連載新型コロナと闘い続けるために

病院の受診・通院は「必要緊急」―自己判断で中断しないで【講座サマリー1】

公開日

2021年04月21日

更新日

2021年04月21日

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2021年04月21日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年04月21日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

私たちの生活に多くの影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症。大都市圏を中心に第4波が襲来、大阪や東京では3度目の緊急事態宣言が要請・検討されています。そのようななか、救急医療はどのような現状にあり、患者さんの受診控えによってどのような影響が起きているのでしょうか。2021年3月20日(土)に行われたメディカルノートオンライン講座「コロナ禍における医療機関へのかかり方」をまとめました。【1 救急医療の現場:講師 織田成人先生】

【講師】

織田成人先生 千葉市立海浜病院 副院長、救急科統括部長

山口和也先生 公益財団法人ちば県民保健予防財団 総合健診センター診療部 消化器担当部長

【司会】

寺井勝先生 千葉市立海浜病院 病院長

井上祥 株式会社 メディカルノート 共同創業者・代表取締役

救急搬送される人は減っている?

まずは「コロナ禍における救急医療の現状と受診控えによる影響~救急医の立場から~」というテーマで、救急医療がどのような現状にあるのかを、千葉市と千葉市立海浜病院(以下、海浜病院)を例にお話しします。

こちらは、千葉市および海浜病院におけるここ3年間の救急搬送件数です。上のグラフが千葉市、下が海浜病院で、黒の折れ線が2018年度、青が2019年度、赤が2020年度を示しています。

COVID-19流行の影響

ご覧のとおり、千葉市の救急搬送件数は2020年度に減少しました。これはおそらく2度にわたる緊急事態宣言を受けて市民の方々が外出を控えたために急病・交通事故・けがなどが減り、救急車を呼ぶ機会が少なくなったためと考えられます。救急車の適正利用が行われた結果、ともいえるでしょう。

海浜病院では2018年度の月平均271人で、2019年度に救急科が開設されたことで月平均366人まで増えていました。しかし2020年度には295人に減っています。

重篤な状態に陥り運ばれる高齢の方が増えている?

次は、救急搬送件数を年齢別にした2018〜2020年度の推移です。グラフは15歳未満(左)、15〜64歳(中央)、65歳以上(右)で分けており、上が千葉市で、下が海浜病院です。

COVID-19流行の影響(年齢別)

千葉市、海浜病院のいずれにおいても15歳未満の小児、15〜64歳の成人の救急搬送件数が大幅に減っています。これは先ほどお伝えした、外出の自粛による影響が出ていると思われます。

一方、65歳以上の方の救急搬送は減っていません。外出の機会が減っているはずなのに、なぜ救急搬送の数が減っていないのでしょう。実はこの中に、本来は通院が必要であるにもかかわらず通院を控えたことで病気が悪化し、重篤な状態に陥って救急搬送されるケースがかなり含まれていると推測されます。この傾向は、高齢の方で特に顕著に現れています。

救急搬送された事例1―糖尿病・高血圧の方

ここで、最近当院に救急搬送された方の事例を2つご紹介します。

ケース1は、82歳の女性です。自宅で意識を失い倒れているところを千葉市安心ケアセンター*の職員が発見し、救急車を要請。救急隊が到着したときには意識が回復し、受け答えが可能な状態になりました。数日前から食事をすると吐き気があり、食事を取っていなかったといいます。我慢して自宅で様子を見ていたところ、意識を失って倒れてしまいました。

この方は元々、糖尿病と高血圧があり、自宅近くのクリニックに通われていました。そこで糖尿病の薬を2剤、高血圧の薬、便秘薬の処方を受けていましたが、2020年8月から新型コロナウイルス感染症の影響を懸念し通院をご自身で中断され、10月末から薬をまったく飲んでいなかったといいます。

当院に救急搬送されてきた際、いくつかの検査を行いました。その結果、血糖値が373と非常に高く(99以下が正常値、126以上で異常ありとされる)、さらに糖尿病のコントロールの状態を見るHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という数値も11.4%と高く(5.6%以上が糖尿病疑いとされる)、ほとんど未治療糖尿病のような状態になっていました。また、糖尿病が悪化すると出てくる尿中のケトン体の数値が3+、血液の濃縮を表すHb(ヘモグロビン)が17g/dL(女性の基準値が11.4〜14.8g/dLとされる)、BUN(血中尿素窒素)も42mg/dLと、ひどい脱水状態に陥っていたのです。

