力を行うことが大切だと考えています。前回診療報酬改定で初めて設定された「地域包括医療病棟」の導入を基軸とした大規模な病棟の変更を計画し、現在それに向けた実績を重ねているところです。そして業務改善プロジェクトを立ち上げ、生産性向上とコスト削減のためのさまざまな取り組みをはじめました。たとえば地域の医療機関と協力しあって医療材料などを共同購入する計画を立てているだけでなく、院内でもDX化(デジタル技術による業務変革)などでタスクの効率化を図るのはもちろんのこと、「紙の使用量を減らす”“感染性廃棄物とそれ以外を徹底分別して処理費用を抑える」など、本当に細かい部分でのコスト削減も、思いつくものは何でも行うよう心がけています。

ただ、「入院患者さんが楽しみにしている病院食の質を落とす」など、患者さんにとって直接マイナスになるようなコスト削減はしていませんし、今後も行うつもりはありません。患者さんあってこその病院です。患者さんに選ばれる病院であり続けるために、医療の質、ケアの質といった中核的な部分は絶対に守り続けなければならないと思っています。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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