連載院長に聞く 病院の「今」

なぜ大病院に患者が集中? ―地域医療構想に沿った患者の受診方法とは

公開日

2024年09月30日

更新日

2024年09月30日

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2024年09月30日

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日本では2025年には団塊の世代が後期高齢者である75歳を超えるなど、急速な高齢化が進んでいます。これに伴い増加する医療ニーズに対応すべく、国を挙げて進められているのが「地域医療構想」です。

地域医療構想では、地域の病院ごとに役割分担を明確にして効率的な医療を行うことになっています。これに従うと、体調に異変を覚えた患者は

  1. まずは地域のクリニック(かかりつけ医)を受診する
  2. より専門的な医療が必要な場合は高度急性期や急性期(病気になり始めの時期)の病院を紹介され、そこで医療を受ける
  3. 回復期(急性期の治療が終わり回復を図る時期)や慢性期(長期にわたって入院での療養を行う時期)になったらその医療を行う医療機関で医療を受ける

といった行動が求められることになります。

しかし現在、多くの地域で2. の急性期の病院に患者が集中し、さまざまな弊害が起きています。実際にどんなことが起きているのか、何が原因なのか、どんな対策が求められるのか、東京都府中市の都立多摩総合医療センターの病院長である樫山(かしやま) 鉄矢(てつや)先生に話を伺いました。

樫山先生

外来患者数の増加は想定以上

当センターは東京都多摩地域に位置する高度急性期病院です。同じ建物に都立小児総合医療センターがあり、また隣接する都立神経病院の外来機能も担っています。当院では開院前に地域の医療ニーズを予測し、1日あたり1500人の患者さんが紹介や外来で来院されると想定して設備を整え、スタッフを配置しました。しかし2024年現在、日によっては1日に2000人以上の患者さんが来院されます。当初の想定より外来患者数が30%以上も多い日が月に何度もある、というのが現状なのです。

待ち時間延長や電話混雑にも影響

これにより、当院では、予約の電話がつながりにくくなる、会計での待ち時間が長くなるなど、患者さんにとって望ましくない状況が頻繁に生じるようになっています。また、予定外の残業につながるなど、スタッフの働き方にとっても困った問題になっています。

このような状況になった要因の1つとして,患者さんの大病院志向や専門医志向があると考えています。

(1)大病院志向

病気になった際に、多くの人は「せっかくなら大きな病院で診てもらいたい」と考えるかもしれません。そして実際、フリーアクセスによって自分の判断で医療機関を選ぶことができるため、結果として高度専門医療が必要でない患者さんでも最初からいわゆる「大病院」へ行くことが可能になっています。紹介状なくそのような病院を受診する場合、当院では、初診時には別途「選定療養費」が5000円(歯科)または7000円(そのほかの診療科)(病院によって異なる)必要になりますが、それでも最初から大きな病院を受診したい、という方は少なくありません。

しかし、そのような患者さんを多数受け入れると、高度急性期や急性期の医療を行うためのスタッフと設備を本来の目的のために使うことができなくなってしまいます。

(2)専門医志向

患者さんは、高齢になればなるほど複数の臓器にわたる問題を有する傾向があります。複数の問題といっても、高度急性期病院で診察を受ける必要がある問題もありますが、地域のクリニックなどで総合的に診てもらうほうがよい問題も多いのです。さきほどの大病院志向の話とも重複しますが、多くの患者さんが専門科の受診を求める傾向があります。その結果、大病院の数多くの専門診療科に通院し、結果的に多くの処方を受けて、薬が増えてしまっているような患者さんも少なくありません。

また、大病院の複数の診療科に通院を繰り返す方もおられます。現在の医療制度では、このような患者さんは3000~5000円程度(病院によって異なる)の「再診時選定療養費」を支払う必要があります。しかし、実際の徴収にはハードルが高いことや、仮に徴収したとしても、地元のクリニックに別途時間と交通費をかけて行って診察代を払うくらいなら再診時選定療養費を払う、という患者さんが少なくないと思われます。これも、急性期病院の業務逼迫につながっているといえるでしょう。

(3)地域医療構想はまだ患者さんに浸透していない

国では(1)や(2)のような不効率を避けるために地域医療構想を策定し、まずは地域のかかりつけ医を受診し、また高度急性期や急性期の病院での治療後は回復期を担当する医療機関や自宅に移っていただくという役割分担を進めているのだと思います。

地域医療構想の周知は各都道府県が行うこととなっており、行政側はかなり努力をしていると思います。当センターでも院内の至るところに周知用のポスターを貼っているのですが、なかなか浸透していない状況です。

特に退院や転院については、「なぜここで引き続き診てくれないんだ」と頑なにおっしゃる方もいらっしゃいます。そのような場合、当院では医師が患者さんにかかりつけ医を持つことの重要性を説明して納得いただくのですが、時間をかけて丁寧に説明し、なんとかご理解いただいている状況です。制度を知っていただいていればこのような時間は不要になるはずであり、やはりまだまだ周知が足りない状況だと思っています。

これらの状況を解消するには、とにかく地域医療構想についてより多くの国民に知っていただくと共に、かかりつけ医機能のさらなる普及啓発など、さらに強力な誘導が必要かもしれません。多くの方が病気の状況に合わせて受診する病院を適切に選べるようになれば、より効率的な医療の提供につながって皆が今よりもハッピーになれるはずです。

また、地域においては、「消化器内科」「アレルギー内科」「外科」「皮膚科」のような専門的なクリニックに加えて、総合的に多くの問題をフォローできる「総合診療機能」を有するクリニックがもっと増える必要があるかもしれません。

まずはかかりつけ医に相談を

患者の皆さまにおかれましては、まずはかかりつけ医にご相談いただきたいと思います。かかりつけ医は、病気や症状、治療法などについて的確な診断やアドバイスをくれたり、必要に応じて適切な医療機関を紹介してくれたりする、大変頼もしい存在です。

高度急性期医療を担う当センターのような病院は、かかりつけ医との連携と役割分担により、地域に必要な医療を提供しています。患者の皆さまには、ぜひこのシステムをご理解いただきたいと思います。

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