独立行政法人国立病院機構 姫路医療センター 河村哲治院長
現在、日本の地域医療はさまざまな課題を抱えている。50万人を超える人口を抱える兵庫県姫路市も同様で、医師不足が叫ばれるなかで、地域の住民に十分な医療サービスを提供するため奮闘している。
兵庫県姫路市にある独立行政法人国立病院機構 姫路医療センターの河村 哲治(かわむら てつじ)院長に、姫路の医療の課題について話を伺った。
当院がある兵庫県では、神戸市のように医療資源が多い地域と、過疎化が進み医療資源が少ない地域が混在しているという問題を抱えています。さらに、患者さんの高齢化が急速に進んでおり、地域全体でどのように診ていくのかという課題も生じています。
まず前者についてお話ししたいと思います。当院がある姫路市の人口は約52万人(2025年1月)で、兵庫県では神戸市に次ぐ第2の都市ですが、人口の割には医師の数が不足しています。原因はさまざまで、少子化で若手医師の絶対数が減るなか、多忙な医療現場を避け、美容整形など自由診療を扱う病院で働く若手医師が増えていることがその1つかもしれません。それに加えて兵庫県では、医師の配置に偏りがあることも要因だと考えています。実は、兵庫県には神戸大学(神戸市)と兵庫医科大学(西宮市)に医学部がありますが、いずれも神戸市を中心にした兵庫県の東部エリアにあり、姫路市を含む西部エリアにはありません。そのため、西部エリアにある病院は、東部エリアの病院に比べて医師の確保に苦労する傾向があります。
医師不足と医療資源(医科大学)の偏在が関連していることについてピンとこないかもしれません。実は、地域の基幹的な病院の多くが大学から医師の派遣を受けており、姫路市では主に神戸大学と兵庫医科大学から派遣される病院が多くなっています。かつては大学からそれぞれ必要な医師を派遣することができていましたが、医師の絶対数が減ったことでそれが困難になってきました。その結果、出身大学に近く、医療体制が充実している東部エリアに医師が偏ることになってしまいました。ちなみに当院は京都大学と関係が深く、同大学出身の医師が多く赴任しています。その点で当院は優秀な医師を確保することができているのですが、それで安心するわけにはいきません。若い医師の皆さんにキャリアを積んでいただけるよう、充実した医療体制を整えるなどの努力をする必要があります。
医療資源の偏在という点では、診療科の偏りも気になる点です。実は姫路には全ての診療科がそろった病院がありません。そのかわり、それぞれの病院が得意分野の診療に力を入れてきた経緯があります。
たとえば当院はもともと循環器疾患の診療に強かったのですが、他の病院でも循環器の診療に注力しはじめたのに合わせ、手薄だった呼吸器疾患の診療にも力を入れることにしました。その結果、当院の呼吸器疾患の診療体制がかなり強化され、今では医療レベルとチームワークがこれほどまで整っている病院はないと自負するまでになりました。さらには、診療体制が強化されたことで呼吸器内科に多くの若手医師が集まるようになり、医師確保という点でも大きく貢献しています。
一方で、たとえば当院の患者さんであっても他の病院で治療を受けたほうがよい場合、その病院を紹介させていただくといった動きが必要になります。転院をスムーズに行うためには、地域の病院同士の連携(病病連携)が重要です。患者さんのご病気に合わせてその治療を得意とする医療機関にかかっていただくためのより緊密な連携、仕組みの構築を、地域のクリニックの先生方やリハビリテーションなどをメインとする医療機関も巻き込んで作ってくことがポイントになってくるでしょう。
もちろん当院もクリニックの先生方との連携(病診連携)・病病連携を強化しており、地域の皆さんに提供する医療サービスが途切れることがないよう努めています。
患者さんの高齢化への対応も、慎重に考える必要があります。
かつては80歳を過ぎれば老衰を迎える方が多く、そういった患者さんには看取りを前提にした医療を提供していました。しかし、現在はがんに罹患しても生きながらえる方が多くいらっしゃり、また80歳で老衰によって亡くなる方が多いという時代でもありません。ここで問題になってきたのが認知症です。他の病気の治療が進むに連れて寿命が伸び、高齢化が進んだことで認知症を発症する方が年々増えているのです。
認知症になると本人の同意を得るのが困難になり、適切な医療を提供できなくなる恐れがあります。患者さんの高齢化が加速するにつれ、今後はこうしたケースが増えると思われますので、姫路だけでなく日本全体でこの課題に対応できる体制を整える必要があるでしょう。
また、当院で最近増加しているのが誤嚥性肺炎(食べ物などが気道に入り、細菌に感染することで発症する肺炎)の患者さんです。以前は開業医の先生や近隣の病院に治療をお任せしていましたが、今ではそのようなことができないほど増加しています。こうした特定の病気に対して医療がひっ迫することがないよう、やはり姫路市での病診連携・病病連携を強化して誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)の患者さん全てに適切な医療を提供できるようにするとともに、日本全体で超高齢化社会に向けた医療を提供する体制も整備しなければならないのではないでしょうか。
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