新型コロナウイルス感染症特設サイトはこちら
連載痛くない!怖くない!!歯科治療

「世界で最も患者数の多い病気」とは

公開日

2019年05月20日

更新日

2019年05月20日

更新履歴
閉じる

2019年05月20日

掲載しました。
1c7117d9c7

興学会新橋歯科診療所 院長

白井 清士 先生

「世界で最も患者数の多い病気」が何か、ご存じでしょうか。世界一の記録を集めた「ギネスブック」に2001年、「世界で最も一般的な病気」として掲載されたのが歯周病です。歯周病は歯茎に炎症が起こり、歯を支える骨が破壊される病気ですが、その害は口の中にとどまらず、認知症糖尿病動脈硬化の原因になるなど全身に及ぶことが近年、明らかになっています。国民病ならぬ“地球人病”ともいうべき歯周病とはどんな病気で、地球にいながら逃れるすべはあるでしょうか。

思い当たる症状があれば歯周病?

  • 歯茎にかゆみがある
  • 口臭がある
  • 朝起きた時に口の中がネバネバしている
  • 歯茎が腫れて浮いた感じがする
  • 食事の時に歯に痛みを感じるようになった
  • リンゴをかじると歯茎から出血する
  • 歯磨きをすると歯茎から出血がある
  • 歯茎が腫れて色が黒ずんでいる
  • 歯に動揺がある(触ると歯が動くのを感じる)

これらはいずれも歯周病の症状で、上から順に進行していることを示します。どれか1つでも当てはまれば、すぐに歯科医院へ行ってください。

先に紹介したギネスブックでは、歯周病を「この惑星上で、この症状から逃れることができる人はほとんどいない」と説明しています。「ほとんどいない」はややオーバーですが、厚生労働省が2011年に行った「歯科疾患実態調査」によると、日本の成人の8割以上に歯周病の症状があったと報告されています。そして、歯を失う原因として最も多いのが歯周病なのです。

歯医者の検診

歯周病とはどんな病気?

歯周病は、唾液感染する細菌によって引き起こされる感染症です。「サイレント・ディジーズ」と呼ばれ、気が付かない間に大きく進行していきます。

ヒトの口の中には約700種の細菌がすみついています。これらの細菌が集まって、歯の表面でスクラムを組んでへばりつき、その中でどんどん増えていきます。このへばりついた細菌を「歯垢(しこう)=デンタルプラーク」といい、1gの歯垢の中には1000億もの細菌が確認できます。

歯と歯茎の境界にへばりついた細菌が歯肉の細胞にまで入り込み、歯茎が炎症を起こして腫れたり、出血が始まったりします。これが歯周病の第1段階で「歯肉炎」という症状です。

炎症が進むと歯と歯茎に隙間(すきま)ができ、奥へと広がっていきます。この隙間を「歯周ポケット」といいます。その深さを測ることで歯周病の進行度を知ることができます。

歯肉炎がひどくなると病名が「歯周炎」に変わります。歯周炎は歯肉だけではなく、歯を支えている骨(歯槽骨)が溶け始めた状態です。初期では、腫れてかゆみなどを感じ歯磨きの時出血したりします。症状がさらに進むと、歯茎の色が赤紫や黒っぽく変わり始め、口の中がねばつき、口臭が出てきます。それを過ぎて歯がぐらつき始め、見た目でも歯茎が下がったのが自覚できる状態になると重度の歯周病で、やがて歯が抜けてしまいます。

歯周病には、15~30年かけて進行する慢性歯周炎と、2~10年で進行する侵襲性歯周炎があります。このうち侵襲性歯周炎は、全体の10%未満で10~30代で発症し進行が早いのが特徴で、遺伝的要因の関与も考えられています。

歯周病が全身に及ぼす悪影響

冒頭でもふれたように、歯周病は全身の健康にさまざまな悪影響を与えることが明らかになってきました。

まず起こるのが血管の硬化です。これは、歯周病菌などが血管に直接障害を与えたり、炎症が起こった時に作られる「サイトカイン」というたんぱく質によって引き起こされたりすると考えられています。硬化して狭くなった血管が詰まると、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞といった命を脅かす病気を発症することがあります。

