世界で感染拡大し、人々に混乱をもたらした新型コロナウイルス感染症。高齢の方や基礎疾患のある方は重症化・死亡のリスクが高いことが分かっています。「急変して亡くなる例の中には心臓病の急激な悪化によるものが含まれている」と話す野出孝一先生(佐賀大学医学部附属病院 循環器内科 教授)に、心臓病と新型コロナウイルス感染症の関係についてお話を伺いました。
*本記事における「心臓病」は、循環器疾患(⾎液を全⾝に循環させる臓器である⼼臓や⾎管などが正常にはたらかなくなる病気)を指します。
新型コロナウイルス感染症が心臓病の分野に与えた影響は大きく2つあります。
1つは、心臓病の治療で服薬・生活管理などを行っている方が新型コロナウイルス感染症を恐れて通院を控えてしまったことです。心臓病にはさまざまな種類がありますが、心不全や狭心症、心筋梗塞(こうそく)、不整脈など慢性的な病気が多く、定期的に病院へ通う患者さんが多くいらっしゃいます。そのような患者さんが病院の受診を控えることで、適切な管理や治療が行えなくなるケースが見られました。
もう1つは、胸の違和感や不快感、痛み、息切れなどがあった際、従来であれば病院を受診すると思うのですが、新型コロナウイルス感染症を恐れて病院の受診を控えてしまう方がいたことです。これにより、心不全や狭心症、心筋梗塞、不整脈といった心臓病を早期に発見するチャンスを逃している可能性が高いです。
これらの影響を物語るのは、今病院を受診される方の心臓病の重症度が高いことです。受診控えにより、軽症だった患者さんは重症になり、さらに急激な悪化によって救急搬送されてくるようなケースも増加しました。中には救急搬送の途中で命を落とされる方もいるため、これは非常に大きな問題だと感じています。
もう1つ懸念しているのは、軽症の新型コロナウイルス感染症の患者さんが自宅待機中に急変して亡くなるケースの中に、心臓病の急激な悪化によるものが含まれている可能性が高いという点です。もちろん呼吸不全によるものはあると思いますが、呼吸不全に合併して急性心不全、あるいは重症の不整脈、肺塞栓症(肺の血管に血栓が詰まる病気)などが起こり、命を落とすケースも多いのではないかと考えています。
心臓病の方が新型コロナウイルス感染症にかかると重症化リスクが高いことが知られていますが、理論上もともと持っている心臓病も悪化する可能性が高いです。その要因としては、まず感染症が重症化すると免疫のはたらきが増幅し、心不全や心筋梗塞が悪化する可能性があります。さらに免疫のはたらきにより全身に炎症が生じると、サイトカインというたんぱく質の機能によって血管の透過性が上がり、血液が漏れ出ないように血小板がはたらくことで血栓(血の塊)ができ、心不全や心筋梗塞の悪化につながるのです。
新型コロナウイルス感染症と心臓病、その合併症の関連性を明らかにするべく、現在、日本循環器学会は日本呼吸器学会と連携し、新型コロナウイルス感染症と合併症のデータ解析を計画しています。具体的には、新型コロナウイルス感染症を治療して軽快退院された方に対して3カ月後に心エコー(超音波)やMRIなどの画像検査を行い、新型コロナウイルス感染症によって心臓病の状態がどのように変化するのか、慢性的な合併症がどの程度現れるのかを調べる予定です。
新型コロナウイルス感染症は特に高齢の方ほど重症化率や死亡率が高く、80~89歳の方の重症化率が34%ほど、死亡率が30%にのぼるといわれています。これはあらゆる病気の中でも高い致死率です。高齢の方の場合、不整脈や心筋梗塞で痛みを感じない(無痛性といいます)ことが多く、本人も症状に気付かないうちに突如として状態が悪化してしまうケースがあると考えられます。また、心臓の部屋(主に左室)がうまく拡張せずに心不全を起こす「拡張不全」も高齢の方に多く、かつ症状が出にくいです。そのため、知らず知らずのうちに状態が悪化している可能性があります。
高齢になると、体のさまざまな臓器の機能が低下します。それは心臓や血管においても同様で、そういう意味では「高齢であること」それ自体が心臓病のリスク要因といえます。新型コロナウイルス感染症にかかることで急激に心臓の状態が悪くなる可能性がありますので、高齢の方は、心臓病と診断を受けていない場合であっても心臓病のリスクが高い「心臓病の予備軍」であるという意識を持って、引き続き感染対策などをしっかりと行って過ごしていただきたいです。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、緊急事態宣言が出されたことで自粛生活が続きました。これまでの生活と比べて外出や運動の機会が減ったことを実感されている方も多いのではないかと思います。
慢性的な運動不足は、糖尿病や高血圧などを悪化させる要因になり、さらには精神的な落ち込みにもつながります。そのため、感染対策をしたうえでの外出、たとえば屋外での運動や散歩などはなるべく継続してください。買い物に出かけるときに少し長めに歩くなど工夫するのもよいかもしれません。また、精神的な落ち込みを避けるためには社会的なつながりを維持することも大切です。電話やメール、SNSなどを通じたコミュニケーションを積極的にとるよう心がけてほしいと思います。
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