前編・中編では、新型コロナとの戦いのこれまでと現状について、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下、分科会)会長である尾身茂先生に詳しくお聞きしました。後編では、ワクチンの登場や新型コロナの収束に向けて、尾身先生がどのように考えているのか、お話を伺います。
現在、ワクチンの副反応や変異株への有効性などについて、さまざまな情報が集まりつつある状況です。これらの情報は引き続き分析を続け、国民が必要とする情報をよい面も悪い面も含めてきちんと示すべきだと考えています。
この前提をふまえ、今日時点(2021年3月25日)の私の判断としては、基本的には承認されたワクチンに非常に期待をしていますし、私自身も順番が来れば接種したいと考えています。
私がワクチンに期待するポイントとして、重症化予防の実現が挙げられます。1年以上もの間、社会がこれだけ新型コロナウイルス感染症を不安に感じている理由は、やはり「感染による死」と「感染拡大に伴う医療崩壊」に対する恐怖感があるからではないでしょうか。
この点を鑑みると、ワクチンの接種によって重症化予防が可能になれば死亡率も減少する可能性があり、それによって人々に心理的な安心感が生まれます。また、それと同時に想定されるのが医療機関の負担軽減です。これらが実現できれば、人々の不安感も徐々に軽減していくと思います。
そのためにも、特に重症化リスクが高い高齢の方や基礎疾患がある方には迅速にワクチン接種を行う必要があります。ただし、ワクチン接種を進めるためには、やはり医療提供体制に余裕がなくてはなりません。そのため、高リスク者への接種が実施される前に感染の再拡大が起きてしまうと、また医療提供体制を圧迫することになり、これがワクチンの接種スケジュール、ひいては新型コロナウイルス感染症の収束の遅れにつながります。
こうした悪循環を防ぐためにも、高リスク者へのワクチン接種完了までの期間が非常に重要な局面であるといっても過言ではありません。
新型コロナウイルス感染症の流行が1年以上続き、“自粛疲れ”をしている方も多いと思います。ただ、この感染症の特徴が分かってきている今、全ての行動を厳しく制限する必要はないと考えています。3密*あるいは感染リスクが高まる5つの場面**の回避といった基本的なことを徹底して感染リスクを最小限にしたうえで、生活におけるストレスを軽減していかなければ長続きしません。むしろ大切なのは、こうした考え方が新しい文化として定着していくことではないでしょうか。
*3密:換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面を指す。
**感染リスクが高まる5つの場面:飲酒を伴う懇親会など、大人数や長時間におよぶ飲食、マスクなしでの会話、狭い空間での共同生活、居場所の切り替わり。
新型コロナウイルス感染症は感染者やその周囲の方だけでなく、経済的な面でも多くの方を苦しめています。感染症の専門家としては、このように感染症のまん延によって多くの方々が苦しんでいる状況で、一刻も早く事態を収束させるために尽力することが当然のことだと考えています。また、現在は国や自治体のリーダーが自ら汗をかき体制づくりなどを進めるべき局面でもあるでしょう。分科会としても、感染防止対策を適切に実施している飲食店に対する認証制度導入などの提案を進めているところです。
それと同時に、やはり収束に向けて国民の方々一人ひとりの心がけ・協力が必要不可欠です。重症化リスクが低い方々も、どうか「無症状者から感染が広がる可能性がある」ということを頭の片隅において行動をしていただけたらと思います。
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