また、歯周病と糖尿病の“負の相互作用”にも注意が必要です。糖尿病になると体の抵抗力が弱まることが知られています。歯周病菌に対しても例外ではなく、糖尿病で歯周病の症状が悪化します。反対に、歯周病で血糖のコントロールが悪化し、糖尿病にかかりやすくなったり症状が悪化したりするという関係も明らかになってきました。

その他にも、日本臨床歯周病学会は歯周病が影響を及ぼす病気として、誤嚥(ごえん)性肺炎、早産、低体重児出産、骨粗鬆(そしょう)症関節炎、腎炎などを挙げています。

アルツハイマー病との関連も

さらに、慢性歯周病原因菌の代表格、P.ジンジバリスが生み出す毒素が96%以上のアルツハイマー病患者の脳内で見つかったとする論文が2019年1月、米科学誌サイエンスの姉妹誌「サイエンス・アドバンシズ」に掲載されました。

このように、放っておくととんでもないことになってしまうのが、歯周病なのです。

歯周病にならないためのメンテナンス

歯周病にならないためには、日ごろから口の中のメンテナンスが大切です。メンテナンスの基本は歯磨きです。以前は「1日3回、食後3分以内に3分間磨く」と言われていましたが、これは誤りだったことが明らかになっています。食後すぐは歯の一番外側にある硬いエナメル質が柔らかくなっているため、磨かない方が良いのです。食後はフロスで歯間に残った食べ物のカスを取り除きます。さらに3分は磨きすぎで、2分で十分。磨きすぎは歯や歯肉を痛める恐れもあります。

夜寝る前と朝起きた時の1日2回、できれば研磨剤が入っておらず殺菌力の強い歯磨き粉を2cm使って2分間しっかり磨く「スウェーデン方式」が推奨されています。

歯みがき

ただ、毎日一生懸命磨いても、それだけではどうしても取り切れない歯垢がたまってしまいます。3カ月に1回、歯科医院で専門的なクリーニングをするのが理想的です。

中度以上の歯周病は専門医の治療を

中度~重度に進んだ歯周病は、症状によりさまざまな治療の可能性が出てきます。歯がグラグラするような明らかな歯周病を抱えている人は、最初から歯周病専門医がいる歯科医院で治療を受ける事をお勧めします。

顎骨に人工歯根を埋め込む歯科インプラントが普及するにつれて大きな問題になっているのが、インプラントの歯周病「インプラント周囲炎」です。インプラントの周りの骨を溶かし、最後にはインプラントが抜けてしまいます。インプラント治療を受けた方は自分の歯以上にしっかりした定期的メンテナンスが不可欠です。

歯周病予防には栄養のバランスも

免疫の働きと代謝をしっかりと維持していれば、歯周病菌に感染していても発症しないことが分かってきています。口腔(こうくう)内の代謝を保つために欠かせないのは、必須ビタミン・ミネラル・アミノ酸です。バランスの良い食事でこれらを摂取できない場合には、良質なサプリメントで補うことが、健康のためにも歯周病ケアにも必要です。

近年の歯周病治療の進歩は目覚ましいものがあります。

多くの専門医が世界中で日々、歯周病予防・治療の研究に取り組んでいますし、口腔外科分野でも失った歯の機能を回復するさまざまな方法が開発されています。そうした努力のおかげで、一度失った骨や歯茎を取り戻すことができるようになってきました。ただし、歯周病が進行すればするほど機能回復までにかかる時間と金額が大きくなるのも事実です。1人1人が歯周病にならないように正しいケアの習慣を身に着け、定期的にメンテナンスを受けましょう。

「歯科治療は痛い、怖いもの」ではなくなってきています。できるだけ患者さんに寄り添い、それぞれの意向に沿った1人1人に合う診療や予防方法を導き出すのが歯科医師の責任と考えています。お口のトラブルや不安があれば、怖がらずに歯科医に相談、治療を受けてください。

痛くない!怖くない!!歯科治療の連載一覧

  • 「世界で最も患者数の多い病気」とは