写真:PIXTA
写真:PIXTA

 

診断名は、糖尿病性ケトアシドーシス(血糖値を下げるためのインスリンが不足し、十分に血糖値が下がらないことで起こる合併症)および、高度の脱水による意識障害と体動困難です。その日はICU(集中治療室)に入院し、点滴とインスリン注射によって脱水の補正と血糖コントロールを試みました。その後、体動困難がなかなか改善しなかったので調べたところ、腰椎(ようつい)(腰の骨)の圧迫骨折が判明。1カ月ほど入院されたのち、慢性期病院**へ転院されています。

*千葉市あんしんケアセンター:地域で暮らす高齢の方のための相談窓口。地域の方々がいつまでも健やかに住みなれた地域で生活しできるよう市内30カ所(出張所含む)に設置され、介護・福祉・健康・医療などさまざまな面から総合的なサポートを行っている。

**慢性期病院:病気の治療とリハビリテーションにより自立支援をする機能を持つ病院

救急搬送された事例2―心筋梗塞の方

ケース2は、81歳の女性です。この方も2〜3日前から体調不良で食事を取れていなかったのですが、病院に行かずに我慢していました。朝からいきなり呼吸苦と胸痛が現れ、症状の改善がないことから、救急車を要請しました。

既往症(これまでにかかった病気)として心筋梗塞(しんきんこうそく)があり、2015年に治療で冠動脈(心臓を栄養する血管)にステント(筒状のステンレス製の金網)を留置してからは血液をサラサラにして固まらないようにする抗凝固薬を飲んでいたのですが、最近は内服を中断されていました(期間は不明)。パートナーと2人暮らしですがご本人には認知症もあり、通院できていなかったようです。

救急車で搬送された際、心筋梗塞で見られる心電図の波形であるST上昇や高感度トロポニンIという数値などが高く、心筋梗塞を起こして心不全に陥った状態で、かつ急性腎不全も合併したと診断されました。

すぐに気管挿管(口や鼻から気管の中に気管チューブを挿入して酸素や麻酔ガスの通り道を開いておく方法)を行い、冠動脈造影検査で冠動脈の状態を調べ、左前下行枝(ひだりぜんかこうし)という血管を開いてステントを留置。心筋梗塞の治療と同時に、心不全と急性腎障害をICUで管理しました。この方は現在も入院中で、2週間後に一般病床に移る予定です(2021年3月時点)。

通院控えや薬の中断による病気の悪化が増加

このように、本来必要な病院の受診を控えたり、薬を中断したりすることで病気が悪化し、救急搬送されるケースが増えています。先ほどご紹介した糖尿病や心筋梗塞の例のほかにも、てんかんの薬を中断して発作が出てしまった、甲状腺機能低下症の薬を長い期間飲まなかったため状態が悪化して意識障害に陥ってしまった、抗精神薬をやめて病状が悪化してしまったという例が散見されているのです。

お話を聞くと「病院に行くと危ない(感染リスクが高い)と思った」という方がいらっしゃいます。しかし、当院を含めて多くの病院では、発熱や呼吸器症状のある方は除染室(医療スタッフや入院患者への二次被害を防止するために診察前に汚染を取り除く作業を行う部屋)で対応しており、出入口でも体温測定や手指消毒などの感染対策を行い、異常がある場合は検査で陰性が確認できるまで別の場所で待機するようになっています。また、当院ではLAMP法により迅速に検査できる体制を整えています。ですから過度に病院を恐れずに、適切に通院・受診をしていただきたいです。

当院救急外来におけるコロナ感染対策

通院は「必要緊急」―自己判断で中断しないで

通院や、体調の悪化で病院を受診することは、決して不要不急ではなく「必要緊急」なことです。特に持病や既往症があって薬を飲んでいらっしゃる方は、薬を中断することで重篤な状態に陥る可能性があります。そのため、自己判断で薬を中断したり、通院を控えたりすることのないようお願いします。気になることがあれば担当医にご相談ください。

また、高齢の方は認知症が気付かぬうちに進行する場合もありますので、薬の内服や通院をきちんとされているかどうか、ご家族など周囲の方がご確認いただけるとよいと思います。

※消化器のがん検診については次のページをご覧ください。

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