連載地域医療の現在と未来

「段差のない医療」で高齢化に対応――前橋発、地域医療連携のあり方

公開日

2025年11月11日

更新日

2025年11月11日

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2025年11月11日

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JCHO群馬中央病院 院長 内藤浩先生

群馬県の県庁所在地・前橋市では進行する高齢化を受け、高齢者への医療から予防医療まで、地域完結型の医療体制を構築しようという動きが続いている。

多様な医療機関や関係者が連携しながら、地域の暮らしと命を支える仕組みをどう整えるか――。前橋地域の医療の中核を担うJCHO群馬中央病院の内藤 浩(ないとう ひろし)院長に、同地域の医療の現状を伺った。

前橋地域の人口減少と医療資源の偏在にどう挑むか

前橋市は交通の便のよさや地元産業の元気さが目立つ街です。観光・飲食産業も盛んで、「鳥めし」や「焼きまんじゅう」などのご当地グルメも人気です。地元の食文化が根付いた地域だからこそ、医療も「地域に根差した」姿勢が求められると感じています。

前橋市は、群馬県の中でも医療資源が集中している地域でもあります。市内には大学病院もあり、車で10分ほどの距離にいくつもの病院が密集しています。ただ、2040年に向けて地域の人口は減少傾向にあり、特に若年層の減少が目立つ状況です。一方で後期高齢者の割合はこれからも増え続けると見込まれており、地域として高齢者医療の体制整備は急務といえるでしょう。

高齢者を地域で支える「段差のない医療」とは

前橋地域では高齢化にしたがって、年々救急の患者さんが増えています。また、周囲の医療資源が少ない地域からも急性期の患者さんを受け入れているため、この地域の急性期の病床は満床に近い状態が続いています。

急性期の病床不足の原因の1つは、急性期治療後の病床の不足です。現在の医療制度では、当院のような急性期の治療を担当する病院で治療を受けた患者さんは、その後の回復期・慢性期の治療を担当する医療機関へ転院していただくことになります。この転院がスムーズにいくことで急性期のベッドが早く空き、別の急性期の患者さんを効率よく受け入れることができるようになります。

この流れをよりスムーズにするためには、私は地域内の医療機関、介護施設、診療所の緊密な連携がより重要だと考えています。特に、急性期→回復期→慢性期→在宅や施設という患者さんの流れの中で、前橋地域のどこに行っても安心できる・スムーズに受け入れられる状態を作る、つまり「段差のない連携」こそが、前橋地域の目指す地域医療の姿ではないでしょうか。

この考えの下、たとえば私たちの病院では地域医療連携センターに30人のスタッフを配置しており(2025年6月現在)、紹介から退院後の在宅支援まで一括して対応しています。これによって週に60人程度の当日の入退院の依頼を受け入れており、地域全体の医療の円滑化に貢献できているのではと考えています。

医療機関の壁を越えたつながりを重視

また、段差のない連携を進めるにあたっては、「医療機関同士の壁を越えたつながり」こそが、ポイントだと考えています。当院では前橋地域のさまざまな医療機関との連携を以前から進めていますが、近年は、そのような地域における連携のノウハウをJCHOグループ内で共有するためのミーティングも始めました。
これにはJCHOの15以上の病院が参加しており、実践的なノウハウの共有や課題解決のアイデア交換の場として機能しています。この取り組みによって経営改善につながったという報告もあり、今後も継続的な学びの場として発展させていきたいと考えています。

健診・出張講習・講座──住民の健康習慣を変える

前橋の地域医療を見渡したときに、もう1つ、これから力を入れていきたいのは「病気になる前の段階で予防する」ことへの取り組みです。先ほどもお伝えしましたが、前橋地域では今後、高齢者が増えていきます。限られた医療資源でご高齢の方への医療を守るには、病気になる前に防ぎ、健康寿命を延ばす必要があるでしょう。
また、予防医療を熱心に行って重症化する患者さんを減らすことは、将来的な医療費の抑制にもつながるはずです。

私たちの病院でも、予防医療への取り組みを強化しています。まずは病院に併設されている健康管理センターで健診・検診を受診される方を年間5万人受け入れ、重症化する前の介入を強力に進めているところです。

さらに当院では、市民向けの健康講座や地域カンファレンスも定期的に開催しています。ロビーでの健康ミニ講座、認定看護師による出張講習なども行っており、病院という枠にとどまらず、地域全体に知識や気付きを届ける活動を行う方針です。
このような予防医療の推進にあたっては、今後は行政との連携を強めていく必要があるでしょう。すでに公民館などで地域にお住まいの方に向けた認知症の勉強会や、警察署・消防署と連携した研修や講習会を行っていますが、行政と共にできることをこれからさらに積極的に増やしていく予定です。

さらに、毎年夏には病院主催の「夏祭り」を開催しており、地域の皆さんと直接ふれあえる場として好評を得ています。2025年も8月23日に開催しており、医療を軸にした地域とのつながりをいっそう深めていく機会となりました。

経営の健全化と質の高い医療の両立を目指して

前橋地域の医療は、いま確実に変化の時期を迎えています。人口は少しずつ減っていく一方で、ご高齢の方の割合はむしろ増えていく。救急や慢性疾患、介護との連携など、医療に求められる役割はこれからますます複雑になっていくでしょう。

前橋の医療は、決して1つの病院だけでは支えられません。大学病院、地域の中核的な病院、クリニック、訪問看護、介護老人保健施設や特別養護老人ホーム…。それぞれが段差のない連携をしながら、患者さんの状態に応じてバトンをつなぐ医療が求められます。

医療は地域のインフラです。当院も前橋の暮らしを支える基盤として健全な経営を続けつつ、地域の医療機関がしっかりつながり合いながら、皆さんの健康と安心を守っていけるよう力を尽くしたいと思っています。
 

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