連載地域医療の現在と未来

人口減のなか、高齢者数だけが増え続ける地域が抱える医療の問題点

公開日

2025年04月30日

更新日

2025年04月30日

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2025年04月30日

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日本の人口は今後減少を続け、高齢化率は上昇していく、そのことはすでに多くの人が知っているが、中には「人口は減少していくが、高齢化率だけでなく高齢者数そのものも今後数十年にわたり増加し続けていく」と予測されている地域もあることをご存じだろうか。

豊中市・池田市・吹田市・箕面市・豊能町・能勢町の4市2町で構成される大阪府豊能医療圏も、そんな地域の1つだ。

人口減でも高齢者数が増加するという事態のなか、地域医療でどんな問題が起こるのかについて、医療法人協和会 協和会病院の院長である矢野 雅彦(やの まさひこ)先生にお話を伺った。

「人口減でも高齢者数は増加」という状況で発生する問題とは?

当院が所在する吹田市を含む大阪府豊能医療圏は、今後も65歳以上の高齢者数が増え続けると予測されている地域です。

高齢者が増えていくということは、高齢者医療や介護の需要が今後さらに高まっていくということです。高齢者医療や介護の需要が高まることで起こる大きな問題として挙げられるのが、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟*などの回復期病床の不足と、複数の病気があるご高齢の患者さんにどう対応していくかです。加えて、入院治療が終わった後のサポートも重要になると考えています。

*医療機関によっては、地域包括ケア病棟を急性期病棟に分類しているケースもある。
 厚生労働省「新たな地域医療構想について」参照(
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001309842.pdf#page=8

豊能医療圏における回復期病床不足問題

豊能医療圏の回復期病床不足問題は現時点でも深刻*で、高度急性期医療(急性期の患者に対する、状態の早期安定化に向けた診療密度が特に高い医療)や急性期医療を終えても、回復期病床が足りないので患者さんが転院できないというケースもしばしば起こります。

高度急性期病院や急性期病院で「本来なら急性期病床にいるべきではない状態の患者さんが、急性期病床を占有し続けてしまう」という状態になると、本当に急性期病床に入るべき状態の患者さんの受け入れが難しくなってしまい、地域の救急医療体制にも大きな悪影響を及ぼしかねません。

また、若い世代が多い時代であれば「急性期医療を終えたら回復期病院に転院せずとも自宅に戻れる」というケースも多かったのですが、高齢者が増えれば増えるほど、短期間での回復が困難な方も増えてきます。「長期の入院を必要とする方が増えるので、ただでさえ不足している回復期病床がなかなか空かない」という事態も、回復期病床の逼迫(ひっぱく)に拍車をかけているといえるでしょう。

当院は急性期病床だけでなく回復期病床や地域包括ケア病床、慢性期病床も有する急性期ケアミックス型病院ですので「急性期治療を終えた患者さんは速やかに回復期病床などに移行する」という対応を取れるのですが、回復期病床を有していない病院ではそうはいかないのです。当院ももちろんそうした病院からの患者さん紹介をできるだけ受け入れていますが、やはり限界があります。

*大阪府が発表した「令和5年度「地域医療構想」の取組と進捗状況」における豊能医療圏の2022年度病床機能報告と2025年病床必要割合を見比べると、必要な回復期病床割合と比べて実際の回復期病床割合が大きく不足していることが分かる(全病床9031床のうち、回復期病床の割合が15.7%不足)。
https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/62639/02-0120shiryou2-1.pdf#page=5

回復期病床不足問題を解決するために

地域医療における回復期病床不足問題を解決するためには、地域の医療機関が回復期病床への転換を進めていくことも不可欠ですが、それ以外にも、回復期病床での入院期間を短縮する、患者さんが安心して退院できる環境づくりを進める、医療機関同士の連携を進めていくといった取り組みも必要だと考えています。

回復期病床での入院期間を短縮させるためには、患者さんの回復を早めるために質の高い回復期リハビリテーションを提供することが必要です。

たとえば当院では、患者さん一人ひとりの全身機能や動作能力の評価や測定、ご家族との面談などを行ったうえで、エビデンス(科学的根拠)を重視し、患者さんに合ったリハビリテーションを提案します。また早期から多職種のチーム連携による積極的なリハビリテーションを行い、在宅復帰の早期実現を目指しています。

退院後のサポートを充実させていく

また、患者さんの治療が終了したのち、安心して退院いただける環境をつくるためには、退院後のサポート体制を充実させることが必要です。

かかりつけの先生で対応できる状態になった患者さんを速やかにかかりつけの先生にお返しするのはもちろんのこと、患者さんの不安や悩みを受け入れて親身に相談にのることや、地域全体で訪問診療や訪問看護の充実を図ること、介護サービスへのスムーズな引き継ぎを行うことなども心がける必要があるでしょう。さらに、急性期の医療機関、回復期の医療機関、慢性期の医療機関、かかりつけの先生がそれぞれスムーズに連携することで、地域の医療の質を維持、向上させていくことができるはずです。

当院の例でいうと、患者さんのスムーズな紹介・逆紹介を行えるようかかりつけの先生方をはじめとした地域の医療機関との密な連携を日頃から心がけ、患者さんやご家族の療養上の不安や、退院に向けての不安などには医療ソーシャルワーカーが対応しています。

また、当院の敷地内には介護老人保健施設、訪問看護ステーション、地域包括支援センター、ケアプランセンター、ヘルパーステーション、認知症初期集中支援チームなどが設置されており、医療から介護まで一連のサービスをスムーズに提供できるよう、日頃から緊密な連携をとっています。

このような連携の緊密化は、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。

高齢化で複数の病気がある患者さんが増えていく

ご高齢の患者さんは、多くの場合、2つ以上の病気がおありです。そのような患者さんに対し、いかに質の高い医療を提供するかは、今後の大きな課題といえるでしょう。

そもそも高齢化が進行していない頃は、多くの場合、脳卒中の患者さんに対しては脳卒中の、大腿骨骨折(だいたいこつこっせつ)の患者さんへは大腿骨骨折の専門的な医療を行うことで我々の役割を全うすることができていました。しかし、今はそうではありません。心臓の病気、肺炎、がんといった病気がある方が、脳卒中や大腿骨骨折で入院されます。急性期の病院であれ、その後の回復期を受け持つ病院であれ、我々医療提供者は患者さんの病気全てに対応する必要があるのです。

各診療科の連携、医療機関同士の連携がカギ

この状況に対応するには、我々が総合力をより高めていくことが求められると考えています。その具体策としては医師や看護師などのさらなるスキルアップや総合診療の強化などが考えられますが、なにより重要なのは各診療科の連携、そして医療機関同士の連携でしょう。

当院の場合、12の診療科が風通しよく連携して患者さんの病気を診ることで、この課題に対応しつつ、医療職のスキルアップも推進しています。また当院で治療中の患者さんでより専門的な急性期の治療が必要になった場合は、周囲の大病院で速やかに患者さんに対応してもらえるよう、日頃から連携を緊密に行っています。

医療機関同士の連携を強めていくことは、地域の医療の質の向上に不可欠です。急性期の医療機関、回復期の医療機関、リハビリテーションを行う医療機関、かかりつけの先生がそれぞれスムーズに連携することで、地域に住んでいらっしゃる皆さんに安心していただける医療の提供ができるはずです。当院もこれまでに培った連携を生かし、地域の皆さんのお役に立てる病院、地域の医療で不足している部分を少しでも補える病院となれるよう努めていきたいと考えています。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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