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「チユ」「コンチ」「カンカイ」…がんにまつわる言葉と意味合い

公開日

2019年12月16日

更新日

2019年12月16日

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2019年12月16日

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帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 教授

渡邊 清高 先生

「がんが治った」という意味で、「治癒」「根治」「寛解」という表現を目にすることがあります。また、「再発」「再燃」などの言葉を見聞きすることもあります。がん治療において、「治るか、治らないか」「治癒したのか、しないのか」ということに患者さんはもちろん、ご家族や周りの方もとても関心があり、また不安を抱えることが多くあります。がんの治療では何をもって治癒とされるのでしょうか。がんを患った方は常に再発の不安を抱えています。そのようなときに治癒の宣告はとても励みになると思われます。今回は、私たち医療者がどのように「治療の効果」についての言葉を使っているのか、そして治療効果とその受け止め方について、考えてみたいと思います。

治療における「根治」とは

がんは、これまでの連載でもご紹介してきたとおり、正常な細胞の一部が遺伝子の異常によって制御の仕組みを失い、無秩序・無制限に増殖したり、周りの組織や離れた臓器に転移したりすることによって、生命を脅かす疾患です。

このがんに対する治療のうち、「根治手術」という場合にはがんの細胞や組織をすべて取り除くこと、再発や転移が起こらないように、広がっている可能性のある臓器や組織を含めて切除することをいいます。また、「根治的治療」として、薬物療法(抗がん剤治療)や放射線療法を組み合わせて行うことで、目で見えない小さながん細胞や、微小な転移に対して治療効果を期待することもあります。

「治癒」「完治」には「時間」も関係

「治癒」あるいは「完治」という場合には、「がんがないこと」について「時間」の要素が加わります。つまり、手術などの根治的治療のあと、一定の期間再発や転移、がんの悪化(増悪<ぞうあく>)を起こさないことが目安になります。

例えば肺がん大腸がん胃がんなど多くのがんでは、治療後5年再発しないで存命している方の割合を「%」で示した指標を「5年生存率」といい、がんと診断された後の病状の見込みや経過の見通し、治療の効果の参考にする目安として用いています。5年間再発がないことを「治った」と見なして、「治癒した」「完治した」と表現することもあるかもしれません。特に手術や内視鏡下治療などで、再発のリスクが少ない、あるいはほとんどないと考える場合には、治療後のフォローアップ(経過観察)を終了する目安として「治癒」「完治」という言葉が使われます。再発のリスクがあると判断される場合や、追加して治療を行う必要のある場合、副作用や後遺症に対する治療やケアを行う場合などでは、当面継続して通院する必要があります。がんの治療は1回で完結するのではなく、多くの場合一定の期間継続して経過をみていく、ということになります。

一方、がんがリンパ節や周りの組織、離れた臓器(肝臓・骨・脳・肺など)に広がっている「遠隔転移」があると、多くの場合手術単独での治療効果は限られ、進行の度合いによって、再発や転移の可能性があるといえます。遠隔転移がある場合の多くはがんの根治は難しく、手術・薬物療法・放射線療法などを複数組み合わせ、がんの増殖を抑えたり、症状を抑えて苦痛を軽減したりする治療が行われます。このような場合、「がんとつき合う」「がんと共存しながらよりよく生きる」ことが目標になります。

薬のイメージ

5年では「治癒」と言えない場合も

がん治療後5年でも「治癒」と言えない場合があることもわかってきました。大腸、肺、胃のがんなどでは5年後の無再発を経て再発することは比較的少ないため、「5年を目安に治癒」とよく言われます。ところが、乳がんは5年以降、場合によっては20年以上たってから再発することが決してまれではないこともわかってきています。あるタイプの乳がんでは手術後5年ではなく10年間継続して再発予防のホルモン療法を行うことで、予後が改善することが臨床試験で証明され、これが標準治療になっています。がん細胞が長期に増殖をしない休眠状態でしばらくとどまることや、転移を起こしやすいなどのがんの性質によるものと考えられています。そのため乳がんは、「10年生存率」を指標にすることもあります。

部位によって異なる長期の経過

診断から一定年数生存している人の集団について、その後の生存率のことを「サバイバー生存率」と呼び、治療後の経過の目安として用いられます。胃、大腸、膵臓(すいぞう)、肺のがんでは、診断からの年数が経過するにつれて5年相対生存率(高齢化など、人口構成による影響を除いた生存率)は高くなります。比較的生存率が低い膵臓がん、肺がんであっても、診断から5年後に生存している方(5年後サバイバー)の、その後の5年相対生存率は80%近いです。これは、(割合は少ないものの)一定期間存命が得られた場合には、その後の経過がよいことを表しています。

一方、肝臓がんでは診断からの年数経過による変化は少なく、5年後サバイバーの5年相対生存率は40%程度と低くなっています。これは背景の肝硬変などの慢性肝疾患や肝不全によって、その後の状態に大きな違いが生じるためです。乳がんは90%で一定であり、長期間を経てからも再発のリスクが一定程度存在することを示唆しています。

血液のがんなどで使われる「寛解」と「再燃」

血液・リンパのがん(白血病リンパ腫など)においては、もともと全身を巡っている血液に発生するがんということもあり、「根治」という考え方ですべてのがん細胞を排除するのが困難です。

こうしたがんでは、例えば骨髄(血液の元となる細胞)のうち白血病細胞のしめる割合が、一定以下に抑え込まれた状態を「寛解」といい、「ゼロ」ではないものの、身体に症状を起こすことのない定常状態を維持することが当面の治療の目標になります。さらに「寛解」を維持することが長期の予後を改善するために重要となり、「寛解」のあと、再発の可能性を抑えるための「地固め療法」や「維持・強化療法」が行われます。

一方、経過中に白血病細胞が再び増えて、一定の割合を超えたり、何らかの症状を示したりするときに「再燃」と言われ、固形がんでいうところの「再発」と同様に、追加の治療を必要とするようになります。

ひとりひとりで異なる患者さんの「治療後」

回復した患者さんのイメージ

治療方法が進歩することにより、根治や長期間の寛解維持、無増悪生存(再発や転移がなく存命すること)を得ることが可能になってきています。再発や再燃の兆しを遺伝子レベルで検出し、効果的な治療につなげる取り組みもなされています。一方で、いったん治療が終了したあとの状態を、「治癒」「再発しない状態」と言えるかどうかについては、もともとのがんの状態、行われた治療の内容と効果、病理検査・病理診断などで得られたがんの特性、患者さんの全身状態など、ひとりひとりの状況によって大きくかわります。

がんは「治る」「治らない」の二分法ではなく、その間の「どちらかわからない」という状態があること、そして、多くの患者さんが「がんが治った、治らないに関わらず不安や心配ごとがある」ということについて、ぜひ知っていただき、がん患者さんの視点で見たときに、どのような課題があるか、どのような支援ができるか、に関心をお持ちいただきたいと思います。

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帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 教授

渡邊 清高 先生

患者さんとご家族、地域の視点でがんを診る。 日本人の2人に1人が一生のうちにかかる「がん」。がんの診療、臨床研究とともに、研修教育に携わる。がん対策の取り組みの一環として医療に関する信頼できる情報の発信と、現場と地域のニーズに応じた普及の取り組みを実践している。