新型コロナの影響・余波により、感染を恐れて病院の受診をためらう方や、院内感染の発生によって病院の機能が停止するといったことが見られ、心臓病の患者さんも例外ではありません。しかし、心臓病は適切なタイミングで治療を受けられなくなると命に関わる可能性があります。今回の感染拡大が収束したとしても、私たちはこれから、新型コロナウイルスと共存することになるでしょう。そんな“withコロナ時代”に、いかにして心臓手術を含めた診療を継続していくべきか、そして病院選びはどのように変化していくのか――。田端実先生(東京ベイ・浦安市川医療センター心臓血管外科部長、虎の門病院循環器センター特任部長)に、そのポイントを伺います。
※本記事は、2020年5月18日取材時点の情報に基づいて記載しています。
※withコロナ時代における東京ベイ・浦安市川医療センターの取り組みについては、こちらの記事をご覧ください。
新型コロナの影響で、医療もその形を変えつつあります。私たちは今、新型コロナウイルス感染症以外の診療をいかに継続していくかという課題に直面しています。その1つが心臓病の診療、特に心臓手術に関するものです。
国内の心臓病患者数は173万人にのぼるといわれ、死因の第2位となっています。新型コロナウイルス感染症による死亡率は10万人あたり0.5人(2020年5月現在)に対し、心臓病は同167.6人(2018年人口動態統計)。どちらも命にかかわる病気ですが死亡率で見ると心臓病のほうが高く、心臓病の患者さんが新型コロナの影響により必要とする治療を受けられないという事態は避けなければなりません。
心臓病には、心臓弁膜症や虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞<こうそく>)、心不全、不整脈などさまざまな種類があります。大動脈瘤(どうみゃくりゅう)や大動脈解離も心臓血管外科で扱う疾患です。これらの病気に対する手術は比較的侵襲(身体的な負担)の大きな治療で、“命を預かる治療”と言えます。新型コロナの影響が拡大するこの時代に、心臓血管外科医として心臓手術を行うことにはこれまで以上に責任が伴うと考えています。
まずお伝えしたいのは、新型コロナを恐れて受診を控えたり自己判断で治療を中断したりすることは避けていただきたいということです。
先ほど述べたように、新型コロナの影響によって患者さんが病院を受診したり検査を受けたりする機会が減ることで、適切なタイミングで適切な治療を受けられない可能性があります。このような状況を回避するために、オンライン診療を受けることを検討してください。
我々としては、患者さんが新型コロナを恐れて必要な受診を控えたり自己判断で治療を中断したりすることを避ける環境をつくることが急務です。例えば当院では、患者さんが気軽に相談できるようオンライン診療システム(メール相談、セカンドオピニオン外来)を活用し、「手術が本当に必要か」「どの治療法が最適か」「手術の詳細やリスクを知りたい」といったご相談にも対応して、適切な方法とタイミングで検査や治療を受けられるようサポートしています。
手術にはどうしても感染症のリスクが伴います。さらにwithコロナ時代には、術前術後に起こりうるあらゆる感染症の鑑別診断の1つとして、新型コロナウイルス感染症を考慮しなければなりません。では、リスク低減のためにはどのような方法が考えられるでしょうか。
私たちは新型コロナの影響を考慮して、従来から行っていた感染症内科との連携をさらに強化し、周術期における感染症対策を徹底しています。例えば、手指消毒や感染防護具の着用、面会制限、来院者のコロナスクリーニング、院内のゾーニングなどです。
手術前後(特に術後)の発熱はさまざまな要因で起こりますが、現在、心臓手術の術前・術後に発熱があった場合には新型コロナウイルス感染症の可能性を考慮し、全例、感染症内科医の見解を聞いたうえで検査・治療方針を検討しています。
このような体制と密な連携により、患者さんが新型コロナウイルス感染症を発症した場合でも、迅速に初動を起こすことを可能にしました。
手術を受けるにあたっては、その病院の感染症対策についても確認が求められます。
病院という場所は、どうしても患者さんや医療従事者が病院内で感染症にかかる「院内感染」のリスクが伴います。“有事”が発生したとき、何の対策も講じられていなければ、スタッフは自宅待機となり、病院機能は破綻し、当然患者さんの治療にも影響は及びます。
当院ではもともとスタッフを2つのチームに分けて診療を行っており、コロナ禍をきっかけに、全員で集まる機会を最小限にする体制を整えました。どうしても複数人数が集まる場合には、身体的距離(1~2m)を保ちます。それにより、万が一有事が発生しても、1チームは自宅待機という事態を回避できる可能性が高まります。
また、MICS(低侵襲心臓手術)やTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)などの比較的低侵襲な(身体的負担の少ない)治療に注力していることもポイントといえます。というのは、低侵襲な治療は通常の手術よりも早期退院が見込めるため、今後、新型コロナの第2波、第3波が訪れたときでも病床の確保、診療の継続が期待できるからです。さらに、低侵襲な治療は通常の心臓手術よりも輸血の使用が少ないという利点もあり、コロナ禍における献血不足が問題となっているなか有用な治療方法といえます。
一方で、どんなに対策を講じたとしても感染症のリスクはゼロにはなりえません。万が一、心臓手術後の患者さんが新型コロナウイルス感染症を発症した場合に治療が継続できるかも、安心して手術を受けられる病院選びで重要な意味をもちます。感染症指定医療機関で、新型コロナウイルス感染症の重症患者さんを受け入れることを目的としたコロナユニットなどがある病院ならば、新型コロナを発症しても、院内で継続して術後の診療を行うことが可能です。
心臓の治療を受ける病院を選ぶときに、どのような点に注目すると良いでしょうか。心臓血管外科医としてお話しすると、まず、新型コロナ流行前後にかかわらず重要なポイントは3つです。1つ目は、経験豊富な外科医が在籍し、症例数の多い病院であること。2つ目は、治療方法の選択肢が多い病院であること。たとえば、大動脈弁狭窄(きょうさく)症に対して開胸手術およびTAVIの両方を行っているかといった点で判断できます。選択肢が多いということは、その中からより適切な治療を選択できるという考え方です。3つ目は、治療の必要性および適切な治療法とタイミングをしっかりと判断できる病院かどうか。これは、内科的・外科的両方の視点で客観的に診療している(循環器内科・心臓血管外科の人員や症例に偏りがない)こと、さらには多職種で形成される「ハートチーム」が機能しているかで判断できます。
これらに加えてwithコロナ時代には、感染症対策がしっかりと行われているか、感染有事発生時のバックアップ体制があるかを確認して病院を選ぶことが重要になります。感染症対策については、感染症内科もしくは感染対策室があることが1つの目安になるでしょう。バックアップ体制については、2チームに分けられるだけの医師の数か、もしくは術後管理できるチームのバックアップがあるかが目安になります。
withコロナ時代にあっても、必要な検査や治療を適切なタイミングで受けることは非常に重要です。新型コロナが怖いからといって病気を放置してしまうと、最悪の場合、命にかかわる可能性もあります。そのため、お伝えしたようなポイントをふまえて病院を選び、メールや電話相談、オンライン外来を活用して、適切なタイミングで治療を受けていただければと思います。
私たちも、withコロナ時代の新しい生活形式に合った医療体制で質の高い医療を皆さまにお届けできるよう、たゆまぬ努力と革新を続けていきます。
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