概要
アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)は、認知症の原因疾患として代表的な疾患の一つを指します。アルツハイマー型認知症では脳における異常な変化を認めるようになり、慢性的かつ不可逆的な経過で記憶力や思考力の低下を来すようになります。本邦においてアルツハイマー型認知症はまれな疾患ではなく、65歳以上の7人に1人が同疾患であるとされています。(2012年時点)
アルツハイマー型認知症は認知症疾患の一つですが、認知症を引き起こす疾患としてはその他にも、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など多くのタイプの認知症が含まれています。これらの疾患とアルツハイマー型認知症を明確に区別することは、治療方針や予後などを正確に考察する上でもとても重要なものとなります。
原因
脳におけるさまざまな変化を原因としてアルツハイマー型認知症は発症します。アルツハイマー型認知症でみられる病理学的な特徴としては、以下の3つがあります。
(1) 老人斑の出現
(2) 神経原線維変化
(3) 神経細胞の脱落
こうした神経学的な変化が生じることから、アルツハイマー型認知症の発症につながります。老人斑とは「アミロイドβ蛋白」と呼ばれる物質で構成されています。アミロイドβ蛋白は神経に凝集することで「アミロイド線維」と呼ばれる物質を形成し、神経細胞に障害を与えることになります。
また、神経原線維変化は「微少管関連蛋白タウ」と呼ばれるものに由来しており、老人斑と同様にアルツハイマー型認知症の原因になります。こうした(1) 老人斑、(2) 神経原線維変化が相互作用することで神経細胞が障害され神経細胞が脱落し、脳が萎縮することになります。
アルツハイマー型認知症には、いくつかの誘因となりうる因子が存在することも知られており、年齢や遺伝的因子が代表的です。遺伝的因子に関連して家系内でアルツハイマー型認知症が多発することもあります。家族性アルツハイマー病は、プレセニリン1、2と呼ばれる遺伝子に異常が病気の発症に関与していると考えられています。また、ダウン症の方はアルツハイマー型認知症を発症しやすいことも知られています。糖尿病などの生活習慣病や運動不足もリスク因子であると考えられており、生活習慣病の是正(食事・運動)がアルツハイマー型認知症の予防にもなるのではないかといわれています。
症状
アルツハイマー型認知症は徐々に進行し、進行度に応じて症状も変化します。初期の段階は「軽度認知障害」と呼ばれる段階であり、少し前の出来事を思い出せない、といった程度であり、日常生活に支障を来すことはありません。
病状が進行すると、数分前のことでも思い出せなくなります。さらに時間に関する見当識の障害(日付けを思い出せない)や、実行機能障害(段取りをつけて物事を実施できない)、判断力の障害などが出現します。ほかにも自発性減退、うつ気分がみられ、物盗られ妄想が目立つ場合もあります。この段階になると、徐々に日常生活に支障がみられるようになります。
その後、失語(ものの名前がうまくいえない、相手のいったことをおうむ返しする、など)、失行(服のボタンがうまく止めることができなくなるなど) 、失認(感覚器に異常がないにもかかわらず、目や鼻などの五感で周りの状況を把握することが低下すること)なども出現します。その他、人によっては、妄想や徘徊が見られる場合もあります。進行すると、身内であっても認識できなくなり、最終的には全面的な介護が必要となり寝たきりとなります。
検査・診断
アルツハイマー型認知症は、保険適用の有無もありますが、MRIやCT、PET、SPECTなどの画像検査が行われることになります。MRIやCTでは脳の萎縮をみることができます。また、神経細胞が脱落する前にシナプスが脱落して脳の機能が低下しますので、糖代謝PET(保険適用外)や脳血流SPECTでアルツハイマー型認知症パターンの脳機能低下を検出することも可能です。
アルツハイマー型認知症はアミロイドβ蛋白やリン酸化タウ蛋白が病気の発症に関連しており、脊髄液を採取しそれらを調べることもできます。脳内におけるこうした物質の変化を検出することを目的とした、アミロイドPET、タウPETなどと呼ばれる方法もあります。しかし、タウPETはまだ臨床開発段階ですし、アミロイドPETもまだ保険適用がされていません。
治療
アルツハイマー型認知症の治療では、本人のみならず家族を始めとした周囲の方のサポート体制が必要不可欠です。病気についての理解をすることは重要であり、不用意に本人を気付けないような対応を取ることが求められます。病状が進行していることからのいらつきやうつ、意欲の低下を見ることはごく自然なことであると考えられ、本人の感情を受け止めることが大切です。
アルツハイマー型認知症の治療は、薬物療法とそれ以外に大きく分かれます。アルツハイマー型認知症で使用される薬剤としては、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンがあります。ただし、薬物療法の効果は現時点では限定的です。そのため、認知症の方との接し方が重要となります。認知症の方とご家族が1日中一緒に過ごすのではなく、昼間はデイケアに通ったりしてお互いの時間をもちリフレッシュするということも大切です。早い段階から介護保険などの社会的資源を利用して、ケアマネージャーにケアの計画を相談することが肝要です。
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