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連載もっと知りたい「病院」のこと

患者大幅減も 新型コロナが病院に及ぼす影響とコロナ後に変わる医療

公開日

2020年06月08日

更新日

2020年06月08日

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2020年06月08日

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新型コロナウイルスの感染拡大で危惧されていた「医療崩壊」は、これまでのところ日本では回避できています。ここで想定されているのは新型コロナ患者を治療する医療機関で、受け入れができなくなるほど患者が爆発的に増えるような事態です。ところが、それ以外の病院にも今回の事態は影を落としています。全日本病院協会副会長で脳血管研究所美原記念病院(群馬県伊勢崎市)の美原盤院長に、新型コロナウイルスが一般の病院に与えた影響と、これをきっかけに今後の医療がどう変わっていくかについて聞きました。

院内対策に大量の医療資源

新型コロナの患者を受け入れる指定医療機関以外の病院であっても、新型コロナと無関係ではいられません。

私たちの病院では、院長直轄の「医療関連感染対策室」が対策の中心になりました。この組織には、感染制御ドクター(ICD)、感染制御ナース(ICN)を含む多職種メンバーがいます。

今回、新型コロナの感染拡大で、病院としては何が必要かということを検討して▽病院運営▽診療▽職員保護▽外部連携▽PCR検査――のそれぞれについて、次のような対策を策定しました。

まずは病院運営について。外部からの医師派遣が制限されたため、当直体制の見直しなど医師の勤務変更などで対応しました。来院者に対しては、入り口で体温を測り、鎖で仕切るなどして1方向に流れるようにし、来院者と患者さんの導線が重ならないように注意しています。また、透明のシールド越しに案内をし、入ってきた方の話、入院患者さんの家族の話もここで聞いて記録し、基本的には病棟には入らないようにしていただきました。医療資材の確保と管理も大切です。例えばマスクに関しては、勤務表に照らして支給するなどの態勢も作るなどしました。

入り口の様子

導線整備の様子

次に診療です。発熱患者さんに対するプロトコール(手順)の整備や、指定医療機関で新型コロナウイルス治療を受けた後に神経内科の治療で引き続き入院が必要な患者さんへの対応も検討しました。

職員の保護も重要なポイントです。毎日の体温測定と行動記録の指示、出勤制限の基準を整備しました。また、小学校の休校などに伴い、院内保育園で一部小学生の受け入れ態勢を整備。休暇についての制度の変更もしました。

マスクの払い出しの様子

外部連携については、圏内の感染情報取得と情報発信体制の整備。新型コロナ治癒後の受け入れ窓口設置をしました。

PCR検査については保健所を通さなくても実施できるように県と契約しました。ただ、どんどんやってしまうのは問題がありますので、疑わしいケースは感染制御ドクターに連絡し、OKが出たら検査を実施するという形にしました。

ご説明した以外の感染対策なども徹底し、大量の医療資源を投下する必要がありました。

コロナ対応には「病床」ではなく「病棟」が必要

東京では「コロナ専門病院」を作ろうという動きがあります。少なくとも、今後は「コロナ専門病棟」は必要になるでしょう。一方、群馬県では一般病棟の中にコロナ専門病床を確保する検討をしています。しかし、ある病棟のある病室をコロナ患者さん用にした場合、病棟全体に感染が拡大する可能性が生じます。したがって、コロナ患者さんを受け入れるならば病棟全体をコロナ専用にする必要があるのです。

病棟変更の様子

幸いそうはなりませんでしたが、パンデミックで感染症指定病院がいっぱいになったら、軽症から中等症のコロナ患者さんを受け入れざるを得ないだろうということで、実際にシミュレーションをしてみました。回復期リハビリテーション病棟の1棟をコロナ病棟にした場合、通常45床ありますが、受け入れられるコロナ患者さんは20人と半分以下になります。そうした時に、満床から徐々に回復した患者が退院し、コロナではない患者さんを受け入れて元の病棟の機能に戻すまで3カ月程度はかかるとみられます。コロナ病棟を作った場合、普通に運営している場合と比べると3億円ほどの赤字になります。補償をどうするかという問題が生じるわけですが、そうした議論はなされていないのが現状です。

このような取り組みは都道府県によって全く違っています。新型コロナの第2波、第3波も想定して、そうした議論が必要ではないかと思います。

大きい経営へのダメージ

新型コロナの患者さんを診ていない病院にも、多大な影響が出ています。来院患者数が減少し、それに伴い病院の収入も大きく減少しています。

もう少し具体的に説明すると、私どもの病院では3~4月の2カ月間で外来、入院患者とも徐々に減少しています。病床稼働率は3月上旬と比べて10ポイント以上低下しました。

4月の病院全体の収入を見ますと、3月との比較でも約10%、前年同月比では16%も減っています。とても厳しい数字で、病院経営にとってのダメージは非常に大きい。

なぜこのようなことが起こっているか。「本来かからなくていい人が病院に来なくなっただけではないか」という説がありますが、必ずしもそれだけではありません。まず、外傷の患者さんが少なくなりました。これは、高齢者が外出を控えているため、転倒で受傷することが減ったためと考えられます。また、私どもの病院には神経難病の患者さんなどを一時受け入れする病棟があります。普段在宅ケアをしている人の介護負担軽減のため「レスパイトケア」という形で運用しています。この患者さんの受け入れを中止したため、この病棟の稼働率が大きく下がりました。なぜ、中止したかというと、在宅介護の患者さんは訪問看護や訪問リハビリなどで、外部のいろいろな施設の方と接触しているので感染リスクが高いためです。実際、近隣の高齢者施設でクラスターが発生していて、そこに行っているスタッフが在宅ケアに関わっている可能性もあります。

ポストコロナの時代に変わる医療

厚生労働省は4月から、「感染が収束するまで」の時限措置として、これまで一部の再診患者さんに限られていたオンラインを利用した保険診療を、一部を除いて全面的に解禁し、初診でもオンラインでの受診が可能になりました。新型コロナウイルスは、1つの病気にとどまらず、私たちのライフスタイルや医療のあり方が変わるきっかけになるかもしれません。

例えば神経内科の分野では、目がどちらに動くかとか舌を出してもらうとか、筋力、ふるえなどなど、さまざまな神経学的所見が非常に重要です。そうした所見はオンラインでは取れないと思っていたのですが、外国の学会誌にオンラインで神経学的所見を取るためのガイドラインが発表されています。

もう1つ、AI導入も進む可能性があります。患者さんの病歴を聞くと想定される検査が示され、想定される診断が出て、ガイドラインに沿った適切な治療法も示されるといった可能性があります。画像診断に関してはAIの方がすでに優れているという話もある。オンライン診療がきっかけとなり、AIを使った医療が進むきっかけになるかもしれません。

前向きな話にすると、新型コロナがきっかけとなって、医療が新しい方向に進む大きな一歩のきっかけになるのではないかと思います。今回の感染拡大が一度収まっても、影響は数年残るだろうといわれています。その中で、感染症対策として生活様式が変わり、それが医療にも影響して医療提供体制も変わってくるでしょう。オンライン診療もAIも推進されていくでしょう。

医療は「3密」の世界です。それが、おそらくは変わっていくのだろうと思います。

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