連載地域医療の現在と未来

救急医療のひっ迫をどのように乗り越えるか? 増加する救急要請と医師不足のジレンマ

公開日

2025年03月03日

更新日

2025年03月03日

更新履歴
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2024年4月に施行された医師の働き方改革によって時間外労働が規制され、全国の救急現場では医療体制の見直しが盛んに行われている。高齢化によって救急医療のニーズは年々高まっており、医療の担い手は人手不足と増加する救急要請の間でまさに板挟み状態である。

地域の救急病院は、この厳しい状況をどのように捉えているのか。創立より140年以上の歴史を持ち、福岡県福岡市博多区で救急医療を担う原三信病院の院長を務める原直彦先生に聞いた。

夜勤体制の強化と地域連携で救急医療に対応

全国同様、博多区でも少子高齢化に伴って人口構成が大きく変化してきました。これからも当面は、高齢者が増えて生産年齢人口が減っていく流れが続くでしょう。中でも、核家族化によって高齢者の独居や老老介護が増えていることが問題視されており、高齢者医療への対応が急務です。

このような現状を打破するには、3つの医療課題に取り組む必要があります。1つ目は救急搬送の対応を強化すること、2つ目は医療機能の役割分担、3つ目は健康寿命の延伸です。

まず1つ目の課題である救急搬送の対応強化については、限られた医療資源を最大限に活用できるような医療体制の整備が必要となります。

昨今は少子化に伴う医師の不足に加えて、働き方改革で従来のような夜勤体制を維持することができなくなり、増加する救急医療のニーズに応えることが難しくなってきました。また女性医師の進出によって、妊娠や子育てなどの理由から当直の担当が難しいケースも増え、救急の対応が制限される状況も見受けられます。

こうした課題に対して、当院では適度な休息やインターバルなどを設けて夜勤の負担を減らすほか、地域の一次救急や三次救急の医療機関と連携しながら、与えられた二次救急の役割を全うしています。その一方で、患者さん側の課題である救急車の適正利用についても、地域の皆さんに対して積極的に呼びかけています。

福岡県の中でも福岡市は、ほかの地域に比べて医療資源が潤沢にあるほうですが、それでも救急医療への対応に追われています。そう考えると、都心部から離れた地域ではさらに厳しい状況に陥っているのではないでしょうか。今後、救急医療の中核を担うような病院は、受け持っている医療圏にとらわれず、幅広い視野で地域連携を進めていくべきだと思います。

役割分担で地域全体の医療水準を向上

2つ目の課題は、医療機能の役割分担です。まずはそれぞれの医療機関が与えられた役割を明確に打ち出し、近隣の医療機関と機能を補い合うことで地域全体の医療水準を向上していかなければなりません。

国が進める地域医療構想においても、紹介による受診に主軸を置いた紹介受診重点医療機関を定め、かかりつけのクリニックと高度医療を担う医療機関のすみ分けを推進しています。

当院は紹介受診重点医療機関に指定されているため、主に高度な医療機器を活用した検査や手術を引き受け、軽症の患者さんは地域のクリニックにお任せするという役割分担を行っています。

しかし、高齢化の進展に伴って病院同士の連携だけでは対応できない事態も増えてきました。たとえば、ご家庭や特別養護老人ホームなどで高齢者の容体が悪くなった際、その場での適切な判断が困難であるというケースです。

この問題に対して、当院は特別養護老人ホームなどの高齢者施設と定期的に情報交換を行い、困り事の解決に努めています。1人で病院に来られないような高齢の患者さんを地域ぐるみで支えていけるよう、病院が旗振り役となって関係各所をリードしていくべきだと考えています。

健康寿命の延伸で国民全体のQOLを向上

3つ目の課題である健康寿命の延伸は、元気なお年寄りを増やして医療や介護の負担を減らし、国民全体のQOL(生活の質)を上げるための重要な施策です。

近年は、生活習慣病に関連してロコモティブシンドローム(運動器の障害のために移動機能が低下した状態)やフレイル(加齢に伴って身体機能や予備能力が低下した状態)などの概念が広まり、健康な状態と要介護の狭間にいる高齢者に対して、さまざまなサポートが行われるようになってきました。

医療機関によっては、健康に関する啓発活動や相談会に取り組んでいるケースも見受けられ、予防医療を推進する動きが年々高まっています。

当院もまた、リハビリテーション指導の専門家や栄養士などと連携し、生活習慣病の予防に向けた取り組みを進めていく方針です。

使命感を携え、魅力ある病院づくりに邁進

命を救う救急医療もQOLを向上させる予防医療も、全て医療人としての素晴らしい使命です。医療を取り巻く環境は年々厳しくなるばかりですが、若い世代の方には1人でも多く医療の担い手として活躍してほしいと願っています。

そのためには働き方改革を推進し、やりがいと働きやすい職場を兼ね備えた魅力ある病院を目指していかなければなりません。そのうえで、それぞれの病院が役割を全うし、地域連携を通じて医療機能を最大限に発揮できれば、高齢化社会にも十分対応していけると考えています。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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