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「平成おじさん」の死の遠因 心房細動はどう治療する?

公開日

2019年03月28日

更新日

2019年03月28日

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2019年03月28日

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東邦大学 医学部内科学講座循環器内科学分野 教授

池田 隆徳 先生

甘く見てはいけない 時々起こる動悸の原因「心房細動」【治療編】

間もなく平成が終わろうとしています。思い返せば30年前、墨書きの色紙を掲げ「新しい元号は『平成』であります」と発表したのが、当時竹下登内閣の官房長官だった小渕恵三さんでした。この発表の印象が強く「平成おじさん」として知られるようになり、その後首相に就任した小渕さんですが、任期半ばにして脳梗塞(こうそく)で倒れ、62歳という若さでそのまま帰らぬ人になってしまいました。小渕さんを襲った脳梗塞には心房細動がかかわっていたとされています。心臓と脳。ずいぶん離れた位置にある2つの臓器の病気には、どのような関連があるのでしょうか。そして、心房細動と分かった時にはどんな治療を受ければいいでしょうか。

心房細動が脳梗塞の原因に

小渕さんの命を奪ったのは「心原性脳梗塞」。心房細動が起こると、心房の中を流れる血液のスピードが低下してうまく流れなくなり、それが原因で血栓(血の塊)ができやすい状態になってしまいます。その血栓が心臓から出てゆき、脳の血管に詰まる(脳塞栓)ことがあるのです。ミスター・プロ野球こと長嶋茂雄さんや、サッカー日本代表元監督のイビチャ・オシムさんもこのタイプの脳梗塞とみられています。お2人は、その後現場に復帰されましたが、同じ病気になった患者さんは半身不随で寝たきりになるケースも多いのです。

頭をかかえる男性

心房細動で脳塞栓症をきたしやすい患者さんをある程度推察することができます。それに活用されているのがCHADS2(チャッズ・ツー)スコアと呼ばれる指標です。各危険因子の英語名の頭文字を並べたもので、S(Stroke/TIA:脳塞栓/一過性脳虚血発作の既往)を2点、その他のCHAD(Congestive heart failure:心不全、Hypertension:高血圧、Age:年齢≧75歳、Diabetes mellitus:糖尿病)を各1点とします。合計点が高いほど脳梗塞の危険性も高いと考えられます。

随伴症状にも注意を

心房細動と診断されたら、それに伴う症状(随伴症状)にも注意してください。心房細動発現の背景になっている病気や症状を知る手がかりになります。頭痛や肩こりなども伴っていれば過度な高血圧症を合併している可能性があります。発汗過多、体重減少、手指の震えなどがあれば甲状腺機能亢進症に合併して出現した可能性も考えられます。また、呼吸困難や胸痛があれば心不全や虚血性心疾患に合併して出現していることがあります。

以前に一過性の手足の麻痺やしびれ感、視野欠損などを経験したことがあるかということも大事です。そうしたことがあれば、これまでにも心房細動が起こり、それによって軽い脳塞栓症が起こっていたことが疑われます。

治療の第1歩は生活習慣見直しから

心房細動治療のファーストステップは(1)生活環境の改善です。セカンドステップとしては(2)薬物治療ということになります。最近ではその次のステップである(3)「カテーテルアブレーション」を行うケースも増えてきました。これらの治療で抑制されず、どうしても心房細動をなくさなければならない場合(パイロットのような職種)、最近では単独で行われることは少ないですが(4)外科的手術(メイズ手術)も考慮されます。心房細動が起こる原因が明確であれば、その治療を同時に進めていきます。

過度な飲酒、喫煙、不摂生な生活、ストレスなどの悪しき生活習慣・環境は心房細動発現の重要な因子です。治療の第1段階として、これらの是正を目指します。しかし、それで抑制されなければ次のステップを考慮します。

禁煙のイメージ

第2段階の薬物療法には(i)上述した心原性脳塞栓症の予防を目的とした「抗(血栓)凝固療法」(ii)患者さんの自覚症状と生活の質(QOL)改善を目的とした「レートコントロール(心拍数調節)療法」(iii)心房細動それ自体の抑制を目的とした「リズムコントロール(洞調律維持)療法」(iv)心房細動の基質(素地)を改善させる「アップストリーム(上流)療法」――の4つがあります。ただし、最後のアップストリーム療法はあくまでも補助的な治療法にすぎず、十分な臨床的なエビデンス(科学的根拠)もないことから最近では重視されなくなっています。

治療薬にもさまざまな種類が

心房細動に対する第1選択治療は、いうまでもなく抗凝固療法です。第2選択はレートコントロール(心拍数調節)療法、第3選択がリズムコントロール(洞調律維持)療法であることが、日欧米の学会から出された治療指針として示されています。

外来などで診ている安定した患者さんでは、経口の抗凝固薬を用いて抗凝固療法が行われます。俗に言う“血をサラサラにする”薬を用いた治療法のことです。抗凝固療薬は静脈や心房内といった血流の遅い部位で効果を発揮します。古くから使用されているワルファリンと、近年使用されるようになったNOACあるいはDOACと称される新しいタイプの抗凝固薬があります。副作用としては、効果の裏返しである出血です。

前述のCHADS2スコアで2点以上であれば抗凝固薬が必須、1点であれば考慮する、というように判断します。

動悸や息切れなど心房細動の症状が強く現れる人は、レートコントロール療法やリズムコントロール療法の薬で治療します。

このうちレートコントロール療法は、心房細動をなくすことではなく、心拍数(脈拍数)を下げて症状を和らげる治療です。症状の改善を目的とした治療法と言えます。一方、リズムコントロール療法は、抗不整脈薬などを使って心房細動の発現を押さえ込む治療です。しかし、可能性は高くないものの抗不整脈薬は心収縮力の低下、催不整脈(危険な不整脈の出現)作用、胃腸障害などの重篤な副作用の恐れがありますので、行われることが減ってきています。

根本的な治療にはカテーテルアブレーション

薬によって症状を抑えるのではなく、根本的な治療をしたいという場合には、カテーテルアブレーションが行われます。これは、足や首の付け根から細い管(カテーテル)を心臓(左心房)まで挿入し、カテーテルの先端から高周波熱の放射、あるいは先端のバルーンを用いて冷凍凝固することで、不整脈の原因となる異常信号の出元を焼灼(しょうしゃく)する(英語でアブレーション)治療法です。成功すれば心房細動の発現はなくなります。1回の治療での成功率は発作性心房細動ではおおよそ60~80%、持続性心房細動では40~60%、慢性ではさらに低くなります。他にも比較的若年(70歳以下)、心房の拡大がない、心疾患の合併がない、などが成功率を高くする要因です。

カテーテルアブレーションは何度も行えますので、どうしても心房細動をなくしたい患者さんは、数回この治療を受けることがあります。

59歳男性、高血圧がある患者さんの治療方針

最後に、上記を踏まえて【診断編】の冒頭で紹介した、Aさんの治療方針について考えてみましょう。Aさんは59歳と比較的若く、まだ仕事を続けている世代です。高血圧がありCHADS2スコアが1点ですから、抗凝固療法を考慮することになります。しかし、長年にわたって服用し続けるのはつらいと思います。症状がありますので抗不整脈薬を用いたリズムコントロール療法も選択肢の1つですが、できればカテーテルアブレーションで心房細動を完全治療し、少なくとも心房細動の薬を中止したいところです。高血圧がありますので降圧薬は服用しなければなりませんが、体重減少や食事療法で高血圧も改善していくことを勧めます。